第4話 ブレインストーミング(2)
「じゃあ、次は私ですね」
意外と言っては失礼だが、シャイルも自信ありげに手を挙げた。
三人の中では筋肉担当となっているものの、彼女は元々士官学校に通っていた時期もある。考えることが苦手というわけではない。
「定番商品の専用倉庫を建てるのって、どうかしら?」
「うん?どういうこと?」
「例えば、ある程度大手企業の本社の集まっている区画ってあるでしょ?あの近くに、企業が買いそうな商品だけを集めた倉庫を構えるの」
むむむ?これは効果的な施策になる匂いがするぞ。
「なるほど、商品を絞る代わりに密度を上げて、集中的に在庫しておくわけか。で、発注間隔を広めにとる、と」
「ええと、そういうことになるの、かな?」
「1回あたりの納品量は多くなるけれど、同じ商品ばかりだから検品や仕分けの効率も良くなるはずだな。倉庫の稼働率も上がるから、コストダウンにつながる」
「そうそう、そういうことなのよ」
「シャイル、自分のアイデアについていけてないでシカ」
セナは半眼でツッコむが、この辺りを
「その場合、どの商品をストックするかの選定と、最適在庫量の計算がカギになりそうだな」
「その辺りは、データから自動計算できると思うわ。できれば1年分の蓄積は欲しいけれど、とりあえず24日もあれば動かせる」
俺の言葉に、アニエスも現実味を感じてくれているようだ。ブレンはどうかな。
「ブレン、そういった倉庫をオフィス街に構えることってできそうか?」
「流石にど真ん中は止めた方が良いのう。地価も高いし、そういう場所は企業に使わせてやりたい。じゃがそこに近い区画でアクセスの良い、元工場みたいな場所は見つかるじゃろう」
「いいね、試す価値はありそうだ」
俺は1に“専用倉庫”と書き、2と3に向かって矢印を引いた。
そういえば、
地球に戻ったら、提案してみても良いかもしれない。そう言えば、もう何十日も戻っていなかったっけ。
「ブレンは何か思いつくか?」
「儂の案ではないが、地球ではロッカーを設置する取り組みがあったじゃろ。あれは使えるか?」
確かに、通販の受け取りを駅などに備え付けられたロッカーで行う試みはある。
だが、成功していればもっと一般に語られているはずだ。そうでない現実を見るに、推して知るべしではある。
「ぶっちゃけ、成功とは言えないかな。あやるくらいなら、郵便ギルドまで引き取りに来てもらった方が良い」
「え、引き取りってその程度の扱い?」
「いやいや、そういう意味じゃないけど」
ロッカーの仕組みも、意外と面倒なのだ。リアルタイムでどのロッカーのどの棚が空いているかを管理し、お客様が買い物をする瞬間にお買い物画面で適切な提案ができなければならない。
ロッカー本体も雨風で経年劣化するし、システム維持費も無料ではないとなると、コストに見合った効果は期待できないというのが俺の理解だ。
そのフォローを聞いて、一応アニエスも納得したようだった。
「システムで解決できることは沢山あるんだけど、その分アニエスの負担が重くなるからな。優先順位は考えたいんだ」
「ふーん。まあそういうことにしておくわ」
「と言いながら、姐さんの耳、垂れてるでシカ」
「ほんと、プロデューサーってば姐さんの扱い上手よね」
「あなたたち、今夜は野宿ね。家に入れないから」
女三人寄れば
途端に盛り上がり始める彼女らを無視して、ブレンがこちらに水を向けてきた。
「リュートは、何か妙案を持っていたりせんのか?」
「いくつかあるけど、一番筋が良さそうなのはベンダー倉庫からの直接配送かな」
「ふむ?」
「またこの絵を見てほしいんだけど」
俺はメモ帳を開き、車輪の片方を指差す。
「サリオン通販から見ると、各ベンダーは一つの点に過ぎないんだけど、例えば大手の卸売業者ってそれ自体がもう一つの車輪のような存在なんだよ」
卸売業者は、自分の販売網に応じたいくつもの仕入先を持っている。
それらの商品を一度自分の倉庫に集めた上で、小売業者たちに卸しているのだ。
物流全体を眺めた時に、この商品をわざわざサリオン通販の倉庫に納品する価値は、ある場合とない場合がある。
この辺りも深く考えると本一冊書ける世界なのだが、サリオン通販が受けた受注に対して、卸売業者の倉庫から郵便ギルドが直接お客様にお届けする形については、前向きに検討して良いだろう。
おそらく、大手の何社かはその
ブレン以外の三人に伝わったかどうかはわからないが、とりあえずメモ帳の?に”仕入先からの直配”とだけ書き込んでおいた。
こんな調子でこの日の夜は他にも5,6個のアイデアが出たが、やはり「これ!」という革新的な解決策は浮かばなかった。
やっぱり、有力そうな施策を積み重ねていくしかないかな。データを見ながら、それぞれの施策を比較検討していくしかないみたいだ。
そんなことを話しながら、この夜は解散となった。
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