現世界

一【終焉へ向かうプロローグ】

 ――三万フィート上空、飛行機内。


「そろそろ日付変更線みたいだよ~ブラインド下ろしてね〜」


「パパー何それー?」


 変更線……あぁ、聞いた事あるな。だから何だっつーの。


 何気なく窓の外を見ると、太陽の光にしてはおかしい。

 緑色の光が一瞬発光すると、地平線に沈み消えていった。

 不思議な光景に、周りは驚いていないのか機内を見渡すが、誰一人騒ぎもしていない。


 何だろ?でもどっかでみた光……デジャブ?


「「――こえるか?」」


「……?」


「「聞こえるか?何も考えずに目を閉じろ、同期する――」」



 ・~・~・~・~・~・~・~・~・~・



「「なぜこうなった?

 転生はうまくいっているはずだが。

 運命には逆らえないのか……。

 しかしここの宇宙に来てもう五千年。 

 此奴で賭けてみるのも……」」



 ・~・~・~・~・~・~・~・~・~・



 ここは"ニッポン"。関東"ヨミハマ"。


 普通にたわいもない毎日をそれなりに楽しく過ごしていた男が一人。


 男の名前はタクロウ。


 馬鹿ばかりやっては適当にアルバイトし、親元から自立したりしなかったりと先々の事を何も考えずに学業などほとんど触れず、何も考えずに生きてきたボンクラだ。


 そんなボンクラも二十歳を過ぎたそんなある日。


 アルバイトを終え、遊びに行く予定もなく帰宅して何気なくテレビを見ていると、色々な観光地が映り出され呆然と見ていた。


「……良いなぁ。そういや海外って行ったことねぇなぁ〜。

 ん〜……よっしゃ!行ってみるか!完全に貯金なくなるけどね!」


 適当に過ごしているにしてはこの行動力が不明だが、途端に海外に憧れて何も考えず仕事を休み"ロベリカ"に旅行へ行く事に決めた。


[トゥルルルルル……ガチャッ]


「もしもし?ユウキ?あのさぁ〜旅行行くんだけど――」


[トゥルルルルル……ガチャッ]


「もっしもーし!ショウ?旅行行こ!え?仕事?良いじゃん!休めって――」


 一緒に旅行へ行ける友人に電話をかけまくるが、ことごとく断られた。


「……ひとりぼっちや。

 いいもん!一人で行くもん!!」


 仲の良い友達は仕事で都合がつかなかったため、一人フリープランで行く事に決めた。



 なんであの時、旅行なんて考えたんだろう。

 旅行なんか行かなかったら……。



 ――予定を決めてから一ヶ月後。


「あぁ〜しんどかった……遠いっつーの!!

 しっかし何だったんだあれ?オーロラの訳ないし……太陽の反射? 綺麗だったなぁ〜。

 エコノミー狭いからケツ痛ぇ……腰痛ぇ……でも着いたぜ!"ニューク"!!」


 タクロウはロベリカに行くならまずは

「"自由の神"を見る!」と、言ったような子供的発想で本当にノープランで来てしまっていた。


「んじゃーホテルに荷物置いて〜自由の神見に行って〜ストリップ行って〜イィヤッハァー!!」


 アホな事を何時までも口ずさみ、歩きながら頭に浮かんだプランを観光ガイドを見ながら進めていく。

 知らない国で色々と困惑しながらも楽しんでいる最中、


「ん?地名が違う?あれ!?

 自由の……"女神"!?いつ女に変わったの?」


 いつの間にかにロベリカの自由と民主主義を象徴する像の名称が変わり、見た目も変わっていた。


「う~ん?それにしても、元々ロベリカの地名なんてほとんど知らないけど……。

 どれも何か違うような。このガイドブックがおかしいのか?」


 ガイドブックを見ても、街の至る看板もおかしい。

 自分がおかしいのかと疑う程だった。

 しかし、言語は通じるので何とか観光は進められたが、一日目は疲れや多少の時差ボケもあったので、夜はホテルに帰ってすぐに寝る事にした。


 するとホテルへ帰る道中で不思議な光景を目にする。

 そこにはボロいアパートを出たり入ったりと何人もの人が出入りしている。

 全員近寄りがたい人相ばかりで、タクロウはそちらの方をあまり見ずに通る。


 アパート入口の前を通ると、出てくる男とぶつかりそうになったが、何言われず通ることができた。


「いかにもって奴等だなぁ〜。

 何か運び出してるようにも見えたけど……とりあえず怖っ!」


 タクロウはすぐにその場を離れてホテルに戻った。

 シャワーも浴びずにベッドへ飛込み、携帯電話を見ると友人からのメッセージが入っていたが、発信元の名前に違和感が。


 あ?何だこれ?たぶんショウからだと思うけど……ニッポン語じゃねぇ。

 "ショウ"って入れてたはずなのに……何で変わってんだ?


