三【恵みを齎す子】


「本当に記憶ないんですかぁ?"けいか"の事、分かりませんかぁ??」


 女は恵華けいか

 見た目十代後半から二十代前半、ブラウンカラーでショートヘアのアジア人。


 服装もニッポンの女の子が好みそうな格好だが、短いスカートのせいなのか、やけに幼く見える。

 恵華が真剣な眼差しで覚えていないのか問うと、タクロウは謝りながら答えるしかなかった。


「ケイカ……あんたの事か?悪ぃ。

 ロベリカに来てから今迄の記憶が全てないんだ。

 だからあんたの事も覚えてない……」


 俯きながら答えると、恵華は頭を傾げながらも一瞬悲しそうな顔を見せ、すぐに笑顔に戻し焦るようにタクロウを励ます。


「だ……大丈夫ですよ!!

 今エドさんやドクさんが話しています!

 多分記憶を思い出す手立てを見つけてくれますよ!!」


 タクロウは恵華の少し焦るような声を聞き、

 顔を上げて仲間にこんな女の子も居るのかと疑問に思いながら色々な質問をし始めた。

 タクロウはまず、簡単な疑問点から質問を始めた。


「あんたも俺の事"クロウ"って呼ぶんだな……何でタクロウをクロウに?

 "タ"は邪魔だったのか?(笑)」


 この質問に恵華は笑いながら答える。


「アハハハハッ!そうみたいですよ(笑)

 皆さん発音的に"タ"は言いづらかったみたいで!クロウなら単語でclоw《カラス》がありますからねぇ〜!」


 恵華の緩い話し方とあだ名の由来を聞いて、タクロウは笑みながら溜め息をついた。


 そうゆう事か。ロべ語が話せる今なら納得……。


「分かった。自分を"クロウ"ってしっかり認識しとくよ……」


 クロウは少しカッコ良いと思い、微笑みながら煙草に火をつけて次の質問を始めた。

 目の前に居る恵華、組織、そして自分自身について。


 話しによると、恵華はニッポン人で"ある事"がきっかけでこっちの組織に入った。

 "ある事"については


「それは……クロ様と恵華の出会いや再会も絡んでます。

 お願いですから自分で思い出してください」


 との事。


 他の仲間も何かしらの事件がきっかけで組織に入った人間も居るようだ。


 クロウが最初に出会った黒人は"エドガー"。

 ボスの右手でほとんどの仕事はエドガーから通達がくるようだ。

 一緒に居た白人二人はエドガーの旧友の部下で大体プライベートもこの三人は一緒らしい。


 他にも組織の人数は三十人程いるらしいが、幹部はクロウと恵華とエドガーを入れて七人。

 幹部になれる理由は仕事で先陣を切れるか、接近戦や遠距離での戦力で選ばれるようだ。

 遊びで定期的に遊びでトーナメントを組み、腕っぷしを競い合う事もやるそうだ。

 これはクロウが考えた幹部の決め方のようだが、大半は遊びでやっているので、幹部が変わる事は今まで一度もないようだ。


 しかしこれにはクロウは参戦禁止。


 理由は"特殊能力"があることから。


 "特殊能力"については"ドクター"から直接聞いてくれとの事。

 ドクターは仲間から親しみを込めて"ドク"と呼ばれ、元々クロウのために雇われたらしい。

 クロウの特殊能力との関係で雇われていると恵華は言うが、組織の中でもクロウとドクとの間でのやり取りはあまり知られていないらしい。

 ついでに仕事で負傷した他の仲間もドクに世話になっているので仲間からは慕われているようだ。


「なるほどね、特殊能力ね、なる……ほどね。

 まぁ仲間の事はこれから直接会って少しずつ覚えていくよ」


 クロウは質問に疲れたように煙草を吹かす。

 アホらしく思い、"特殊能力"についてはあえて何も聞かなかった。

 窓の外を眺めながら一番気になっていた"組織"と"ボス"の存在。

 これについてエドガーじゃなく恵華から聞いて良いのか問おうとしたが、恵華の方から先に答えだした。


「多分ウチの組織についてはエドさんとマ……ボスの所に行く事になると思いますよぉ??そこで組織の事を教えてもらってください」


 恵華は何気なく質問を拒否した。

 でも仕方がない事だとクロウは納得した。

 組織が分かれば自分がしてきた事が分かる。

 流れ的には良くない事をしているのは分かり、組織の仕事を何も覚えていないクロウに恵華自身からは話したくはないんだろうと察した。


 そこでクロウは組織内部の話しをおいて他の質問を始めた。


「恵華は幹部なんだろ?じゃあ強いってことなのか?」


 恵華はニッコリしながら声を張って答える。


「恵華強いですよぉ〜!!

 組織に入る前から恵華は強かったんですけどクロ様にも鍛えられましたからね〜」


 恵華は入る前から強いというのも、元々ニッポンでテコンドーをやっていたのもあり、組織に入ってからは銃の撃ち方を覚え、武装も与えられた。


 クロウと行動するようになってからは、クロウ直々に鍛えられ、テコンドーに我流を取り入れて更に強くなったようだ。


「へぇ〜そんな小柄で……凄いな(笑)どんだけ強いのかいつか見てみたいな」


 クロウは段々と自分に鍛えられた言う恵華に興味を持ち始めていた。


 すると恵華が、


「……それじゃあお見せしましょうか?地下にジムがありますから行きましょー!!」


「え……?いや、どう見せてくれんの?」


 恵華のいきなりの提案にクロウは焦り始める。


「クロ様は怪我してても恵華は足下にも及びませんから、スパーリングやりましょーよ!!」


 クロウは更に焦り、恵華を止めようとする。


「ちょ……待て!今記憶がねぇからどうやってたかも分からねぇし、元々喧嘩もそんなに強くねぇから勘弁してくれ!」


 クロウが少し怒鳴り気味に言うと、恵華が真剣な顔になり、クロウの手を取りだした。


「全然クロ様じゃないですね……恵華がボッコボコにしてあげます♪」


「……」

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