二【後ろの正面】
[パタンッ]
「うぅ……ん……ん?どこだここ?」
見知らぬ部屋。
物音で覚めたタクロウは首元に手を当て、薬を打たれて眠らされた事を思い出した。
体を起こす前に周りの様子がおかしい事にすぐに気付き、混乱しそうになるが大きく深呼吸をして落ち着いて真っ直ぐ天井を見る。
「意味が分からねぇ。ん?右腕が……もう何が何だか分かんねぇ」
独り言を呟き、ゆっくりと体を起こして右腕を見るとギプスがされていた。
そして周りを見渡すと広めの洋室に自分が寝ているベッド、テーブル、ギター、化粧台、クローゼット。
驚く程普通の部屋であった。
「つまんねぇ部屋。どこだここ?
どう見ても病院じゃないよな……何だあれ?」
化粧台を良く見ると無理矢理取った様な血の着いた包帯が散乱していた。
気になったタクロウはベッドから降りて化粧台の前に行くが、それよりも鏡に映る自分を見て驚いた。
「な……何だこれ!?っつーか体中も傷だらけじゃねぇか!?」
体はニッポンに居た時よりも筋肉質となり、顔は左頬が腫れ上がっていて傷ついている。
体も傷だらけで鏡で確認をした瞬間に痛みが込み上げてきた。
その中でもタクロウが一番疑問に思ったのは体の傷跡。
新しい沢山の傷の他にも記憶にない大きな傷跡や古い縫い目の跡が目立っていた。
「俺はいつこんな……そうだ!今日の日付は!?」
部屋の壁を見渡すがカレンダーも何もない。
舌打ちをして窓の方を見てみると、窓際に煙草と見知らぬ携帯電話が置いてあった。
焦りながら携帯電話を取って開いてみると、タクロウは自分の目を疑った。
「……どういう事だ?」
何故なら、ロベリカに入国した日付から二年以上の時が飛んでいたからだ。
タクロウはショックで携帯電話を落とし、頭を抱え錯乱し始めてしまった。
「う……うわああぁぁぁぁ!!」
もう状況把握も出来なくなり、何も分からなくなってしまい、叫ぶ事しか出来なくなっていた。
すると、
[――ドタドタドタドタドタタ、ッガチャ!]
沢山の足音の後に、物凄い勢いで扉が開けられた。
「クロウ!どうした!?おい!!」
大きな声に驚き扉の方へ振り向くと、部屋に入って来た外人の中には、見覚えのある黒人が先頭に立って驚いた表情でタクロウを見ている。
「……はぁ……はぁ……あんた等は誰だ?」
タクロウの問いに全員戸惑う。
すると黒人は何もない様子に安心し、ゆっくりとタクロウに近づきながら話し始めた。
「はぁ……驚かせんな。
どうした?何か悪い夢でも見たのか?」
そこでクロウは異変に気付いた。
ロべ語で話されているが母国語の様に聞こえ、自然に理解出来る。
そして自然に言葉を返している自分にも驚く。
この寝ていたと思い込んでいた間に外国語まで話せるようになったのかとベッドに座り込み溜息を吐く。
やっぱり記憶がねぇだけで、俺はこいつ等と何かやってたんだな……。
「いや……夢は見たけど夢じゃなかったのかもしれねぇ」
タクロウは慣れたようにロべ語で返答を返すと、黒人が首を傾げながら再び問いかける。
「ん?どうゆう事だ?」
タクロウはまた立ち上がり黒人に説明する。
「今さっき眠りから覚めて日付を確認したんだけど、俺はニッポンを出た後のこの二年以上の記憶がねぇ。
今何でここに居るかも、何でロべ語が喋られるのかも分からないんだ……もちろんお前等の事もな」
その場に居る全員がざわつき始めた。
黒人はタクロウの真剣な顔を見て、ふざけている訳ではないと分かると黒人がすかさず質問をする。
「ロベ?……本当か?確かに傷が深いせいですぐに寝ていたようだが、体内魔力も安定して脳に異常はなく、自室で寝て良いと"ドク"は言っていたくらいだ。
また何で二年以上の記お――」
黒人が何かに気付いたように突然言葉に詰まった。
「なぁクロウ……どこから記憶がないんだ?」
「は?魔力?っつーか何で俺の事″クロウ″って呼ぶんだ?
