〈第五章〉 Side:智雪麗 an Immigrant ①
わたしが、香城と会ったのは、16歳のときでした。
白チ病などが影も形もなかった頃なので、当時の香城は、「予言者」ではなく、ただの「学者」でした。
ただ「学者」とはいっても、博士号はありましたが、どこかの大学に籍があるわけではなかったので、無職状態でした。
それでも、香城は、特にお金に困った様子はなかったので、なんらかしらの収入源はあったのだと思います。
とにかく、わたしにとっては、不思議な雰囲気を持つ「大人」でした。
池袋北口にある喫茶店で、よくわたしは香城から「授業」を受けていました。
その「授業」の内容は、わたしが親や学校から教えてもらった常識とは全く異なるものであり、とても刺激的でした。
香城から教えてもらった知識が、私の世界を変えていきました。
香城が知識創造する世界の実現を想像しただけで、わたしの身体は熱くなっっていきました。
当時のわたしは、香城を本当に理解できるのは、自分だけだ、という強い気持ちで満たされていたのです。
大学に入る頃には、わたしと香城は、ほとんど会わなくなっていました。
わたしが、香城に連絡を取ろうとしても、取れなくなっていました。
わたしの中にあった香城への熱狂は、次第に冷めていきました。
高校時代とは違い、大学生としての日常は、自由でとても楽しかったこともありました。
アルバイトをし、多くの友人にも恵まれ、享楽的も言えるかもしれませんが、充実した毎日を過ごしていました。
楽しい……でも、どこか足りない。
そんな気分になったときは、大学図書館に蔵書されていた香城の本を手に取っ て自分を慰めていました。
結局、わたしの香城に対する熱狂は、わたしの身体の中で燻り続けていたのです。
そして、わたしが大学四年生になった春。
香城が、白チ病とともに「予言者」として現れたのです。
「預言者コウジョウ」
それは、高校時代のわたしが熱狂した香城という存在そのものでした。
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