第7話

「そろそろ帰ろうか」

 落ち着いてきた頃、綾が言った。

 辺りも薄暗くなってきていた。

「うん」


 電車に揺られ、今はまだ私たちの街へ帰る。

 春が来たら、綾は少し離れた少し都会で新生活をスタートさせる。

 降りる駅が近づく頃には、すっかり暗くなっていた。

 電車のスピードが遅くなりゆっくりと止まる。

「じゃあね」

「うん」


「え、なんで綾も降りるの?」

「送るよ、家に帰るまでがデートだから」

 スルーされたと思ってたけど、ちゃんと聞いてたんだ。

 綾もデートと思ってくれてたの?

「それ遠足じゃないの?」

「そうだっけ?」

 クスクスと笑う。


「ここのブランコ好き!」

 家の近くの小さな公園。

 学校帰りに何度か、綾とたわいもない話をした公園だ。

 他にも、この街のいろんな場所で、学校で、綾との思い出がたくさんある。

「綾がいてくれて良かった」

「え?」

「私、綾と出逢って変われたんだよ。高校入った時はふてくされてたからね。綾を見てたら前向きになれた。3年間楽しかった」


 今度は私の意思で、綾を抱きしめた。

「さっきは諦めるって言ったけど、やっぱり諦められない。綾を、綾との未来を。今すぐじゃなくていいから…」

「しょう、私も…」


『何やってるんだ!』


 突然、背後で怒鳴る声が聞こえた。

 聞き覚えのある声が。



「お父さん!」

『何やってるんだ、お前は』


 私たちの方へ向かってきたから止めようとして近づいたら、突き飛ばされた。

「わっ!」

「大丈夫?」

 綾が心配して起こそうとしてくれるけど。

 そんな綾にお父さんは近づいて。

 殴られる?

 胸ぐらを掴んでる。

『貴様、、ん?女の子か?』

「お父さん、やめて。お願い」

『どういうことだ?』


 再び、私に近づいてくる。


「そういうことです」

 綾が静かに言う。


『なに?そうか、君のせいで祥子は…』

「そうです」

「綾、何言ってるの?お父さん、綾は関係ないから」

 私の言うことには聞く耳持たず綾と対峙している。


『祥子と二度と会わないでくれ』

「え…」

『二度と会うな!」

「…わかりました。その代わり、手をあげないでください」

『なに?』

「約束してください」

『わかった。行くぞ、祥子』


「綾っ!」

「しょう、元気で」


 私の初恋は

 こんな別れ方だった。

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