これでもう直ぐ終わりそうだ。
3人の茶番、配役が決まった。これでもう直ぐ終わりそうだ。
「なっ、何者?」
「何者? だなんて聞かれたら……」
「……答えるわ。えぇ、答えるわ」
すごい。完璧に『ヒヒン戦隊パカパカパッカー』を再現している。観客席には、涙を流す人もいるが、茶番はまだまだ続く。
「だから、何者なのよ!」
「はやきこと、彗星の如し……」
「……つよきこと、木星の如し」
「……くっ……」
「大川慶子!」
「柏木集子!」
「……だっ、誰?」
「言わずと知れた……」
「……悪の使者よ」
見事に完成を見た茶番。会場からは割れんばかりの大拍手が巻き起こる。なお、この模様はツイやインスタで拡散されたもよう。
慶子と名乗った少女は、長くて艶のある髪。基本的には黒いけど、光の具合では濃い青にも見える。いわゆるポニーテールだ。背は低くて痩せていて、肌は紫亜たんとは対照的に小麦色に焼けている。健康優良少女といった雰囲気だ。
対する集子は、マロン色の髪を肩の下まで真っ直ぐに伸ばしている。背が高くて、皐月アナの妹かよってくらいに出来上がった肉付きだ。インドア派なのか、肌の白さは紫亜たんと甲乙つけ難い。
僕は2人のことを知らなかったけど、ここまでいいところの何もない皐月アナは2人のことを知っていた。
「大川慶子って、あの大手マーケットブリーダー・大川牧場の娘じゃないの!」
「そうよ、あの大川牧場の1人娘よ!」
マーケットブリーダーというのは、競走馬を生産して競市などで売却する牧場のこと。馬主が好む血統の馬をどんどん世の中に送り出す。なるほど、焼けた肌はきっと家業の手伝いをしているからだろう。妙に納得する。
「一方の柏木集子って、どこにでもいる成金の娘では?」
「そうよ。お父さんが仮想通貨やFXで大儲けしたのよ!」
仮想通貨とFXとは、筋金入りの成金だ。きっと四六時中端末の前に座って過ごしているのだろう。そう考えると色白なのも僕なりには納得する。
気付いたら、2人はステージに登っていた。2人揃って目立ちたがり屋さんのようだ。そして紫亜たん、慶子さん、集子さんの3人は三つ巴に睨み合っていた。女の闘いだ! ちょっと怖くて、久し振りに思った。早くお家に帰りたい。
三つ巴の睨み合いから最初に言葉を発したのは紫亜たん。かなりのおこだ。
「どうして高笑いなんかしたの? イダテンタローくんに失礼でしょう」
紫亜たんが僕を気遣ってくれている。僕のために怒りをあらわにしてくれている。何だかうれしい。おうちに帰っている場合ではなさそうだ。
「そうね、ごめんなさい。でも、どうしても許せなかったの!」
意外にも素直に答えたのが慶子さん。マーケットブリーダーらしく、ダービー制覇の道のりがどれほど過酷なものなのかをコツコツと語る。専門家の貴重な意見だ。軽い冗談で『ダービー制覇』なんて言ったことを僕なりに反省した。
僕の好みはあくまで紫亜たんで、慶子さんは好きなタイプとは違う。だけど真剣に意見を述べるときの慶子さんの表情を見ていて、僕は慶子さんに謝りたくなった。そうしないと慶子さんがいたいけで、かわい過ぎてキュン死しそうです。
「慶子さん。気を悪くしたのなら、本当にごめんなさい」
と、紫亜たんが不機嫌そうな顔になる。僕が謝ってしまっては、僕のためにあらわにした怒りの矛先がなくなってしまう。その意味では、集子さんがいてくれて、本当に助かった。その代わり、事態がおさまらない。
「まぁ、いいわ。では、集子さんはどうして高笑いしましたの?」
という具合に紫亜たんの怒りは見事に集子さん独りに向かう。それでも、集子さんは全く物怖じせずに自分の意見を述べる。
「ダービーなんていう小さな目標に呆れていたのよ!」
慶子さんとは真逆の発想だ。集子さんは、ダービー制覇はお金さえあればできると続けた。成金の娘らしい勝ち気な意見だ。僕はちっとも共感できなかった。だけど、意外にも紫亜たんは納得していたみたいだ。
「なるほどです。一理ありますね」
「そうよ。だから私は思うのよ。目標として掲げるなら、3冠制覇だって!」
深い衝撃が走った! 3冠というのは皐月賞・ダービー・菊花賞の3つのレースのことで、時期も距離も全く違う。加えて、成長期真っ只中の3歳馬限定だ。ダービー1つを勝つのに比べて、単純に3倍の難易度だ。
「無茶だ! 3冠制覇なんて、史上7頭しかいないのよ!」
と、慶子さんが大声を張り上げる。無理もない。競馬は素人の僕でさえそう思う。会場もざわざわとしはじめる。けど紫亜たんはそう思っていないようだ。紫亜たんが挑発的に言うと、売り言葉に買い言葉となる。
「あら、大川牧場では荷が重いのかしら。3冠制覇はハナから無理なの?」
「チッ……そうは言わないが……上振れを狙えば、下振れも発生するものだ」
「リスク上等! 私が買ってあげるわ。牧場ごとでも良くってよ」
会場はドン引き。景子アナも僕もドン引きだ。盛り上がっているのは紫亜たんと慶子さんと集子さんの3人と、皐月アナ。
「3人とも中学2年生でしょう。競馬でバトルするっていうのはどう?」
皐月アナがとんでもないことを提案してきた。簡単には終われそうにない。
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皐月アナの提案に、3人はどう向き合うのでしょう。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございます。
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