20年越しの「みぃ~つけた」

チョッキリ

20年越しの「みぃ~つけた」


~ 1997年8月24日(日) 東京 17:00 ~



20年前の夏のことを僕は今でも忘れない。僕が思い出す彼女は、いつも白いワンピース姿にショートカットのあの日の彼女だ。


あれは彼女が引っ越す日の前日のことだった。


「あ…あの…」


彼女の隣には彼女の親友が立っていて、「頑張れ」とひそひそと彼女にエールを送っていた。


「す、好きです」


彼女は頬を赤らめ、僕に告白する。


「え?」


「…これ、あげる」


彼女は僕に普段から大切にしていた「宝物」をくれた。


「…いいの?」


僕は照れながら彼女の目を見て確認する。


「うん。私だと思って大事にしてくれる?」


彼女は顔を赤らめながら「宝物」を渡す。


「ありがとう」


僕はそれ・・を大事に抱えてその場を去った。


だが、その日が彼女と会った最後の日だった。






~ 2017年7月22日(土) 東京 18:00 ~



「みっちゃん、久しぶりだな」


地元の駅前にある居酒屋で、三橋の姿に気付いた眼鏡の太った男が親しげに声をかける。髪を立ち上げ、髭を生やした、太っていなければ・・・・・・・・イケている感じの風貌だ。


三橋は声をかけてきた男性が誰だかわからず、「ええっと…」と困ったような声をあげ、正直に「…誰?」と尋ねた。


この場は小学校の同窓会なので、確実に彼はクラスメイトの筈だが…。


眼鏡の男は三橋の反応に心外そうな顔をし、「おいおい~…」と大げさな声を上げる。


「やっぱあれか?俺が太ったから?皆、俺のこと誰だかわかんねぇっていうんだよ」


「えっと…」


「コージーだよ。コージー。田村浩二こうじ。…覚えてない?」


―――コージー…。


三橋は記憶の引き出しを開けて小学校時代の記憶を探る。


なにせ20年近く会っていない級友だ。アルバムでも持ってくれてば良かった、と三橋は後悔する。


「あれぇ、ホントに思い出せない?ショックだな。お前とはデパートのおもちゃ売り場で『ペアモン』のガチャガチャ回しまくったりしただろうが」


「『ペアモン』…」


「ペアモン」とはペアレント・モンスターの略で、モンスターペアレンツのような毒親のキャラクター達を捕獲して遊ぶ携帯型ゲームだ。


未だに人気はおとろえず、老若男女国外海外問わず、「ペアモン」と言えば知らない者がいないくらい世界的に有名だ。


当時はゲームだけでなく、アニメ、漫画、映画、グッズ、カードと全てのジャンルで「ペアモン」が人気で、生産台数が僅かしか無かった「ペアモン」の限定バージョンのゲームなどは今やプレミアがついて恐ろしい値がついている。


その中でも人気キャラと言えば、やはり「かみなりさん」だろう。


小さいハゲオヤジだが、可愛らしい声と怒ると雷を落として回るその姿は子どもだけでなく大人たちの心も鷲掴わしづかみにした。


「あ!もしかして…『包丁おばさん』使いのコージーか!」


当時は細くて背が高く、サッカーが得意で、人当たりが良い、クラスの人気者だったコージーだ。当時はクラスの女子にモテモテだったのを三橋は覚えている。


いわゆる、スクールカーストの頂点のような存在だった。だが、彼の良いところはそんな立場を鼻にかけることなく、地味で目立たない三橋のような人間にも別け隔てなく接してくれた。


「そりゃあモテるよな、いいヤツだし、スポーツもできるし、格好いいもん」と当時クラスの男子皆が彼の人気に納得していたものだ。


身長はどうやらあの時からあまり伸びなかったらしく、今はどちらかといえば小柄だし、体型も変わっていて全然わからなかった。


「そうだよ!てか、懐かしいな。『包丁おばさん』。そうそう。今でも時々あの『みーつけた』ってシーン思い出しちまうよな。今考えるとモンスターペアレンツっていうか、むしろ普通に危ないおばさんだよな、あれ」


「包丁おばさん」というキャラは「かみなりさん」の奥さんで、子どものことに関してなにかあると包丁をもって暴れる恐ろしいキャラだ。


アニメでは「かみなりさん」と「包丁おばさん」が喧嘩するシーンがよくあるのだが、どこに隠れていても必ず「包丁おばさん」に見つかってしまう。そのシーンがトラウマレベルで怖いのだ。


田村はその「包丁おばさん」のキャラクターをゲームで好んで使っていた。


「…確かに思い出してみれば、ミドリデパートのおもちゃ売り場でお小遣い全部使ってガチャ回したな。『包丁おばさん出るまで帰らない』って」


「お前も『ガトリングおじさん』欲しがってたじゃんか」


「あったなぁ」


三橋と田村は酒を飲みながら、「ペアモン」トークにしばらく花を咲かせる。


「しかし、久しぶりだなぁ。同窓会、全然参加しないからなぁ、お前」


「悪い悪い。なかなか忙しくてさ」


本当は何度も同窓会に参加しようと思っていた。しかし、なかなか勇気が出せず、今日まで参加を見送っていたのだ。


しかし、今日は…。


三橋は居酒屋のテーブルを見回して、目当ての女性を見つける。


田村とは違い、20年経ってもはっきり彼女だとわかる。


あの頃と変わらず、ショートヘアであの美貌…間違いなく花町茜はなまちあかねだ。


三橋の初恋の相手であり、今でも忘れられない恋の相手…。


20年前の夏、まさかあのやり取りが最後になるとは思わなかった。


彼女は小学校4年生の時に引っ越してしまったし、今回会えるかどうかは賭けだったが、勇気を出して同窓会に参加して良かった。


三橋は彼女の横顔を遠目に見て思わず頬を緩める。そんな彼の視線に気付いたのか、彼女はふと顔を上げ、そして三橋を見て確かに笑顔を向けた。


「!?」


30歳になって、既婚者のくせに、自分の顔が赤くなったのがはっきりとわかる。心臓の鼓動がドキドキと早鐘のように打ち、ソワソワと落ち着かない。


「ん~…誰かに会いに来た、とか?」


田村は馴れ馴れしく三橋の肩に手をかけ、ニヤニヤと笑う。


「ち、違うよ」


「ふーん、そっか。ちなみに今お前はなにやってるの?」


田村は三橋の仕事について尋ねてくる。久しぶりに会うと昔話に花を咲かせるか、近況報告になるのが常だ。


「SEだよ」


「エスイー?」


「システム・エンジニア。システムの設計とかする仕事」


「あ~。すげーな。プログラミングとかすんの?」


「あー、よく言われるけど…。それもやるけど、SEは正確にはプログラミングがメインの仕事じゃないんだよね」


三橋はSEの仕事について説明する。


「簡単に言えば、プログラミングを書くのがPG、つまり、プログラマー。そのプログラミングの設計図を書いたり、作業の進捗を管理したり、周りと調整するのがSEだよ」


「はあ」


田村は今ひとつよくわからないという感じで首を傾げる。


「家を建てるとするじゃない?その時、お客さんにどんな家を立てたいですか?いつ頃までにどんな内装の家が良いですか?とか詳細に聞くのがSEの仕事。家を実際建てるのがPGの仕事」


