《剣聖》なのにパーティーから追放され、殺されそうになりました~もうパーティーには関わりたくないですが、ヤられたらヤり返します。女の子達を鍛えるっていう約束もしてるし死ぬわけにいかないんですよね~
時雨
☆☆☆
「アーノルド・レイズ、お前をここから追放する!!」
「えっ、なんで……?」
所属しているパーティーでクエストを消化している最中、俺はリーダーのカイトに呼び出された。みんなが大量のオークと戦う中、1人だけ。
唐突な言葉に意味も分からず首を傾げる。
だって俺、《剣聖》なんですけど……
「なぜって、新しい剣を使うメンバーが入るからだ」
「急にそんなこと言われても……俺は剣では負けなしですよ?」
「でもお前が使えるのは剣・術・だ・け・だろう? この前酒場で話していて聞いたんだが、今どきの剣使いはみんな魔法も使うそうじゃないか。話通り、すぐに見つかったよ。どっちも操れる優秀なやつが」
「魔法は魔術師に任せればいいんじゃないですか?」
「違うんだ、アーノルド」
カイトは大きくため息をついた。
「お前の剣の腕は確かだ。しかし、魔法と剣、どちらが強いと思う? ……いや、聞き方が悪いな。お前の腕なら魔法にだって通用するするだろうから。使い勝手がいいのはどっちだと思う?」
「それはまぁ……」
魔法だろう。剣では攻撃がどうしても限られてしまう。
「そういうことなんだよ。魔法と剣が組み合わされば、さらに使いやすくなる。それに……あぁ、ついにお前の汚ぇ顔面を見ずに済むんだ。清々するな」
カイトがトン、と俺の肩を押した。
まずい。俺たちがオークと戦っていたところは崖の近くだ。それで、カイトに呼び出されていたところは崖のすぐ側。下は海だ。
なんで気づかなかったんだ。本当の意図を。
「さようなら、《剣聖》さん」
遠くなっていくカイトの顔面を思わず睨んだ。
俺は絶対、死なねぇ。
俺が生まれた家は田舎の農家で、それはそれは貧しかった。ご飯が腹いっぱい食えることなんてまずなかったし、むしろ2食食べられる日があれば上等。全く食べられない日だってあった。
井戸は近くになくて汚い川から水を汲んで飲み、腹を壊してたくさんの兄弟が死んだ。
そんな貧しい生活から早く脱却したくて、俺は物心つく頃から、必死に剣の腕を磨いた。
もちろん独学だから型はめちゃくちゃ。だけど野生動物とかを相手にしているうちに、だんだんこなれるようになってきた。
そして俺は家族に飯を食わせるため、冒険者になった。
冒険者の主な仕事は2つある。
1つ目は、ダンジョンの攻略。いつからか街の中心部にできたダンジョンを攻略し、貴重な鉱石を取ったり、ご飯にもなる魔物を取ったりする。
2つ目は、ダンジョンから溢れ出してしまった魔物の討伐。
他にも色々あるが、この2つが最も重要なものだ。
――つまり冒険者は、常に魔物と戦うことになる――
ただでさえ死亡率の高い職業だ。
弱い者が一攫千金のために戦ったとしても、いくら命があっても足りないので、冒険者になるためには試験に受からなければならない。その試験を俺は楽々パスし、見事冒険者になった。
14歳で冒険者になった俺は、15歳になる頃には《剣聖》として才能を発揮しはじめ、高名なパーティーに入れてもらえることになった。
ちなみに《剣聖》は、剣術に長けたもの全般を指し、この称号をもらうにはかなり難易度の高いクエストを1人で成功させなければならない。
そんなこんなで俺はパーティーでもそこそこ貢献していたはず、なのだが――
「……きて、起きてください」
頬をペチペチと叩かれる感触で意識を取り戻した
目を擦り、周りを見渡す。
どうやら誰かの家の中らしく、綺麗な女の子が2 人揃って涙目で俺を見ている。
……ひとまずは命拾いした、ということなのだろうか。
「良かった。目が覚めて。一時は危なかったんですよ?」
「ソフィアのお父さんがすぐ見つけていなかったらどうなっていたか……」
パチパチと瞬きする。
