〈第五章〉 Side:智雪麗 an Immigrant ②
わたしが16才のときに中国人である母が再婚しました。母にとっては三度目の結婚です。
相手は、木村という日本人。木村は、大阪で警察官をやっていたので、母は、大阪へ引っ越すことになりました。
わたしは、学校もあったので、そのまま池袋に残りました。
その時に、木村が、東京で離れて暮らすわたしを心配して自分の友人を紹介したのが香城だったのです。
木村の方が香城よりも年上でしたが、2人は古くからの知人のようでした。
木村は、一見粗暴にも見える雰囲気を持っていましたが、実際は知的で優しい人間でした。
血のつながりがないわたしのことを、本当の娘のように扱ってくれました。
母は、早い段階で白チ病に感染し亡くなりました。その頃は、白チ病が、漢民族特有の病気のような報道がされていた頃です。
母が亡くなった後も、木村は、わたしのころを気にしてくれていました。
大阪に来ないか、とも言ってくれたりもしました。
でも、わたしは、その木村の申出を断り、池袋に留まり続けました。
わたしは、大学4年生だったので、卒業に必要な単位は3年生のときにほとんど取得していました。
そのため、もう大学にはほとんど通わなくてよくなっていましが、そんなことは、この状況ではあまり意味がありません。
わたしは、持て余した膨大な時間を少しでもまぎらわすために、よく大学図書館に行っていました。
一度、大学図書館で顔見知りの後輩と遭遇しそうにったこともありますが、思わず後輩から隠れてしまいました。
わたしが、後輩から隠れた理由は、後輩が、香城を知っていたからです。
もちろん後輩は、香城に直接会ったことはなかったはずです。それでも、わたしは、他者と香城について会話する自信がありませんでした。
この感情を言葉にするならば、「嫉妬」というかもしれません。
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