必要があればプログラミングも書くし、職場によってはPGとSEが同じ仕事をしていることもザラにあるが、まあ大体はこんなイメージだ。


「ああ、なるほど」と田村は頷く。


「で、田村は?」


三橋は「コージー」と昔のようにあだ名で呼ぶのが気恥ずかしくて名字で呼ぶ。


「俺は家業継いでさ。学校の近くに俺んちあったの覚えてる?」


「ああ、酒屋?」


「そうそう。今はあそこで働いてるよ。代わり映えのない日常さ」


田村は自分のことについてはつまらなそうに話す。


「楽だし、食ってはいけるけどさ、大学くらいは出ておけば良かったなぁ」


聞けば、田村は高校在学中に彼女を妊娠させてしまい、卒業と同時に結婚。そのまま彼の実家に彼女も一緒に住むことになったらしい。


上の子どもはもう中学生というのだから驚きだ。


「こうしてたまに周りと飲むのだけが楽しみでさ」


田村は大きくため息を吐いた。


「なあ、三橋は結婚してたっけか?」


「あー…実は2年前に結婚してて…皆にはまだ言ってないけど」


花町の方をチラリとみて、こちらの話を聞いていないことを確認しながら小さい声で言う。


「それはおめでとう。…なんだよ。ひそひそ話して、やっぱり誰か気になってるヤツいるんだろ?」


「いやいや、そういうわけじゃないんだ。でも結婚式とかに誰も呼んでないから気まずくてさ」


三橋は花町のことを悟られまいと必死に誤魔化す。


「…んなの気にするヤツいないだろ。俺なんか式すらあげてないしさ」


「お前の場合は事情が事情だからな」


高校在学中に子どもを作ってしまったら、バタバタして結婚式どころではないだろう。


「お前のところ、子どもは?」


「いや、まだ。そろそろって話はしてるけど」


妻の光葉みつはとは子どもはもう少しお金を貯めてからにしようという話をしている。


「…なあ、誰かになんか未練があるなら子どもができる前に済ませておけよ。子どもできるとマジで身動き取れなくなるぞ」


田村は顔をしかめる。


「しねぇよ」と三橋は首を振るが、「いや、真面目な話」と田村は続ける。


「子どもができると女は変わるぞ。子ども中心になるし、あっち・・・の方もどんどんご無沙汰になるし」


三橋と光葉もここ半年くらい、そういうこと・・・・・・をしていない。なんとなくそういう空気じゃなくなってきた感じがある。


「それで一度、クラスの…今日は来てないし、ここだけの話だぞ?」


「?」


田村は顔を寄せて、こっそりと秘密を打ち明ける。


「…水原まことって覚えてるか?」


「クラス1の人気者の?!お前…まさか」


田村はニヤリと笑う。


「そう。その水原と大人になってから再会して…何回か、な。で、それが嫁にバレた」


「げ」


クラスの女子の人気者だった田村だ。水原も当時の彼が好きだったのかもしれない。久しぶりに再会して、気持ちに火が点いてしまうことはよくあることだ。…かくいう三橋もまさに花町にそういう状態なのだから…。


「…嫁はそれ以来、俺のこと汚いものでも見るような目でみるし。子どもたちもその影響で真似し始めてさ。…困ってるよ」


「中学生っていったら反抗期だしな」


「そうなんだよ」と田村は大きくため息をついた。


「上の子は高校受験のために塾に通い始めたし、下の子も習い事始めるっていうんで、自分が自由にできる金なんかあっという間に無くなっちまってさ。俺は奴らのATMだよATM。遊ぼうにも小遣い取り上げられてるから遊べもしない。子どものことを考えたら離婚だって簡単にできない。仮面夫婦だよ、カメンフーフ。はぁ…結婚って不自由だよな」


「…わかる気がするよ。僕も生活の価値観の違いってやつを感じてる」


三橋は光葉との生活を振り返って呟く。光葉はかなり細かい。部屋の掃除の仕方や食器の洗い方、服のたたみ方まで厳密に決めている。そして三橋がそれを破るととても不機嫌になるのだ。しばしばそうした彼女のルールとぶつかり、揉めることがあった。


彼女は良い子だし、結婚したのは正解だと思っているが、そういうことを考えると時々憂鬱になることがあった。




結局、周囲の視線を集めながら彼女の近くへ行く勇気のない三橋は、田村と家庭の愚痴を言い合って同窓会の時間を過ごした。


「あ、この後、二次会でカラオケ行くんだけどお前もいかね?」


田村は店の外に出て他の同級生に呼ばれるのに応えながら、三橋を誘う。


長年同窓会に顔を出していなかったし、そもそもクラスではあまり目立つ方ではなかった三橋は二次会に混ざっても楽しめる気がしなかったため、「い、いや。家で待ってる人いるから」と断る。


三橋は慌てて断る。光葉みつはには「先に寝てていい」と伝えてあるが、あの子のことだ、きっとまだ起きているに違いない。


同窓会の幹事が全体に向けて解散の挨拶をし、それに合わせて「じゃあ、またな。声かけるなら、今がラストチャンスだぞ」と田村は肩を叩いて離れていく。


「ラストチャンス、か…」


三橋は呟いた。結局、田村にはバレバレだったらしい。


キョロキョロと周りを見回すと、田村と数名が集まって二次会に向けて歩いていくのが見えた。他にもいくつかグループに分かれて二次会に行くようだが、そのどのグループにも花町の姿はなかった。




―――もう帰ってしまったのだろうか。


連絡先も知らないし、せっかく彼女に会いに来たのに結局話す機会がなかった。


三橋は彼女を探すのを諦め、駅へと1人向かう。


他の同級生は何人かで固まっているため、1人でいると目立ってしまう。それが嫌で、三橋は少し時間を潰そうと駅前のコンビニに入った。


「「あ…」」


コンビニのレジに並んでいた花町茜はなまちあかねと再び目があった。彼女は手に冷たいお茶のペットボトルを持っていた。


「…」


三橋は花町に会釈をすると、コンビニの奥の飲み物コーナーへと足早に向かう。本当は凄く話しかけたかったが、何を話せば良いかわからず、まるで純情な少年のような振る舞いをしてしまう。とても既婚者とは思えない行動だ。


しかし、彼女と直接目を合わせて話す勇気はないが、後ろからでも彼女の姿を見たいと思った三橋は適当に飲み物コーナーで飲み物を掴むとレジにすぐに向かった。


会計を終え、コンビニを飛び出すと彼女の背中を探す。


「…流石にいないか」


「ん?誰か探してるの?」


「!?」


突然、真横から女性の声が聞こえてきて、三橋は飲み物を持ったまま飛び上がりそうになる。


「ははははははは、花町さん!?」


「やっほー!久しぶりだね、三橋くん」


花町は三橋に笑いかける。


「久しぶりに会ったのに、全然お話できなかったから残念だな、と思ったんだ。そしたらコンビニにいるからさ。嬉しくて待ち伏せしちゃった。…誰かとこの後飲む予定なの?」


「へ?なななななんで?」


動揺しているからか、舌がうまく回らず、声を裏返しながら花町に尋ねる。もちろん、自宅に直帰する予定だったので、誰ともこの後、予定などはない。光葉が家で待っているだけだ。