どうやら、この2人の女の子のお父さんが見つけてくれたらしい。
「た、すけてくださったのですか……」
回らない頭でそれだけ言うと、金髪の少女がギュッと手を握ってきた。
「えぇ。しかし助けたなんて大層なものではありません。少しばかり、看病していただけですから」
「そうですよ。まだ病み上がりなので、ゆっくりしていってください」
光の加減で薄紫に見える髪の女の子は金髪の子の後ろで頷いた。
「ちなみに私がアリス」
「ソフィアはソフィアと言います。アリスの双子の妹です」
「アリスさん、ソフィアさん、ありがとうございます。俺はアーノルド・レイズと申します」
どうにか起き上がって頭を下げると、2人はアワアワと手を振った。
「いえいえ、そんなかしこまらないでください。どうぞ呼び捨てにしていただければ」
「では、俺のこともアーノルド……いえ、ノアとお呼びください。家族からはそう呼ばれていたので」
「そうなのですね。じゃあノアと呼ばせていただきます」
アリスがにっこりと微笑んだ。
それから1週間、俺はアリス達の世話になった。
ご飯を食べるときは口まで運んでもらい(そうすると言って聞かなかった)、たまに膝枕されたりもして、ゆっくりと休んだ。追放で受けた心の傷も、癒えるというものだ。
奇妙だったのは、そんな娘たちの姿を見て、父親がなにも言わなかったことだ。助けたとは言っても得体の知れぬ男。
普通だったら、注意だのなんだのするだろう。
「もう旅立たれるのですか?」
8日目の朝、アリスがまたも涙目になり俺に聞いた。もう体の調子も戻ってきてるし、これ以上留まると腕が訛りそうだ。
「えぇ。そろそろしなければいけないこともあるので。けれどその前に1つ……」
「1つ?」
「なにかお礼をさせてください。助けていただき、ここまでしてくださりながら、何もしないのでは俺の気が済みません。幸いお金はけっこうあるので……」
俺が所属していたパーティーは給料が高かったから、持ち金はある。
ていうかあそこ待遇良かったのによ、ちくしょう。どうせ俺を追放までした本当の理由だって、カイトの思いを寄せていたギルド嬢が俺を気に入っていたとかそんなだろ。全く追放までしやがって。もう戻れないんだもんな、あのパーティーには。
一緒に過ごしたのがたった1ヶ月だったのが、まだ救いだっただろうか。
「お金、ですか」
食いついてくると思ったのに、アリスは意外な反応を見せた。モジモジしたまま、ソフィアとなにやら小声で話し合っている。
アリス達の家、あまりお金がなさそうだったからこその提案だったんだけど。
「あの、欲しいものはお金じゃないんです」
しばらくしてから、アリスが意を決したように口を開いた。ソフィアはアリスの袖をギュッと握っている。
「私たちを、冒険者にしていただけませんか。いえ、鍛えていただけませんか。冒険者になれば、今よりずっと良い暮らしができると聞きました。あなた、冒険者なんでしょう? 冒険者の証の、指輪を嵌めているのを見ました……なので、お願いします」
「私からもお願いします」
2人して、頭を下げる。
……あぁ、そういうことか。だからあんなにも待遇が良かったんだ。父親がなにも言わなかったのも、全部このためだったんだな。
きっと最初に指輪――冒険者特有の、決して指から外れない指輪を見たときから、決めていたのだろう。
「その約束はできませんね」
わざと、冷たい声を出した。
ソフィアがひっ、と脅え、アリスにしがみつく。
「冒険者の仕事は、女性には厳しいので」
「そ、そんな理由で断られては……!」
「そんな理由、ではありません。ダンジョンにはいくらギルドが介入しているとは言っても、所詮未知の地下――つまりは無法地帯です。ソロで活動していれば、パーティーの男集団が獲物を盗りに来ることだってあります。それでもし死んだとしても、魔物に喰われた。これで全ての説明がつきます。だって事実なんて誰も、分からないんだから」
「ではなぜ女の私たちが!」
