エピソード 0-1-1
ある木造の一軒家で、父と息子が一枚の地図を見ながら話をしている。父は胡坐をかき、息子はその胡坐の中に身をうずめながら、キラキラとした目でその地図を見つめていた。
「————で、俺たちがいるのがこの国!『炎火王龍・カテン』様を祭る火国・アイドクライド王国ってわけだ」
「えぇぇ!!そうなんだ!え?じゃあ他の王龍様は?どこにいるの?」
「ああ、他の王龍様がどこにいるかは分からないんだが…、
でも、『水禍王龍・スイゲツ』様を祭る国はここ、水国・ソフィーラ王国だ。
そして『嵐凛王龍・フガト』様を祭る国はここ、風国・ヴォバル王国。
そして『大地王龍・カラサキ』様を祭る国はここ、土国・ブラドラガ王国。
最後に『天空王龍・アマツキ』様を祭る国はここ。空国・ラダハファ王国となるわけだ!
———どうだ?分かったか?」
父親が地図に書かれた国の場所を一個ずつ指さしながら、その龍と国の名前を呼んでいく。地図に書かれた大陸には、五角形の様に線引きがされており、一番下の枠線に囲まれた所だけは指刺さなかった。
「え?…うーん……分かった!———それで、どこに行けばなれるの!?父様みたいな『竜騎士』に!」
そう、まだ小さい少年はこれを父親に聞きたかったのだ。父親のような『竜騎士<ドラグナイト>』になりたいと願い、夢見ている少年。それがこのアラタ。アラタ・クラインと父親のカラファ・クラインに名付けられた少年なのだ。
「どこに行けばなれる?——ああ、どこにも行く必要はないさ。ここでなればいい。俺のような『竜騎士』に」
「ここって……炎の王龍様がいるところ?……ならよかった!僕は火の龍が一番好きだよ!」
無邪気に言い放つアラタに、父の暖かな笑顔を見せるカラファ。
「はいはい。もういいかしら?———ご飯よ。座りなさい二人とも」
そして、胡坐の外からアラタの母であるカーナ・クラインが声をかける、手には鍋に入ったシチューとパン。それを見るや否や父親の元をすぐ離れテーブルへと駆ける姿を見る父に、少し苦笑いを浮かべながらテーブルへとつく父。こうしてクライン家の幸せな日常は過ぎていった。
「カラファ?次はどこに向かうの?」
「ああ、次の遠征地は————」
そして幸せな夢は再生を終えたテープのように白くなっていく。追えども追えども景色がその次を映してくれるわけではなく。
いくら走れども浸る事が出来ないまどろみ。後ろを振り向くと真っ暗な闇に飲まれて引きずり出された。
そして景色は暗転し、目を開けるとそこは黒の葉に生い茂った森。そして自分を中心にとぐろを巻いて座る漆黒の龍だった。
『———起きたのか?アラタ』
脳内に響くその声に耳も課さず、心すら向けず。もう一度青年は、黒い竜の鱗と葉が風に揺られよそよそと鳴くこの森で、瞼をしっかりと閉じた。
———次の夢は幸せだといいな。
起きない心。重い体。逃げ道は自分の中にある幸せな思い出を夢で追体験するだけになっていた。
———この青年の名はアラタ・クライン。彼こそが『黒龍の盟友』である。
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