「いや、ほら、アルコール持ってるじゃない」


花町は三橋が手に持っている缶を指差す。


「あ…」


ろくに商品も見ずに買ったので、それが酎ハイだということに今気付いた。


「さっきのあれ、飲み放題だったのにまだ飲み足りないの?さては飲兵衛ですな?」


「いやいや…そんなことはないけど。てか、この後予定なんかないし」


「ふうん」


花町は唇に指を当て、「あ、じゃあさ」とウィンクした。






~ 2017年7月22日(土) 東京 18:30 ~


「かんぱーい」


「か、乾杯」


三橋は花町と酎ハイで乾杯する。2人で線路沿いの大きなグラウンドのある公園の一角に腰を下ろしていた。


「いやー、昔はこういうところでよく遊んだよね」


花町は顔を輝かせ、周りをキョロキョロと見回す。


「そうだね」


酎ハイを片手に無邪気に歩き回る彼女は20年経っても可愛らしいままだ、と三橋は思った。


「氷鬼とか、だるまさんが転んだとか、かくれんぼとか」


「やったやった」


三橋も覚えている。この公園は大きく、植え込みや段差なども結構あるので、かくれんぼをすると本気で見つからないのだ。


そういえば昔、皆でかくれんぼをしている時に、こっそりと抜け出したこともあったな、とふと懐かしい記憶を思い出す。三橋が戻ってきた時にはもうかくれんぼが終わってしまっていて悲しかった記憶がある。


「あ、そういえばさ、あれ・・、まだ大事に持ってるよ」


「え?なに?」


花町は首を傾げる。


あれ・・だよ。『かみなりさん』のぬいぐるみ」


「…え?」


花町は驚いた顔をする。三橋はその反応を見て、「しまった」と心の中で冷や汗をかく。20年前のプレゼントを後生大事に持っているなんて気持ち悪がられただろうか?