〈お疲れさ~ん!楽しんでる??そういえばいつ"日本"に帰って来んの?"ニューヨーク"以外はどこ行くか決めた?とりあえず気を付けてなぁ~!〉


「……読めねぇ。ニューヨーク?あいつアホか?何言ってんの?」


 友人からのメッセージには誤字が多く、返信で聞こうとしたが、突然急激な睡魔に襲われた。


「あ〜眠ぃ……明日電話すればいいや。

 もうむり〜。でも今日は楽しかったなぁ〜!こっちの女の子は色白で可愛いし♪

 さすが外国人♪」


 そういえば帰り道のあれは何やってたんだろ?夜逃げか?


 眠りにつく直前に疑問を思い浮かべたまま夢の中へ落ちていった――。


「…………」 


 何だ?……誰か……いる……?


 夢なのか現実なのか分からない程の意識の中、ベッドの周りで外国語が聞こえる。


「…………」


 何喋っていやがる……っつーかここ俺の部屋じゃ……。


 薄々とこれは夢じゃなく現実だと気付くが、なぜか体どころか瞼にも力が入らず目も開かず何も見えない。

 少しずつ恐怖心がでてきて動けないまま声だけ聞いていると首元がチクチクと痛み始め、その後すぐ体を持ち上げられていた。


「何して……お……ろせ……」


 力一杯声を出すとそのまま意識が飛んでしまい、タクロウはそのままホテルから運び出され車に乗せられてしまった――。



 どれだけ気絶していたのか。

 タクロウは意識を取り戻したが何があったのか、今どういう状況か、全く把握できていない。

 それもそのはず。

 窓から照らす微妙な月明かりだけの薄暗い部屋の中で手足を縛られているからだ。

 意味不明な状況下で段々と恐怖から怒りに変わり、


「何でこんな事になってんだ……俺が何かしたか!?うるぁぁぁー!!」


 苛立ちからとりあえず大きな声を出した。

 誰かが気付かなければ話しにならないと思い、後先考えず叫び続けた。

 しばらく叫んでいると力み過ぎたせいか、何故かいきなり頭痛が起こり横たわってしまう。


「意味が分からん……っつーか体中痛いし何なんだ……ん?」


 タクロウは部屋の隅に目をやると、部屋の隅で横たわっている人影を見つける。


「おい!」


「……」


「ヘイ!」


「……」


 呼んでも返事がない。

 口を塞がれているのか気絶しているのか、それすらも部屋が暗く見えない。


「アーユーオーケイ!?」


「……」


 必死に知っているロベリカ語で適当に話しかけるが返事がない。


 俺と同じで気絶しているんだな。でも俺は何をして何されたんだ??


 この状況になる前の事を必死に思い出すが、記憶が曖昧な事に疑問を感じていた。


 その時、


 [ッガチャ……]


 ゆっくりと部屋のドアが開きだした。

 タクロウは暗い部屋に慣れてきた目をドアの方に向けると、体の大きい人影が三人。

 そして手に薄暗い中で窓から漏れる月明かりで光る"何か"を持っていることに気が付いた。


 ……これはマジでまずい。


 タクロウはそれを見て銃だと気づき、途端に顔が青ざめ、俯き、覚悟を決めた。


 死の覚悟を。


 銃を見た瞬間死を覚悟し、顔を下に俯いたまま動けない。

 恐怖心が強過ぎて涙も出ない状態に。


「おい」


 部屋に入って来た一人が流暢なニッポン語で話しかけてきた。

 何故俺がニッポン人だと知っているんだと疑問を感じつつ、タクロウはゆっくりと顔を上げる。


「お前は英語は分かるか?」


「……英語?」


 タクロウは相手の質問が分からず頭を傾げる。


「悪いがお前が入国してホテルに着いた時からつけさせてもらった」


 話している相手をよく見ると、薄暗い中ニッポン語を話しているのは黒人の大男。あとの二人は白人に見える。


 喋っていたのはニッポン人じゃねえのか。


「も……目的は?