「女性は男性と違って力が弱い。なにをされるか分かったもんじゃありませんよ」
「……でも!」
「それなら俺が、毎月お金を持ってくる方がよほど建設的です。貴方たちは命の恩人だ。できるかぎりは、差し上げますよ」
戦わずとも、お金がもらえる。リスクを侵さないでいい。
これはけっこう、魅力的な案だと思うのだが……
「けれど私たちは、冒険者になりたいのです。お金をもらうだけじゃなく、一流冒険者になれば、地位も名誉ももらえます。引退したあとも安泰だとも聞きます。こう見えてソフィアも、村1番の力持ちです」
「ですから、お願いいたします」
また、2人で頭を下げた。
部屋の奥からは、アリス達の両親の視線を感じる。上手くやっているかどうか、気になるんだろう。
本気らしい。数年前の俺の目とよく似ている。
「分かりましたよ」
ふぅ、とため息をつく。
「ただし、冒険者になるのは楽じゃありません。ですので、とりあえずは自力で冒険者の試験に合格してください」
冒険者の試験は、それなりに鍛えていればちゃんと通る。もちろん、女の人でもだ。
「自力で……」
「えぇ。もし合格すれば、ギルドの受け付けで、《剣聖》のアーノルド・レイズに用があると言ってもらえればいいですから。そしたら、俺が一流の冒険者になれるよう、サポートするので」
「けんせいっ!?」
2人の鍛錬に付き合っていられるほど俺も暇じゃない。
「では、もう行きますね。今まで、ありがとうございました」
まだ驚きからか口を開いたのアリスの手に餞別――少しばかりのお金を載せ、俺は歩き出した。
パーティーからは除名されているだろう。もしかしたら、ギルドからも除名されているかもしれない。
その場合は仲のいいギルド嬢のマーシーに協力してもらい、ちゃんとまたソロで活躍できるようにしてもらおう。
「……めんどくさっ」
よく考えたら殺されかけたんだ。
追放への怒りも、またフツフツ湧いてくる。
沿岸ぞいを早足で歩きつつ、ため息をついた。
長いこと時間はかかったが、どうにかソロでの活躍を再開できるようになった。約2ヶ月くらいかな。
その間は熊などを仕留め、売り捌いた。
「で、今日からまた独り身ダンジョン生活か。懐かしいな」
もう何年も1人でしていなかった気がする。慣れとは恐ろしいものだ。
中に入ると、久しぶりの薄暗さ。
壁際にロウソクが立てられているとは言っても、やっぱり暗いことに変わりはない。
感覚でゴブリンの首を切り落とし、オークの心臓へと剣を突き刺す。無駄のない動き。できるだけ疲れないようにするためだ。
そういや、新しく俺代わりにパーティーに入ったメンバー、上手くやってるかな。まぁ、魔法が使えるんだったら、それなりに使えるんだろう。
たまにドロップしたものを狙って、悪党が襲いかかってくる。そうしたらそいつの首を掻き切る。殺人の趣味はないが、こうしないと自分が死ぬ。
躊躇なく殺さなければならない。
ダンジョン内で行われているのは、戦争だ。
だから、アリス達に冒険者になってほしくなかったんだ。2人は純粋そうだから。
1日目の収穫はかなりの量になった。このペースでいけば、余裕のある暮らしができるだろう。貯金だってできるはずだ。さっそく家も借りたし、今のうちに稼いでおきたい。
そんな生活を続けて、2年が経った。
ある日ダンジョンに潜ると、懐かしい気配がした。カイト達のものだ。
現在攻略されてるのは、上から数えて50層まで。カイトたちがいるのは……同じ1層くらいかな。じゃないと気配なんて感じれないし。移動だけで時間かかかるから、まぁ、それがもっともだろう。
攻略するには、大規模なパーティーで大量の食料を運び込み、交代でするのが理想的だ。
階層が増えるにつれ強い獲物も増える。
俺が主に活動するのも、ちょうど30層だった。
「……ちっ。どっちにしろ鉢合わせするのか」
俺が生き延びているのを知っているのかは分からないが、厄介なことに変わりはない。一応変装はしているが、気配でバレるだろう。
