第6話

 女の子たちが去っても、動くことが出来なかった。

 綾も、座ったままだ。


 このまま帰ってしまおうかな。


 もしも、私がこのまま帰ってしまったら、綾はどうするだろう?

 そんなのわかりきってる。

 ずっと待ってる。

 綾は、そういう子だ。



「お待たせ」

「あぁ、おかえり」

 なんで、そんな笑顔で言えるんだろう。

「ごめん、遅くなって。待っててくれてありがとう。帰ってこなくて心配じゃなかった?」

「そんなに観覧車が嫌なのかぁとは思ったけど、絶対戻ってくると信じてたから」

「あぁ、うん。それもあるかな。高いところダメだし」

「無理に乗らなくてもいいよ」

「そうだね、話したいことがあったんだけど、観覧車の中ではそんな余裕ないと思うから」

「じゃ、観覧車を見上げながら、聞こうか」


「あぁ、うん。えっと。今日はありがとう!楽しかった」

「私も楽しかったよ」

「良い気分転換になったし。綾が聞かなかったから言わなかったけど、実は第一志望の大学、落ちたんだ。さっきも電話で親に散々言われた」

 綾は笑顔から真剣な表情になった。

「何か言われたの?」と聞いてくれる。

「大学落ちたくせに何遊んでるんだ。みたいな」

「酷いな、しょうは頑張ったんだから、堂々と遊べばいいよ。しょうが頑張ってきたこと、私が知ってるから」

「親にとっては結果が全てみたい」

「私からしたら、第二志望でも凄いところだけどねぇ、優等生は辛いね」

「優等生なんかじゃないよ。でも、ありがと。綾のそういうところ、好きだよ」


 あぁ、やっと言えた。

 綾が好き。

 返事がないから、もう一度ちゃんと言った。


「うん、知ってる」

 綾は静かに答えた。



 え?

 その答えは、想像してなかったな。

 yesかnoだと思ってたから。


「知ってた?」

「うん」

「そっか、それが答えなんだね」

「狡くてごめん。気付かないふりをしてた。noって言ったら今までの関係が壊れてしまいそうで、かといってyesって答えても、どうしていいかわからなくて。わからないんだ、好きなのかどうか」


「うん、わかった。私も同じようなものだから。今まで告白する勇気もなかったくせに、会えなくなると思ったら無性に寂しくなって。これできっぱり諦められるよ」

 今日は無理にでも笑ってサヨナラしたい。

 楽しい一日だったから。


「しょう……泣いていいよ。私の胸、貸してあげる」

「なに言っ……」

 問答無用で抱きしめられた。

 綾の鼓動を感じながら、少しだけ泣いた。


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