「うん。『宝物』って言ってたからさ。今でも捨てられなくて。…気持ち悪いかな?」


「ううん。大事にしてくれてて嬉しい」


嬉しそうに笑う彼女を見て、三橋はほっと胸をなで下ろす。


「久しぶりに見たいなぁ~、あれ・・。ねぇ、これから三橋くんの家に行っても良い?」


花町は酒を飲んで酔ったのか、甘えた声で三橋にねだる。


三橋はドキドキしながら、「い、いや、無理だよ」と首を振る。


「なんで?」


「なんでって…今、部屋、散らかってるし」


それに家には光葉がいるのだ。無理に決まっている。


「そう…残念。やっぱり仲良く・・・ならないとなかなか家には入れてもらえないか」


「え?」


花町は三橋に唇を重ねる。永遠に感じる程長い時間唇を合わせた後、花町は三橋を見つめて微笑んだ。


「…ね、今日はもう少し一緒にいない?」




『子どもできるとマジで身動き取れなくなるぞ』




頭の中に先程の田村の言葉が浮かぶ。三橋は光葉の顔を思い浮かべて、一瞬迷ったが、目の前で微笑む長年想い続けた相手の誘惑にあっけなく敗北した。


「…うん。もちろん」






~ 2017年7月23日(日) 神奈川 10:30 ~



「ただいまぁ~」


三橋は青ざめた顔で帰宅する。


はじめ、おかえり。昨日は楽しかった?」


妻の光葉みつはが眠そうな目をしながらパジャマ姿で出迎える。


「うん。…ごめんね。早く帰るって言ってたのに」


罪悪感で光葉の顔が見れないまま、謝罪をし、三橋は彼女の脇を通って自室に鞄を置く。


「オールするなら連絡くらいくれても良かったのに」


光葉は顔をしかめ、三橋をとがめる。


「ごめんごめん。盛り上がっちゃってすっかり忘れてた。ちょっと寝不足・・・だから寝るわ」


「…シャワーも浴びずに寝るの?」


布団が汚れるからシャワーを浴びて寝て欲しいのに、と光葉は言外に匂わせるが、三橋は「ん~…今日は良い」と服を脱ぎ散らかしてベッドに潜り込んだ。


よほど疲れていたのか、すぐに寝息を立てる彼をみて、光葉は「呆れた」と声を上げた。






それから三橋は婚約者の光葉に隠れて、花町茜はなまちあかねと何度も外で会った。


深夜や朝帰りが増え、光葉が「そんなに仕事忙しいの?」と心配するようになったが、「今は大変な時期なんだ」と誤魔化し続けた。


三橋は花町に夢中だった。






~ 2017年8月20日(日) 神奈川 13:00 ~



「ねえ、はじめ、この所ずっと土曜日の夜から日曜にかけて泊まりが続いてるけど」


玄関で靴を脱ぐ三橋に光葉が声をかける。


「ごめんごめん。なかなか忙しくてさ。週末にクライアントから緊急の連絡が入ることが多いんだよね。昨日はお盆休み前に言っていた内容と全然違う仕様の変更が入ってさ」


三橋はいつものように予め考えた言い訳を並べる。


「お盆休みだって結構仕事に出てたじゃない。…ねぇ、最近なんか変だよ?まさか…不倫とかしてないよね?」


光葉は聞きにくそうに尋ねる。


「そんなわけないだろ?」


三橋は「泊まりのペースを少し考え直さないと」と自分の行動を反省しながらネクタイを外す。


「疲れたから一眠りするよ」


「ねえ、ちゃんとこっち見て!!」


光葉は三橋の腕を掴み、顔を覗き込む。最近、あまり眠れていないのか、目に酷いくまができていた。


「…本当に信じていいんだよね?」


「いいに決まってるだろ?僕たちは夫婦なんだから…信じてくれよ」


三橋は光葉の頭にぽんぽん、と手を起き、そして寝室へと入っていった。


「…じゃあなんで泊まりの度にうちと違うシャンプーの匂いをさせてるのよ」


光葉は我慢できず、寝室に入って、三橋に疑問を投げかける。


「それは会社のシャワールームを使ってるからだよ。夏だし、暑いから汗掻くだろ」


三橋は服を脱ぎながら冷静に応える。


「今まで泊まりなんてなかったじゃない!!」


光葉は大声で叫ぶ。抱えていた不安が限界に達したのか、涙がポロポロとこぼれ落ちる。


三橋は顔をしかめ、「うるさいな」と光葉を睨んだ。


「疲れてるんだから大声出すなよ」


「同窓会でオールをした日からはじめ、なんか変だよ。今までスマホなんか持ち歩かなかったのに、最近はトイレに行くのにも手放さないし。誰とそんなに連絡してるの?」


「仕事だよ。クライアントから連絡がくるんだ」


三橋は迷惑そうに声を上げる。


「社用携帯があるのに?」


「…緊急の連絡の時、いつでも対応できるようにしてるんだよ。仕事のことに口を出さないでよ」


「…ッ!!」


光葉は涙を浮かべて三橋を睨みつけ、そして部屋を出ていく。


「…」


「花町と早く会いたいな」と心の中で呟き、そして布団で眠りについた。






~ 2017年8月22日(火) 東京 21:00 ~



ヴー…ヴー…


スマートフォンのヴァイブレーションが電話の着信を知らせる。


「…」


「さっきからいっぱい着てるみたいだけど、見たほうがいいんじゃない?」


ラブホテルのダブルベッドで隣に寝そべっていた花町が三橋にスマートフォンを見るように促す。


「うーん…」


内容が容易に想像できる。気は進まないが、これ以上、無視しても後々面倒だ。


三橋はベッドサイドに置いてあったスマートフォンを掴み、花町から画面が見えないよう、角度に気を使いながらメッセージを開く。


11件+着信2件だった。全て「橋本光葉」からの発信となっている。橋本というのは光葉の旧姓だ。三橋は結婚してからも面倒で表示を変更していない。


「今日も遅い?」「晩ごはんどうする?」「連絡ください」「(着信)」「おーい」「ちょっと~(スタンプ)」「返事してよ!」「忙しい?」「ねえねえ(スタンプ)」「ごめんね、これ最後にするから返信ちょうだい」「(着信)」「ねぇ、ひょっとして今日も仕事?」「今どこ?」「(着信)」


「大丈夫?最近、結構頻繁に着信あるけど」


花町が心配そうに尋ねてくる。


三橋はげんなりしながらスマートフォンの画面に眺め、花町に「大丈夫」と苦笑いする。せっかくの楽しい気分が台無しだ。


「ごめん、職場からだ。ちょっとこれだけ返信してもいい?」


三橋は花町に断わりを入れて、素早く「ごめん。今、仕事中。晩ごはんは食べて帰る。遅くなるから先に寝てて」とメッセージを打ち込み、送信ボタンを押した。


「これで良し」と三橋は頷く。


光葉はたまたま画面を開いていたのか、メッセージにすぐに既読マークがついた。


そしてすぐに3秒の音声ファイルが飛んでくる。


「?」


これまで2人のやり取りの中で音声ファイルなど使ったことはない。気になったので、つい、三橋はスマートフォンを耳元に当て、その音声ファイルを再生した。




「嘘つき」




ぞっとする程冷たい声が耳元でささやく。


「!?」


すぐに次のメッセージを受信する。


「そこ、会社じゃないよね?」「ホテル アクアマリン?」「ラブホテルだよね?」「誰といるの?」


確かに三橋は花町とアクアマリンという名のラブホテルにいた。


「え?なんで…?」


ヴー…ヴー…と再びスマートフォンが震え、着信を知らせる。スマートフォンの画面に「(着信)」のアイコンが表示された。


発信者の名前はもちろん「橋本光葉」だ。


―――やばいやばいやばい。


三橋はドキドキとなる鼓動を押さえながら「ごめん、緊急の案件みたい」と花町に断わり、ベッドルームのドアを開けて、裸のまま、廊下に設置されたトイレへ駆け込む。


そしてスマートフォンの通話ボタンを押し、耳に当てる。


「もしもし?」と小声でささやいた。


「ようやく出た」と冷たい声で光葉が呟く。家の中にいないのか、風の音が聞こえる。


「な、なあ、なんだよ「ホテル アクアマリン」って?」


三橋は必死で白を切ろうと自らその話題を口にする。


「昨日、はじめのスマホにGPSを仕込んでおいたの。なんか最近怪しいから…」


光葉は普段聞いたことの無いような感情のこもらない無機質な声で返事をする。


「はあ?!GPS!?なんでそんなことするわけ?」


三橋はそのぞっとするトーンに寒気を覚えながら、小声で抗議の声を上げた。


「…ちょっと後で話し合おう。GPSだかなんだか知らないけど、それ、ずれたとこ指してるんだろ?心配させたのは悪かったけど、僕は今、本当に会社にいるんだよ。製品の納期が近くて皆ピリピリしてるんだ。…電話、切るぞ」


「今さっき、会社に電話したんだよ?出たのは大河内おおこうちさんって人。…はじめの上司の人だよね?」


「!?」


電話を切ろうとしたところに光葉の淡々とした声が飛んでくる。


「ねぇ、大河内さんにはじめのお仕事のこと聞いたら、『定時で帰ってる筈だ』って言ってたよ?今日も17時に仕事終えたって。…ねえ、本当はGPSのホテルにいるんでしょ?」


「?!」


三橋は思わずゴクリと息を飲んだ。上司にまで裏を取っているのか…。しかもGPSまで。…これはもう、下手な嘘は通用しない。


「はぁ…」と息を吐いて覚悟を決める。


「…ごめん、光葉、会社で仕事をしているって言って悪かったよ。実は光葉の言う通り…ラブホにいるんだ」


「やっぱり!」


「…待って。ちょっと待って。最後まで聞いてくれ」


怒りの声を上げようとする光葉の言葉を遮り、努めて冷静に三橋は話す。


「違うんだ。ラブホには1人で入ってるんだよ。ここってほら、防音設備整ってて静かだし、Wi-fiも飛んでるだろ?1人で仕事をして、疲れたら寝るのに丁度良いわけ」


「…」


電話越しからの光葉の追撃が止まる。その時、電話からかすかに「ウィーン…」となにか機械が動く音が聞こえた。


―――手応えはある。嘘をそれっぽくつき続けるしかない。


三橋は光葉に言い聞かせるように「考えてもみてくれよ」と続ける。


「『ラブホに1人で泊まって仕事してる』なんて言ったら絶対浮気を疑われるだろ?だから今まで言えなかったんだよ。ビジネスホテルよりも広いし、今はビジネスプランだってあるからラブホの方が総合的にコスパは良いんだ。暇つぶしにゲームとかカラオケもできるしな。ほら、僕がカラオケ好きなの知ってるだろ?」


