第10話

 一人で駅へ向かう。

 会えただけで充分だ。

 元気で過ごしているのも分かったし。

 なのに何故か、心がざわつく。


 ホームのベンチに座って空を見上げた。

 この街でも星が見えるんだな。

 そんなことを考えていた。


「しょう!」

 え、なんで?

 言葉を発せないでいると

「何ボーっとしてるの?」

 と笑う。


「綾こそ、何走ってきてるの?息切れてるじゃん」

うまく笑えたかな?


「まだ話したいことがあるから」

「私もある」


 結局、電車を3本見送った。



「あの時はごめん。ほんとは、今日はそれを言いにきたの」

「あの時?あぁ、デートの日?」

「うん。かばってくれてありがとう」

「大丈夫だった?」

「うん」

 父は、綾との約束を守り、手を上げることはなかった。


「さっきの話、違うからね。」

「ん?あぁ、渡辺くん?」

「今は誰とも付き合う気はないし、そんな暇もない。夢が出来たんだ」

 誇らしげに言う綾を見てたら思い出した。

 楽しそうに跳んでたあの頃の綾を。


「夢?聞いてもいい?」

「正義のミカタ」

 照れたように笑いながら言う。

「綾らしいね」

 心からそう思った。

「そう?そう言ってくれたのは、しょうが初めてだよ」

 みんな、ナニソレ?って笑うんだよ。     

 と拗ねたように、でも、嬉しそうに言う。


「綾は凄いな、どんどん前を行っちゃう」

 私は、まだ留まったまま動けないでいるのに。


「しょうのおかげだよ」

「え?」

「私も変われたんだよ、しょうに出会って。高校に入学した頃は荒れてたでしょ?あの頃のままだったらどうなってたか…それをあの時言いたかったんだ」

「最初は、とんがってたもんね。級長としては苦労したよ」

「しょうのおかげで、大学ではちゃんとやれてるよ、ありがとう」


 綾はもう、あの頃の綾じゃないんだね。

 私も成長しなきゃ。


「ねぇ綾、あの時も言ったけど私は諦めてないよ。でも今じゃない。今の私じゃダメだって分かった。何年かかるかわからないけど、自分に自信がついたら、もう一度会いに来る。待たなくていいよ、綾は綾らしく幸せになって欲しいから」


「ん、じゃ、競争だね。お互い夢に向かって走ろう!」

「え、なにそのセリフ?昔のドラマ?ちょ、もう、おもしろ、、すぎ」

「え〜そんな泣くほどおかしい?」


 こうして、泣きながら笑って綾と別れた。


 私には、まだやらなければならないことがある。

 私の初恋は、まだ終わらない。


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