第3話 ブレインストーミング(1)
「個別に、いくつかの作戦を組み合わせていくしかないな。アイデアは多いほど良いから、ここからは思いついた端からメモしていこう」
メモ帳をめくり、白紙のページを開く。
そこに、1.仕入れ 2.幹線 3.お届けと、それぞれに広めのスペースを空けて枠を取った。ここからはブレインストーミングの時間だ。
「誰か、思いつくことはある?」
「はいはい!ではセナから!」
「いいねえ、1番セナさん」
「うちの倉庫と郵便ギルドの倉庫の間に、地下通路を作るのでシカ!なんならトロッコの
見事なドヤ顔。こうしてみると、セナもしっかり美少女だ。それでいて表情が豊かだから、実に画面映えする。
しかも、出てきたアイデアも悪くはなかった。
「実は俺も一瞬考えたんだ。着眼点は良いと思う」
「おお、いけるでシカ!?」
「ブレン、どうだ?」
「あー、予算と時間の問題もあるが、一番の問題は地下が結構混み合っているという点かの」
苦笑いするブレンに、セナはきょとんとしている。
「地下が、混んでいるのでシカ?」
「スチールフロントに限らず、ドワーフの都市は各家庭でやたらめったら地下を掘っているんじゃよ。こればっかりは性分じゃから、国として止めるわけにもいかん」
「ドワーフは蟻の親戚だったでシカ……」
更に言うと、今後サリオン通販がどんどん倉庫を増やしていくに当たって、毎回地下通路を拡張していくのは時間と予算がかかりすぎる。敢えて否定はしないが、実現性を考えると難しいアイデアと言えよう。
まあ、とはいえ。
「いやいや、しょんぼりする必要はないぞ。こういう大胆な考えって、突破口になる事が多いんだよ。候補としては残しておこう」
「ドワーフ的にも、好みではあるぞい。いつか、何らかの形で実現するかもしれん」
「おっと、やっぱりそうでシカ?セナの才能、見せてしまったでシカねえ」
セナはあからさまに機嫌を直し、ふんすと鼻息を吐きながら手元の唐揚げに噛り付いた。
俺は2の欄に“専用地下通路での輸送”と記載する。
「次、わたしからいいかしら?」
俺が書く様子を見ながら、アニエスが控えめに手を挙げた。
彼女は物流については門外漢だが、魔法だけでなく魔導システムも極めた天才である。その閃きにはぜひとも期待したい。
「お客さんに、郵便ギルドまで取りに来てもらうのはアリかしら?」
「うん、アリだな」
アリだが、アイデアとしては平凡だったな。いや、すぐに実現できてコストも比較的掛からないから、有力な案ではあるが。
「引き取りに来た人に1ゴルドのキャッシュバックみたいな形にしたら、お客さんがこの選択をする可能性も高まると思う」
「その1ゴルドは郵便ギルドに出させることも出来そうじゃな。配送の中で一番高くつく、ラスト1マイルのコストが浮くわけじゃからの」
ラスト1マイルとは、郵便ギルド末端の配送店からお客様に受け取ってもらうまでの部分を指す。
ここで重要なのは、お客様の家に行くことがゴールではないという点だ。お客様は常に在宅であるとは限らず、不在の場合はわざわざ不在票を書いて商品を持ち帰る必要がある。
ただでさえ、個別の家を回る配送効率は悪い。実は、ある家庭に2回以上届けようとすると、運送会社はそれだけで赤字になる。配送員の時間もトラックの積載スペースも、無料ではないのだ。
これを避けるため、郵便ポストに入るサイズの商品梱包をできるだけ増やしたり、不在の場合も配送員が軒先に商品を置いて帰る”置き配”といった取り組みが行われていたりする。
……といった補足を、アニエス・シャイル・セナの三人は口を開けて聞いていた。
この辺りはいろいろ面倒だし、知らない人には未知の世界だから、頭に入りにくいのも無理はない。
「というわけで、これもメモに追加しよう。いいね、どんどん埋めていきたい」
言いながら、3に“引き取りに来てもらう”と書き足す。
実は、経験上このサービスもそこまでの効果は見込めない。おそらく、全ての配送に対して引き取りに来る人の割合は1%未満になるだろう。
そもそも、お客様は郵便ギルドまで引き取りに来るくらいなら実際に街まで足を運んで買い物をする人が大半だ。通販を利用する最大のメリットは、家まで届けてくれることなのだから。
また、郵便ギルド側も、今までやっていない“倉庫現場でのお客様対応”という業務を始めなければならない。倉庫内作業とお客様対応は、仕事の質としてほぼ対極にある。現場のストレスも考えなければなるまい。
郵便ギルド側も、ラスト1マイルが軽減されたからといって、そう簡単に応じてくれるとは期待できない。ブレンに交渉させれば拒否はしないだろうが、一方的に負担を押し付けても長続きしないしな。
……とまあ、苦い経験ばかり思い出してしまうのは俺の悪い癖かもしれない。
口には出さないものの、顔とか仕草に出てしまうとも限らない。前向きにいこう。
順番的に、次はシャイルかなと思ってそちらを向くと、ばっちり目が合った。
「じゃあ、次は私ですね」
意外と言っては失礼だが、彼女も自信ありげに手を挙げた。
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