「…」


三橋は必死に言い訳を並べ立てる。それに対する光葉のリアクションはなく、手応えがないのが不気味だった。


「だからさ…」


「…ねぇ」


光葉が三橋の声を遮った。


「305号室で合ってる?」


「!?」


直後にトゥルルルルル!!!!と部屋の内線がけたたましく鳴った。


「…やっぱり305号室だ。…最近のGPSってね、大まかな高さもわかるのよ。便利になったよね」


三橋は全てを悟る。


このホテルのフロントに今、光葉が来ている。…先程の音は自動ドアが開いた音だ。


―――まずいッ!!!花町さんには結婚していることも伝えていないが、とにかく隠さないと…


スマートフォンに耳を当てたまま、トイレから飛び出す。


その直後…


「ドンドンドン!!」と部屋の扉を叩くが聞こえた。


「!?」


三橋はビクッ、と身体を震わせる。


「大丈夫ですか!?」


ドア越しのせいでくぐもった女性の声が聞こえる。だが、その声は光葉のものではない。


三橋は慌ててドアののぞき穴越しに向こうを見るとそこには従業員と思しき年配の女性が立っていた。


「…返事がない。わかりました。マスターキーを使って開けます」「お願いします」というやり取りが外で聞こえた直後、部屋の鍵がガチャガチャと動く。


「!!!」


慌てて三橋は鍵に飛びつこうとするが、間に合わず、ドアが開かれた。


「あら!?」


従業員と思しき女性はそこに立っていた全裸の三橋を見て驚きの声を上げる。


「大丈夫ですか?相手の方からコンビニで通話中に突然苦しみ出したと聞いたので…」


「いえ…」


三橋は股間を隠しつつ、従業員の女性の隣に立つ光葉を見て息を飲む。


「良かった。心配したのよ。…ありがとうございます。後はこちらで」


従業員の女性にお礼を言いながら光葉は部屋の中にスルリと入り込む。


「ちょ…ちょっと」


光葉はずんずんと部屋の中に入っていく。三橋は慌ててその後を追った。


「ええと…とりあえず後はお任せしていいかしら?」と従業員の女性はトラブルに加担してしまったと気付いたのか、そそくさと部屋から逃げ出していく。


「待ってくれ、光葉」


三橋が光葉の肩を掴んだ時にはもう光葉がベッドルームのドアを開け放った後だった。


―――終わった…。


心の中で三橋が絶望の声を上げる。


ベッドには裸姿で驚いた顔をした花町茜はなまちあかねが…


「誰も…いない?」


光葉が眉をひそめる。


ベッドのシーツは乱れており、ゴミ箱には使用済みのコンドームが入っている。


明らかに事後のベッドルームだ。


しかし、光葉が布団をめくってもそこには花町の姿はない。


「どこ!?」


光葉は今まで聞いたことのないような獣のような声で叫びながらベッドの下をがばっと確認する。


「いない?」


部屋をキョロキョロと確認し、他に隠れられそうな場所を探す。


「…ここか!」


さり気なくクローゼットの前に立っていた三橋を押しのけ、扉を開こうとするが、三橋が必死で抵抗する。


彼女は恐らく電話でのやり取りを聞いてとっさに隠れてくれたのだろう。


そうだとすれば、トイレは自分がいたわけだから、隠れられる場所はここかシャワールーム以外に考えられない。


「待って。待ってくれ」


「駄目」


「本当に、本当になにもないから…」


「いいからどいてッ!!」


こんな細い腕のどこにそんな力があるのかと思うほどの強い力で三橋は突き飛ばされる。


「みぃーつけたッ」


光葉は普段とは別人のように目を歪めて、口の端を吊り上げ、クローゼットの扉を開け放つ。


しかし…


「いない!?嘘でしょ?」


光葉は「じゃあここか!!」とシャワールームへ駆け込む。


シャワールームの扉を開け放つがそこにもいなかった。


「本当に1人だったってこと?」


「…」


呆然とする光葉に見られないよう、三橋はこっそりと胸を撫で下ろす。


どうやってそれをやり遂げたのかはわからないが、恐らく花町は従業員がドアを開ける直前にトイレに滑り込み、三橋と光葉が寝室に入った瞬間に部屋から抜け出したのだろう。


彼女には後で謝らねばなるまい。


恐らく、今回のことで二度と会ってはもらえないだろうが…。


いや、ひょっとするともう連絡は取らない方がいいのだろうか?


「いや、まだよ」と光葉が呟く。


「!?」


ベッドシーツに丹念に伸ばして痕跡を確認し始める。


彼女の髪の毛1本でも出てくれば言い逃れはできない…。


三橋の背中に再度冷たい汗が流れる。


「どこかに必ず痕跡がある筈…」


ベッドシーツの次は床、そしてシャワールーム、シャワールームの排水溝、洗面台と確認し、ビニール袋に拾い集めた髪の毛を入れていく。


「…本当に1人だったんだよ。髪の毛なんて前の使用者や従業員のものも落ちてるだろ」


三橋は必死で弁明する。彼女のこの様子…ひょっとすると家にある彼の服などについた彼女の髪の毛をすでに採取されている可能性もある。


ホテルから出てきた髪をDNA鑑定などで採取した髪の毛と照合されたら裁判などの証拠とされてしまうかもしれない。


「…じゃあどうして1人でお仕事をしている筈のはじめが全裸でラブホテルにいるわけ?…使用済みのコンドームがゴミ箱に入ってるなんておかしいよね?」


洗面台の髪の毛を集めていた光葉は光の無い真っ黒な目で鏡越しの三橋を見つめ、そして、ぐるん、と振り返る。


「そ…それは…」


三橋は言いよどむ。最早真っ当な言い訳は不可能だ。「ここで嘘に嘘を重ねるよりも正直に認めてしまった方がいいのだろうか?」と迷う。しかし、不倫は認めてしまったら絶対的に裁判では不利になるという話を友人に聞いたことがあったのを思い出して踏みとどまる。


「…光葉、引かれるかもしれないからこれだけは言うまいと思っていたことがある」


三橋は意を決して、その場に正座する。


「?」


三橋の雰囲気が変わったのを察したのか光葉は黙ってこちらを見つめた。


「多分、いくら探しても不倫の証拠は出てこない。…いや、出てくる筈がないんだ」


「なんで?」


三橋は首を振る。


「僕は不倫なんてしてないからだ」


「…これだけ状況証拠が揃っているのに、まだ認めないの?」


光葉はぞっとする程冷たい声で三橋に問う。


「僕たち、半年くらい…その…ご無沙汰だっただろ?」


「それが不倫の言い訳として通るとでも?」


「待ってくれ、聞いてくれ。もう、これだけは言うまいと思っていたんだが、僕はその…欲求不満だったからちょっと前からラブホで1人で…と、とにかく、そういうことなんだよ」


三橋は不倫がバレないために妻からの信頼を失う覚悟で発言する。


「…は?1人でわざわざ避妊具をつけて?」


交際期間から数えれば5年の付き合いがある彼女から、まるで汚物でも見るかのような目で、見られた。


「…そうだよ」


三橋は自分でも苦しい言い訳だとわかっていたが、それでも認めるわけにはいかなかった。


「なにその言い訳。…サイテー」


光葉は吐き捨てるかのようにそういうと部屋を探し続ける。その間、口も聞かなかった。




結局、その日どれだけ探しても光葉は、三橋が不倫した決定的な証拠を見つけることはできなかった。


光葉は「不倫野郎」もしくは、少なくとも「仕事をするフリをして、ラブホで妻にも見せられない程の変態自慰行為をしていた可能性がある変態野郎」とは一緒の空気を吸いたくないらしく、その日の帰り道、一切目を合わせず、口もきいてくれなかった。






~ 2017年8月23日(水) 東京 19:00 ~



今朝も朝から光葉とは一切口をきけていなかった。誰かと熱心にメッセージで連絡を取り合っているようだったので、もしかすると探偵か弁護士に相談しているのかもしれない。


会社に出社すると上司の大河内おおこうちから呼ばれ、「昨日、奥さんから連絡があったけど、家庭でトラブルになっていないか」と心配された。今回は適当に誤魔化しておいたが何度も職場に連絡されるわけにはいかない。


昨日のうちに証拠になりそうなメッセージと花町の連絡先は消去したが、夕方、花町から「昨日は仕事の電話中に急に帰ってごめんね。どうしても外せない用事があって」とメッセージが届いた。


