四【忘れた戦い方】
クロウはそのまま恵華に手を引かれて部屋を出て行き、廊下の突き当たりに小さなエレベーターへ乗り込んだ。
ボタンを見ると、ここは最上階の三階。
地下三階まであり、恵華は地下一階のボタンを押した。
[ヴーーン……ガチャンッ]
地下一階に着き、エレベーターの扉が開くとそこはトレーニングルームだった。
トレーニングマシンやサンドバッグなどがあり、恵華に手を引かれ更に奥に進むと、広く何もない所に柔道の試合などに使われるマットが敷いてある。
ここのフロアで組織内全員がトレーニングをしているようだ。
「それじゃあやりましょーか!」
恵華はそう言い放つと肩に掛けている小さなバッグからスパッツを取り出し、スカートの中に履きだした。
その時、クロウはいつか見た光景だとじっと恵華の下半身を凝視。
「よいしょっと……?
クロ様??どうしたん――キャー!クロ様ぁ〜!」
ハッとクロウが我に返り恵華の下半身から目を離した。
恵華がスカートを押さえながらクロウに近づいてきた。
「もぉ〜クロ様のエッチ〜(笑)
記憶がなくなったらエッチくなるんですかねぇ〜??」
恵華に頬を人差し指で突つかれながら笑われ小馬鹿にされるクロウ。
するとクロウは突かれている恵華の指を掴んで真剣な顔で口を開いた。
「なぁ、今迄もいつもスカートでやり合う時はそうやってスパッツ履いてんのか?」
恵華は抑えてたスカートをめくりながら答える。
「そぅですよぉ〜?
スカートの方が動きやすいし、こうすれば恥ずかしくありませんからね〜!」
クロウはこの場所、この光景が懐かしさに似た感覚になり、しばらく周りを見渡していた。
「……何か思い出しました?」
恵華はクロウの顔を覗き込みながら問う。
クロウはまた周りを見渡した後に首を横に振った。
恵華は鼻でため息をついたあとにマットの中心へと歩き始めた。
「さ!クロ様!軽く準備運動してやりましょー!!」
恵華は微笑みながらクロウをマットへ手招きをする。
クロウもここまで来たらと観念してマットへ上がり屈伸運動などやり始めたが、右腕がギプスで固定されて上手くできない。
「恵華……やっぱりこれじゃ……」
恵華はこちらを見てニッコリ。
「クロ様なら問題ないですよぉ!(笑)
あれ?そぉいえばさっきはギプス……まぁ良いや!」
「 ?」
クロウは諦めストレッチを続けた。
一分程体をほぐすと、
「ぼちぼちやりますかー!!準備オーケーですぅ??」
恵華は元気良くリズムカルにステップを踏み構え始めたが、クロウは棒立ち。
どうしたら良いか迷っていると、恵華が物凄い速さでクロウへ突進。
「っわ!」
クロウは驚いて思わず後ろへ下がると、見えない所から右頬に衝撃が走り、気づくと吹っ飛ばされていた。
「っ痛ー!」
何だ今の……恵華が消えたと思ったら……蹴り飛ばされたのか?
何が起きたのか分からず、恵華の方を見ると少し悲しげにこっちを見ていた。
「クロ様……」
しかし、恵華はすぐに笑顔に戻すと再び構え始めた。
「さぁ立ってください!まだまだですよ〜!恵華が疲れるまでやります!!」
困惑しながらもクロウは立ち上がり適当に片腕で構えるが、また同じように吹っ飛ばされる。
どうやら素早くクロウの死角に入り、顔面に回し蹴りをいれられているようだが、体が動かない、目が追いつかない。
恵華が速すぎるせいか何度やってもどこからどのようにやられてるのか全く分からない。
しかし、不思議と体へのダメージはそれ程ではなく、何度やられてもすぐに立ち上がる事ができた。
「ハァ……ハァ……スゥ〜……ハァー!もぉー!20回は蹴り潰してるのに全然平気そうですね〜(笑)」
恵華はさすがに疲労が来たようだが、クロウは顔を腫らすのみで疲労やふらつきもない。
「何でだろうな?痛いもんはすげー痛いんだけど……スタミナはあるみたいだな?」
クロウも自分の体に驚く。
戦い方の忘れているが、体は覚えているようだった。
「それじゃーラストです!さっきと違う感じで行きますよぉー!!」
恵華の表情が変わり構えも少し柔らかい感じになった。
ガードの腕が妙に開いていて、何故かクロウはそれに驚く。
どこか記憶にある構えに見え、動く事もせずに恵華をじっと見つめていた。
その瞬間、
「ごめん……な、っさい!!」
[ダンッ!]
クロウは恵華の素早い突進と共に前蹴りを食らい、物凄い勢いで後ろへ吹っ飛ぶ。
「うっ!!」
さっきからこの脚力は何なんだ!?
続けて上から顔面に向かって恵華の足が落ちてくるが、酸素が頭に回らなくなったのか、天地が分からなくなりそのままクロウは意識をなくしてしまった――。
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