 この国に来たのは俺は初めてなんだ!なのに何で……」


 タクロウが疑問を口にすると、黒人が白人二人とロベ語で話し始めた。


 よく見るとホテルに帰る前に見た外人に似ている事に気付き、嫌な予感に包まれる。

 必死に現状を理解しようとするが、三人共ネイティブなロベ語で全く話しの内容が分からず、じっと三人の方を見て話し終わるのを待つ。


 話しが終わると、白人の一人が胸ポケットから書類の様な紙を出し、それを黒人が携帯電話のライトで照らしながら見始めた。


 ってか部屋の照明はないのか?何がしたいんだよ。


 タクロウは恐怖しながらも段々とイラ立ち始めてきていた。

 しばらくするとライトが消え、やっと話しを始めた。


「全ては話せない。

 だが、現時点でお前は生きている。

 駄目ならあそこに横たわっている男と一緒に明日処分していたからな」


 タクロウはまた部屋の隅に目をやり、死体だと分かると途端にまた恐怖に駆られ体が震えだした。


「お前は元々他と違うんだ。

 アイツも背丈や骨格は同じようだが……やはり関係なかったようだな」


「な……何が違うんだ?」


 震えながら疑問を口にすると、黒人はいきなり怒り始めた。


「ヘイ!こっちが質問するまで喋るな!」


 いきなりの怒鳴り声に驚き、またタクロウは俯き黙り込んでしまう。


「今知っても意味がない。ただ昨日ホテルに着いた段階で……」


「……」


「お前は既に実験対象になっていたんだよ」


 その言葉でタクロウはふと顔を上げる。


「実験対象……」


「お前は実験対象として一日中の動きを観察され、ホテルで寝静まった後にこちらで色々と試させてもらい、今お前は死ぬ事もなく目を覚ました」


 やはり何かをされたと分かり、タクロウは怒りを露わにして状況に構わず大声で怒鳴り出した。


「色々って何だよ!!」


 タクロウが声を張り上げると黒人が急に近づき、


 [ッガン!]


「勝手に喋るなと言っただろ!」


 思い切り顔を蹴り上げられてしまった。

 視界も悪く、縛られて受け身も取れずに歯を食いしばっていなかったので口の中があちこち切れてしまい、血を大量に吐いてしまう。


「……っく……うぅ……」


 じゃあ目を覚ます確率はどんなもんだったんだよ……ふざけんじゃねぇよ……。


「死んだアイツと違い、お前は目を覚ました。もうお前は″実験対象″じゃなく″実験体″だ」


 タクロウはやっと体中の痛みの意味が分かった。


 寝ている間に何か薬を盛られたんだ……後頭部から首まで熱いし痛いし、体中の痛みも強くなってきた……。


 何をされたか明確にも分からない。

 聞く気力もなくタクロウはこいつ等のマウスになる位ならと目を瞑り顔を下ろし呟いた。


「……殺してくれ」


 どうせこんなギャング紛いの奴等に好きにされるならと、二度目の覚悟を決めた。

 すると白人二人がいきなり動き出し、タクロウの体を押さえ、髪を掴み首筋に注射器の様な物で何かを打った。


「な……何を!っ痛!!……」


「現段階で残念ながら俺達にはお前を殺す権利がない。

 その台詞は俺達のイカれた"ボス"に言ってくれ。それと、多分お前は"こっち"で働いてもらう事になる。

 とりあえず今は寝てろ」


 タクロウはとりあえず寝てろの言葉で一気に意識が朦朧としてきた。

 そして意識が飛ぶ直前、黒人の小さな一言が聞こえた。


「すまねぇな……」


 タクロウは最後の言葉の意味も分からずそのまま寝込んでしまい、少し長い夢を見る事になった――。



「うるあぁぁぁー!!」


 ――ナンデオレダケ――


「知らねぇーよ!もう置いて行け!!」


 ――モウイヤダ――


「目から血が……銃をよこせ!!」


 ――ドコデオワリ?――


「駄目だ!足だけでも使う!後で拾えよ!!」


 ――カエリタイ――


「……うるせぇんだよ……失せろ……」


 ――モウツライ――


「……あいつ等に……会いたい……」


 ――死ナセテクレヨ――



 ――激しく移り変わる不思議な映像が薄れていくと、タクロウは夢から目を覚ました。

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