どうやら昨日、光葉と電話をしている最中に花町は急用があってホテルを出ていたらしい。ということは三橋が結婚していることや、不倫現場を押さえようと光葉が乗り込んできたことを彼女は知らないことになる。


三橋は花町との交際継続の可能性が繋がって、ほっとした一方で、これ以上自分が不利になる証拠を作ってはいけないし、彼女に迷惑をかけるべきではないと考える。


「ちょっと仕事が立て込んでて、しばらく連絡できない。落ち着いたらこちらから連絡する」と花町にメッセージを送った。そして彼女の連絡先のメモを会社のデスクの鍵付きの引き出しの中に入れ、再度スマートフォンの中の花町のメッセージを消去した。


―――これでとりあえずは大丈夫だろうか。


三橋はため息をついてスマートフォンをスラックスのポケットにしまう。


―――なぜこのようなことになってしまったのか。つい最近まではなんの問題もなくやってこれたのに…。やはり同窓会が全ての元凶だった。あそこにいかなければなにも変わることはなかったのに…。


ここ最近、定時上がりで仕事が残っていたので、少しだけ残業し、時間は19時を回っていた。デスクに会社のパソコンをしまうと、同じく残って残業していた上司の大河内さんに挨拶し、退勤する。


今日は流石に家に帰らなくてはならないだろう。気乗りはしないが、これ以上怪しまれるわけにも、関係を悪くするわけにもいかない。


会社の外に出るとスマートフォンが振動している気がしてスラックスから取り出す。ひょっとして花町だろうか…、と一瞬画面を見るのをためらうが、画面を見ると「田村浩二」と表示されていた。


「…もしもし?」


通話ボタンを押すと、「よう」と田村の明るい声が聞こえる。


「明日の夕方って空いてるか?丁度この間の同窓会の二次会で話題になったんだけど…ほら、8月24日って花町の命日・・だろ?皆で墓参りにいかないかって話になってさ。お前もどうか、って」


「…は?なんだって?命日?」


なにを言っているのかわからず、三橋は思わず田村に聞き返す。


「花町って…花町茜はなまちあかねじゃないよな?」


「あれ?お前、知らなかったか?俺たちが小4の夏に花町、交通事故に遭って亡くなったんだよ」


「…そんな筈ないだろ。同窓会に参加してたじゃん」


「…ッ!?」


電話の向こうで田村が驚く。


「それに小4の夏って転校したんだろ?先生がそう言ってたじゃん」


「…違うんだ、三橋。ご家族が俺たちにショックを与えないように学校には『転校したことにしてくれ』って頼んだらしいんだ。だから俺も実は花町が死んでたって知ったのは大人になってからだ」


三橋は耳を疑う。


「…花町の親友だった水原に聞いたから間違いねぇよ。俺も墓には怖くて・・・行ったことはないけどさ」


「そんなわけないだろ!!」


三橋は怒って叫ぶ。


そんなわけはない。三橋は実際、同窓会で会ったし、連絡先も交換した。田村の勘違いだ。今すぐ確認してやる、と通話したままスマートフォンの連絡先を開こうとして、はたと気づく。


―――連絡先は…先程消してしまった。


通話を続けたまま、来た道を戻り、自分のデスクにしまった花町のメモを取り出す。


メモには…




なにも書かれていなかった。




「!?」


息を飲む三橋に「おい、三橋?大丈夫か?」と田村が心配そうに声をかける。


―――一体どういうことだ?さっき確かに書き写した筈のメモが…。


三橋はスラックスのポケットにメモを押し込むと再び職場を飛び出す。


残業しながら、三橋の様子を一部始終見ていた大河内は不思議そうに見送る。




「いや…いやいやいや、そんな筈ない。僕はあの日…。なあ、花町の両親と連絡は取れるか?」


会社の廊下に飛び出した三橋は田村に尋ねる。


「えっと…花町の家は両親が離婚しててな。詳しい話なら水原が…」


「連絡先を教えてくれ」


「…お、おう」と田村は三橋の剣幕に押され、返事をした後、「あ…」と声を上げる。


「どうした?」


「…俺も嫁に水原と連絡取ったのがバレると本当にマズいからお前、直接連絡取ってみろよ。多分同窓会のグループにクラス全員の連絡先を入ってるからそこに水原もいる筈だから」


そう言えば田村は水原と不倫をし、それが奥さんにバレたのだったか。


「わかった」


三橋は田村に礼を言うと、メッセージのグループから「水原まこと」を調べ、すぐに電話をかける。


「…もしもし?」


電話の回線越しに気だるそうな声の女性が出た。


「水原まことさん?4年1組の三橋始だけど…」


「…三橋?あー!久しぶりぃ。元気してる?」


水原の声のトーンが少し上がり、親しげに話しかけてくる。


「まあまあかな。…ちょっと聞きたいことがあって」


「突然どうしたの?」


「その…花町茜さんのことなんだけど…」


「…ッ!?」


花町の名前を出した途端、電話越しの水原の空気が変わるのを感じた。


「茜が…なに?」


「その…さっき小4の時に亡くなったって聞いて。…なあ、本当なのか?花町さんが亡くなったって」


嘘だと言って欲しかった。しかし、水原は「…本当だよ」と小さく応える。


―――まさか…そんな筈はない。じゃあさっきまでやり取りをしていた彼女は幽霊だっていうのか?でも親友だった水原さんが「彼女が死んだ」という嘘をつく理由も思いつかない。


三橋は青ざめた顔をしながら小さく息を吸い、会話を続ける。


「その…田村から詳しい事情を知ってるのが水原だって聞いてさ」


「コージーから…そう。…三橋も会ったの?」


「え?」


「う、ううん。なんでもない」


水原は慌てた様子で発言を撤回し、しばらく沈黙していたが、やがてぽつりぽつりと話始める。


「茜のおばあちゃんから聞いた話なんだけどね。…茜の家ね、お父さんが茜とお母さんに暴力をふるっていたみたいなの」


水原の話では、父親からのDV―――家庭内暴力があったという。花町の母親は父親のDVに耐えかねて失踪したらしい。


「ほら、『ペアモン』って覚えてる?『かみなりさん』のぬいぐるみ、茜、『宝物』っていって大事にしてたでしょ?あれ、お母さんが失踪する前にくれたものらしいの」


脳裏にあの日の光景が浮かぶ。白いワンピース姿にショートカットの花町が「宝物」と言って三橋にくれたのは「かみなりさん」のぬいぐるみだった。光葉は部屋にぬいぐるみを置くのを嫌うので、今は大事に箱にいれて押入れにしまってある。




「茜、亡くなったあの日、それを失くしちゃって、1人で探している最中に車にはねられちゃったんだって」




「…え?」


三橋は耳を疑った。「かみなりさん」のぬいぐるみを失くした?…だが、それはおかしい。確かにあれは彼女から三橋がプレゼントされた筈だ。


その時、三橋の脳裏に見慣れない子ども部屋の光景が浮かんだ。木製の勉強机の上に整頓された教科書とノートが置かれている。女の子の机なのか、当時流行っていた家具や文具を模した小さな消しゴムやキラキラと光る鉛筆キャップなどが小箱に入れられていた。


机の上に大事そうに置かれているのは「かみなりさん」のぬいぐるみ。そのぬいぐるみに自分が手を伸ばしている。


―――あれは花町さんの家?