殺そうとしてくるのか、どうするのか……
「ヤられそうなら、ヤらなきゃいけないもんな」
もう二の舞は嫌だ。
「覚悟を決めろ、ノア」
俺の活動には、家族の食もかかってる。ようやく、1番下の弟が5歳になったところだ。腹いっぱい食わせてやりたい。
意を決して、俺はダンジョン深くへと潜り込んだ。
初めのうちは良かった。あまり他の冒険者に出会うこともなく、これなら無事帰れるかな、とも思ったのだが……
「アーノルド?」
残念ながら、帰りに見つかってしまった。
「お久しぶりです、カイトさん」
目と口をまぁるく開けた、元リーダーに。
「お前、死んだんじゃなかったのかよ!?」
カイトが俺のことを指さし、パーティーメンバーがザワザワと声を上げた。俺のことは、てっきりもう死んだんだと思っていたんだろう。
「残念ながら、生きていましたよ。ところで、どうです? そちらの状況は。楽しくやっていますか?」
「まぁ、楽しくはやってるけど……」
「ちょっとカイト、アーノルドは死んだんじゃなかったの? どうして生きてるのよ! 事故で死んだって言ってたじゃない」
パーティーメンバー唯一の女性であるメアリーが、カイトに詰め寄った。
「死んだと思ってたんだが……生きてたみたいだ」
「生きてたみたいだ、じゃないわよ! アーノルドがいなくなってから、このパーティーの評判ガタ落ちじゃない! あの《剣聖》を事故で死なせたって。給料だってかなり減ったのよ?」
「そうだぜ。急に新しいメンバーを連れてきたが、戦力外だよ。《剣聖》に比べりゃあ」
他のメンバーからもワイワイと不服が上がった。かなり、内部が荒れてたみたいだ。
「違うんだ。俺が悪いわけじゃない。コイツが悪いんだ! コイツが弱いから……」
「俺だって、そんな詳しい説明もなにもなく入ってきたので、知らなかったんですよ! 教えてくれなかったし! あの《剣聖》のあとだなんて!」
カイトは新しいメンバーに責任転嫁し始めた。もう終わりだな、人間として。
「まぁ、お互い頑張りましょう。では、俺はこれで」
ただ面倒なことには巻き込まれたくない。さすがにもう一度パーティーにお呼ばれになることはないだろうが。こいつらのプライドが許さないだろう。
俺が礼をして、立ち去ろうとした、その時だった。
不意に腕が掴まれた。目の前には炎。カイトの魔法だ。
「お前を、殺してやる……」
「愚かな人ですね」
お腹を一思いに斬る。
炎が直撃するよりも、俺の剣先の方が速かった。
「ガッ……?」
「遥か東の国では、罰を拭うために腹を切る文化があるそうです。これは、俺を崖から落とし、殺そうとした罪と、あまつさえ、今も殺そうとした罪だ」
血が顔全体にかかった。
メアリーが悲鳴を上げる。
俺はそんな元メンバーを横目に、地上を目指した。
あいつらカイトがいなくなって、どうなるんだろうか。知りたくはないけど。
「にしても、けっこうキツイな」
単なる知り合いじゃない。一時は、命を預けて戦った中だ。
「ほんと、世も末……」
ため息をつき、顔の血を落としてからギルドに向かう。
マーシーの前に行くと、見覚えのある2人がいた。
「アリスと、ソフィア……?」
「あっ、ノア! 私たち、ちゃんと合格したよ! 鍛えてよ」
「お、お願いします」
ちょっとだけ図々しくなった2人。
目から溢れるものを拭ったあと、俺は微笑んで2人に手を振った。
「久しぶり。まずは、ご飯でも食べにいこうか」
【あとがき】
もし評判が良かったら、連載しようと思っています。読んでくださって、ありがとうございました!
《剣聖》なのにパーティーから追放され、殺されそうになりました~もうパーティーには関わりたくないですが、ヤられたらヤり返します。女の子達を鍛えるっていう約束もしてるし死ぬわけにいかないんですよね~ 時雨 @kunishigure
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