俺は"タクロウ"だっつーの」
「そんな事後だ!どこからだ!?」
何か急ぎなのだろうか。
焦りながら黒人は問うと、タクロウは隠す事もないと素直に答えた。
「多分だけど、俺が拉致られた時にあんただと思われる奴に蹴り上げられた後、何か首に打たれて寝込んで今に至るって感じだな。これで良いか?」
黒人は驚きを隠せない程に焦り始めた。
すると部屋に居るその他を連れて何も言わず足早にタクロウの部屋を出て行った。
「何だあいつ?っつーか何か知ってんなら教えろっての!」
驚きの連続で疲れたせいか、タクロウはベッドに倒れ込む。
そして目を瞑り、なくした記憶を必死に思い出そうとする。
自分の体をここまで傷つけて何で記憶がないんだ?俺を眠らせたあの黒人とも今迄仲間みてぇな感じだったし……っクソ!思い出せねぇ。
タクロウは考え疲れたのか、いつの間にかまた眠りについてしまっていた。
――浅い眠りのせいか、タクロウはまた夢を見始めた。
何もない真白な場所で微かに声が聞こえる。
「「…………」」
「……誰だ?……」
ぼんやりと見えてきたのは金髪で長い髪をくくるサイドポニーの女性。
「「――の?」」
「……え?」
「「戻らなくて良いの?」」
「何処に……あれ?お前どっかで……」
「「自分の事だけ考えて……もう良いから……頑張らなくて大丈夫だよ……」」
「……いや、必ず俺と引き離してやる!……」
なぜか意味も分からないのにも関わらず"引き離してやる"と口にしたタクロウ。
するとその女性は祈りを捧げるように手を合わせると消えていった――。
タクロウは映像も声もぼやけた夢から覚めた。
何故か涙が流れていて、少し焦慮する自分に気付く。
「最初に見た夢と今の夢……何なんだ?もしかして過去に経験した出来事なのか?」
妙に現実味のある夢にタクロウは頭を傾げて涙を拭きながらベッドから起き上がり、壁際の窓の方へ歩きだした。
窓から外を見ると、そこは何もないただの中庭。
敷地の外を見ても他の建物など見当たらない。
「田舎にある金持ちの別荘って感じ……」
タクロウは窓際にあった煙草を手に取った。
さすがに禁煙してなければ銘柄も変わってないか……。
煙草を取り出そうと箱を開けると、一枚の紙が入っていた。
「何だこりゃ?ゴミ?……っ痛!」
ゴミだと取り出そうとその紙に触れた途端に頭に激痛が走り、知らない光景や人物が脳裏に浮かび出した。
――綺麗な青空と、まるで要塞の様な城が見える。
その城内の廊下の先に他とは異なる木目調の扉。
扉に近づいて見ると、血なのだろうか。
赤い文字で何か書いてある。
"Strip Show"
そう書かれた扉がゆっくりと開かれると、部屋の中は見えずに場面が切り替わった。
すると雨が降る中でタクロウを含め、数人が倒れている女性を囲んでいる。
その女性を抱き上げ、キスをすると強く抱きしめるタクロウ。
いつの間にかそこに居た全員が消え去ると、タクロウ自身も消えて居なくなった――。
謎の頭痛が収まると共に、映像も薄れ見えなくなっていった。
「っ痛~。何だ今の!?この紙触ったとた――ん?何か書いてある……」
【・イ・・は Ⅸ Ⅴ Ⅳ Ⅴ う Ⅵ Ⅴ Ⅸ Ⅱ・・を ま Ⅳ Ⅰ れ】
「ニッポン語……間の記号は何だ?数字?文字化け?ギャル文字?俺の字だけど何だこりゃ?」
何かのメモのようだが、五つの部分が薄れてほとんど消えている。
文字化けの様な記号部分は手書きじゃなく、タイプライターで印字されたような文字だ。
「次から次へと……あぁー!意味分からん!!」
記憶がないのでいつ書いたかも意味も分からず、そのままポケットに突っ込んだ。
タクロウは現状理解する事で忙殺しているため、他の事に頭が回らず深くため息を吐く。
しかし、寝る度に見る夢も先程頭を過った映像にメモ。
過去どうこうよりこれからの事で重要になってくるような気がしてならなかった。
いくら考えても分からず、外を見つめながら煙草に火をつけしばらく考える事を止めた。
二本、三本と続けて吸い、気付けば三十分ほど黄昏ていた。
「しかし何もなくて落ち着くなぁ~ここはよぉ……」
二年以上もの時間の中で、一人の時はこうしていたんだろうなと新たに煙草に火をつけようとしたその瞬間、ドアの外から物凄い速さでこちらに走ってくる足音が聞こえだした。
[――タタタタタタタッ、タタッ!!]
[ッバン!]
「クロ様ーーーー!!」
ドアが壊れそうなほどの勢いで開かれると、見知らぬ女がタクロウに飛びつき首に腕を回し抱きつく。
「さっきは何でシカトしたんですかぁー?」
「痛っ!……はぁ!?」
いきなりの出来事と抱きつかれた拍子に怪我している腕が潰され、体の激痛と共にタクロウは戸惑いながら叫ぶ。
「いきなり何だ!?誰だ!?っつーか痛ぇよ!離せ!!」
女は離れて顔を上げたと思いきや、ジッとタクロウの目を見つめ出す。
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