「…ちょっと三橋?」


水原に名前を呼ばれて三橋ははっと我に返る。


「…あ、ああ、ごめん。変だな、あのぬいぐるみ、僕が彼女に呼び出されてもらったんだけど…。今でも家に大事に取ってあるんだよ」


三橋は正直に告白する。先程の記憶がなんなのかわからないが、それが事実の筈だ。だが、水原は違う反応を示す。


「え?…ちょ、ちょっとそれっていつ?」


水原の電話越しの声は強張っている。


「彼女が引っ越す前だよ。確かかくれんぼをした日」


「…その日って茜、白いワンピースを着てた?」


水原は恐る恐るという感じで三橋に尋ねる。


「う、うん。そう」


三橋の返答を聞いて水原が息を飲む音が聞こえた。


「おかしいよ…だってその日、茜はコージーに告白した日だよ?なんで『宝物』を三橋に渡すの?」


「…え?」


水原の声は震えていた。だが、三橋もその発言に動揺する。


「あの…なんか記憶違いで申し訳ないんだけど…。花町さんに告白されたのはコージーじゃなくて僕だよ?てゆーか、水原さんもその場にいただろ?」


記憶違いとは恐ろしい。時間が経つと事実はこうも歪められてしまうのか。


「…は?」


水原はびっくりした声を上げる。


「確かに田村は女子にモテてたよ。でも花町さんは僕に告白して『かみなりさん』のぬいぐるみをくれたんだよ」


「違うよ。茜が告白したのはコージー。あげたのはミサンガだよ。それは間違いない」


「え…」


三橋は驚きのあまりスマートフォンを取り落とす。スマートフォンが地面をバウンドして、画面にひびが入った。


「ちょっと、三橋?三橋?」


水原の呼ぶ声が聞こえたが、三橋はスマートフォンを拾い上げると電話を切った。


再び昔の記憶が瞬間的に蘇る。白いワンピースの女の子がもじもじしながら田村にミサンガを渡す光景だ。…三橋はそれを茂みの中から覗いていた。


「…いや、そんなわけない」


水原の記憶違いの筈だ。三橋は慌てて田村に電話をかける。


「もしもし?」


「三橋か?…水原と連絡取れたか?」


「ああ。そのことで少し田村に聞きたいことがあるんだ」


三橋は田村に彼女と最後に遊んだ日のことを尋ねる。


「あの日、大きなグラウンドのある公園で、皆でかくれんぼをしていたんだ。お前と水原もいた。あとはいつものメンバーが何人かだな。同窓会にも来てた奴らだよ。お前も覚えてるだろ?」


「…」


そこまでは三橋の記憶と一致している。


「俺が鬼だったんだけど、その日はお前がいつまで経っても見つからなくてさ。皆で公園中を探したんだけど見つからなかったんだ」


「…」


確かに昔、三橋はかくれんぼ中に抜け出したことはあった。だが、その日ではない筈だ。あの日は一体なんのために抜け出したのか…。


その時、三橋の脳裏に三度記憶の断片が蘇る。


誰かの家…。施錠されていない家に三橋はこっそりと忍び込んでいた。


その家の部屋の一室に先程の記憶で思い出した勉強机があった。三橋はそこで「かみなりさん」を見て手に取って…。


―――僕が…僕が花町茜の家に忍び込んで彼女の「宝物」を盗った?


思わず三橋は息を飲む。記憶が変わっていたのは三橋の方ということなのだろうか。


「…きっとお前は帰ってしまったんだろうってことになって、その日は解散することにした。それで帰ろうとしたら水原に呼び止められて…」




三橋はその時、完全に記憶を思い出した。




~ 1997年8月24日(日) 東京 17:00 ~



茂みの中で「かみなりさん」のぬいぐるみを握りしめた三橋が隠れていた。


花町の気を引くために、かくれんぼの途中で抜け出し、彼女の家から盗んできたのだ。彼女が必死になって探すところにさり気なく現れて、見つけ出す。そうすれば彼女は感謝し、田村ではなく、三橋を好きになるはずだ、と当時の三橋は本気でそう思っていた。


しかし、戻ってきた時にはすでにかくれんぼは終わっており、遊び仲間は解散した後だった。そして残っていたのは花町とその親友の水原、そしてクラスの人気者の田村だ。3人からなにやらただならぬ雰囲気を感じ取った三橋は、思わず見つからないように茂みに隠れて話に聞き耳を立てていた。


「あ…あの…」


もじもじして顔を赤らめる花町の隣には水原が立っていて、「頑張れ」とひそひそと彼女にエールを送っていた。


「す、好きです」


彼女は頬を赤らめ、田村に告白する。三橋はショックで頭が真っ白になった。


「え?」


田村も意外だったのか声を上げて聞き直す。


「…これ、あげる」


花町は田村に一生懸命手編みしたカラフルなミサンガを渡した。


「…いいの?」


田村は照れながら花町の目を見て確認する。


「うん。私だと思って大事にしてくれる?」


花町は顔を赤らめながら田村の腕にミサンガを巻きつける。


「ありがとう」


田村はミサンガを見て嬉しそうに笑った。


三橋は苦しくなってその場にそれ以上留まることができず、盗んだぬいぐるみを抱えてその場を去った。


あまりのショックに、花町がぬいぐるみを探すのを手伝う作戦はすっかり抜け落ちていた。


そして翌日から彼女の姿を見かけることはなかった。




~ 2017年8月23日(水) 東京 20:00 ~



―――僕が?僕が花町さんの家から「かみなりさん」のぬいぐるみを盗んで、そのまま立ち去ったから花町さんはぬいぐるみを探して交通事故にあったということか?


田村が話を続けながら三橋は頭の中で情報を整理する。つまり、彼女が死ぬ原因を作ったのは三橋ということになる。受け入れ難い事実だ。


―――でも、じゃあなぜ花町さんは僕の前に現れたんだ?しかも今更…。


三橋は先程会社から回収したメモをスラックスのポケットから取り出す。何度見ても白紙。電話の着信履歴もメッセージも全部消してしまったので、事実を確かめようにも彼女に繋がるものはなにもない。綺麗に花町茜との繋がりは消えていた。


「三橋…さっき、同窓会で花町に会ったって言ってたよな?」


「ああ…」


三橋は頷く。すると少し迷ったような沈黙があった後、田村は口を開いた。


「実は俺も、…それから何人かが同窓会で花町っぽいヤツに会ってたんだよ」


「…は?」


「…俺はそれがきっかけで水原と連絡を取るようになったんだ。始めは俺の記憶違いかと思ったんだけどさ、この間、同窓会の二次会でたまたまその話題になったんだ。そしたら何人かが同じように花町に会ったって。そのメンバーが全員…」


「あの日のかくれんぼのメンバーだったってことか」


「そうだ。しかもその全員が、花町が小4の時に死んでることを知らなかった」


三橋は頭から背中にかけて冷水を浴びたように冷たくなるのを感じた。三橋にも全く同じ条件が当てはまる。


なぜ今になって彼女が自分の目の前に現れたかがわかった。三橋が今回、初めて同窓会に参加したからだ。三橋は奇しくも今回、彼女に会う条件を満たしてしまったのだ。


真夏なのに白い息を吐くかと思う程震えながら、三橋は「それで、どんな話をしたんだ?」と尋ねる。


「昔話をした後、皆に『ところでかみなりさんのぬいぐるみ探してるの。知らない?』って」


「ぬいぐるみを…探してる」


「そうだ」


三橋は先程思い出した記憶を田村に告げるかどうか迷う。だが、この状況は異常だ。とても1人で抱え込むことはできなかった。


「…あのさ。実はそのぬいぐるみ、僕が今持ってるんだ」


三橋は覚悟を決めて、これまでのことを包み隠さず田村に話す。


「!?」


明らかに田村は驚いた様子で、電話越しにもその動揺が伝わってくる。


「…それで、お前、花町にぬいぐるみは見せたのか?」


「いや、見せてない。…けど家に大事に置いてあるって話はした」


話ながらひょっとして自分は取り返しのつかないことをしてしまったのではないかという気持ちになってくる。


「お前、絶対家に帰るな。連絡先も断っちまった今、向こうがどう出るかわからない。…なんかヤバい」


「い、いや、そんなわけにはいかないよ。家には光葉―――奥さんがいるんだ」


昨日の一件で離婚寸前とはいえ、妻は妻だ。光葉を放って置くわけにはいかない。


「じゃあすぐに帰って嫁さん連れ出せ。向こうは今までお前の家に行くチャンスをずっと狙ってた筈だ。連絡が取れなくなったら強硬手段に出てもおかしくないぞ」


思い返してみると、確かに彼女は事あるごとに三橋の家に行きたがっていた。あれは三橋とより親密な関係になりたいからではなく「かみなりさん」を探していたのか、と気づく。




三橋は田村との通話を終えると駅に向かって走り出した。


田村の話が本当であればかなりマズい状況かもしれない、と三橋は焦っていた。考え難いことだが、花町の幽霊が自宅を尋ね、光葉を襲うかもしれない。


電車に乗って、自宅の前にたどり着いたのはすでに21時近かった。


6階建ての賃貸マンションの3階にある三橋の家のドアを勢いよく開く。


「光葉!!!」


離婚寸前なことをすっかり忘れ、大きな声を上げて家の中に飛び込んだ。


「…光葉?」


家中を探すが、部屋はシン、と静まり返っており、彼女の姿はない。リビングの机の上に「実家に帰ります。時期を見て連絡します」という置き手紙を見つけた。


「…」


朝、彼女が慌ただしく誰かと連絡を取っていたことを思い出す。彼女は昨晩の一件で本気で離婚を考えているのだろう。誰かのアドバイスで家を離れるように言われたのかもしれない。しかし、そのおかげで光葉を巻き込まずに済んだ。あまり状況的には好ましくないが、それでも彼女を巻き込まずに済んでほっとする。


―――いや、こうしてはいられない。とにかく今は家から出なくては。


先程の田村の話を思い出し、玄関のドアを開こうとして…。


「?」


がちゃがちゃとドアノブを動かすが、びくともしない。


鍵やチェーンを確認するがどちらもかかっていない。




ヴー…ヴー…ヴー…ヴー…ヴー…




その時、スマートフォンのヴァイブレーションの音がスラックスのポケットから響いた。




ヴー…ヴー…ヴー…ヴー…ヴー…




スマートフォンは振動し続け、電話の着信を知らせる。


「…」


ごくりと息を飲み、スマートフォンの画面を見ると登録していない番号だった。


「…もしもし?」


三橋が通話ボタンを押すと、聞き慣れた声が飛び込んでくる。


「三橋くん。昨日は突然帰っちゃってごめんね。…もしかして怒ってる?」


通話相手は花町だった。彼女は申し訳無さそうに夕方三橋が返信した内容について、恐る恐る尋ねてきた。


どうやら三橋が返信したメッセージについて、昨晩のことを怒っているように捉えたらしい。


彼女の声からは特に三橋の心境の変化を怪しむ様子はなかった。


「ううん。…昨日のことだけど、僕の方こそごめんね。あの後仕事の件で結局、僕も忙しくなっちゃったからお互い様だよ」


「良かった~」


田村の話を聞いたばかりなので、彼女の着信に、内心、スマートフォンを落としそうなほど驚いていたが、必死でそのことが伝わらないように努めて返事をする。間違っても、三橋が彼女の死を知っていると悟られてはならない。


「それで…?」


「あ、ごめんね。忙しくなったから三橋くんから連絡するって言ってたのに。…もう会いたくなっちゃって。我慢できなくて電話しちゃったの」


花町はもじもじと照れたような、甘えた声を出す。その声を聞いて田村や水原に担がれたのではないかという思いが一瞬浮かぶ。


しかし、三橋の甘い考えを否定するかのように、玄関のドアは相変わらずぴくりとも動かなかった。


「…俺もだよ」


三橋は恐怖を押さえながら返事をする。


「嬉しい!…ねえ、今どこ?」


「ええと…職場」


「本当?今、21時だよ?」


花町の声が暗い色を帯びる。


「ホントホント。いや~、仕事が立て込んでてさ」


三橋はそう言いながらドアノブをガチャガチャと動かす。


―――早くここから脱出しなければ…。


「ねぇ、このガチャガチャって音…なに?」


「ん~…職場のドアだよ。ちょっとオートロックかかっちゃってさ」


「大変!…じゃあ、私が開けてあげよっか?」


「え?」


ガチャリ…


唐突に玄関のドアノブが回り、開く。


目の前には花町茜が立っていた。


「職場じゃなくて…ここ、自宅だよね?三橋くん」


「!?」


その姿は昨日までの花町茜の姿ではなかった。


髪の毛はボサボサで、首は折れて変な方向を向いており、手と足の角度も不自然だ。黒目も左右が別々の方を向いており、そのうちの片方がギョロリと三橋を捉える。


そして、全身血まみれの彼女は手足を引きずって近づいてきた。


ムッとするような血と内臓の匂いが夏の風に乗って三橋の鼻を刺激する。


「ひっ!?」


逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、彼女の姿を見た途端、金縛りにあったように全身が動かなくなっていた。


「ずっと探してたんだぁ。君が持ってたんだね。『かみなりさん』」


彼女は変な角度に曲がっている顔を三橋に近づけてにっこりと微笑んだ。






「…あ、『かみなりさん』!みぃ~つけたぁ」






後日、光葉が警察の連絡を受けて、自宅に戻ると、部屋中に血のついた女性の足跡があり、家の中が荒らされていた。鑑識によると血は全て三橋のものだという。


紛失したのは生前、三橋が大事にしていたという「ペアモン」の「かみなりさん」というぬいぐるみ1点だけであり、それがしまってあった押入れの中に三橋の遺体がバラバラに刻まれて隠されていたそうだ。

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20年越しの「みぃ~つけた」 チョッキリ @Chokkiri182

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