無限界突破〜異世界魔王の末裔は諸刃の最強〜

福嶋晴矢

一章 ACCIDENT

【無限界】

 ――現世界、地球。


「おぉるあぁぁぁぁ!!」


[ズドーーーーーーン!]


 結膜が黒く濁り、赤と黒の混じるオーラを放つ男が上空に浮かぶ者に目掛けてとてつもなく大きな魔力法撃を撃ち放った。


 その法撃は宇宙空間まで飛び出し、大き過ぎるが故に小惑星を次々と飲み込み破壊しながら徐々に消えていった。


「はぁ……はぁ……あいつの"気"と"魔力核"……どうなってんだ?でも絶対こんなもんじゃ死んでねぇよな」


 とてつもなく強力な戦闘力を持った者と戦っているようだが、知っているようで知らない相手だった。


「単独で銀河全体に結界張っちまったせいでルシファーはここに干渉できねぇだろうし、このまま一人で戦うしかねぇよな」


 男は宇宙空間に出ると、周囲を見渡しながら吹き飛ばした相手の生命力を探し始めた。


「!!」


 ふとした瞬間に無数の赤い光が男を包み込み、その光は人一人を囲む結界の壁となった。


「結界!?っつーか魔法!?こんなことできるのは俺とルシファーだけのはず……!!」


 魔力結界に囲まれ身動きが取れなくなった男の前に、魔力波で吹き飛ばした者が姿を現した。


「てめぇ!一体なんな……え?」


 姿を現したその者は、男ととても良く似た男。

 異なるところは肌は黒く、眼球の結膜も赤黒く染まり、腰下まで伸びた髪。

 それ以外の容姿は全て瓜二つだった。


「どういうことだ……何なんだてめぇ!」


「威勢良くぶっ放してきた割にはスッカスカのかめはめ波だな。見ての通り俺はお前だ」


 男は理解できず、困惑しながらも自分の法撃を馬鹿にされたことに腹を立て、結界に手を当て魔力を注ぎだした。


「……フンッ!」


「オラッ!無理矢理破ろうとするな!焦んのは分かるけど、まずは俺の話しを聞けっつーの!ったく、魔力の無駄使いはまだ直ってねぇのか」


 "まだ直っていない"。

 男は気になり、魔力放出を止めて結界から手を離した。


「……お前が俺だって言うなら未来からでも来たってのか?分かるように説明しろよ。ルシファーはお前見た瞬間"この宇宙の神"だって言ってたんだぞ?」


「そうだ、未来のお前だ。それにしても昔の俺にしちゃ〜察しが良いじゃねぇかよ?そんじゃあ端的にいかしてもらう。まず、俺の生命力核を感じて不思議に思っているだろ?これはお前も持っている神の能力、"言霊"でこの宇宙の創造主を吸収した。そしてこの世界に来られたのも言霊の力だ」


 またもや理解の難しいことを言いだした。

 能力や創造主は分かるが、"吸収"など漠然とした内容に困惑する。

 未来と言っているのに"時間軸"ではなく"世界"というのも引っかかる。


「あのよ、未来の俺。端的にって言うけど、質問はさせてもらえんのか?」


「質問はなーし!俺はある程度生命力を温存しないといけねぇんだ。

だからさっさと話してお前と融合して眠りにつかねぇと……」


 未来から来た男はやらなければならないことがあり、そのために過去に来たようだ。

 過去に来た反動で生命力を消耗しているのか、多少疲れているようにも見える。


「この世界の俺は"地球"と"タスリーフ"の問題が全部片付いたばっかりだろ?気持ちが浮ついて押し迫る危機が目の前にあることにも気付かねぇくらいのボンクラだったからな」


「え?はぁ!?俺がルシファー以外と融合できんのか!?っつーか危機って――」


「質問はなしじゃーい!」


 チッ……だったら気になるワード連発すんなよ。


「あぁ〜、今の俺は"無限界"をどこまで知ってんだっけ?」


「……宇宙空間と別の宇宙空間の間にあるやつだろ?」


「今はその程度か。もう結界解くぞ」


[パチンッ……パリーン!]


 指を鳴らすと魔力結界が硝子が割れて粉砕したように解けた。


「頭を貸せ。俺が言霊を使って手に入れたある映像を見せてやるよ」


「はぁ!?なんで言霊の能力をそんなことに――」


 男は未来の自分に頭を掴まれると足元に魔法陣が展開し、魔法で脳裏に映像を送り見せてきた。



・~・~・~・~・~・~・~・~・~・



 宇宙の最果てには、この世の全てがあり同時に全てを壊し消し飛ばしてしまう空間がある。

 無量絶無の闇、限り無い無限の光、界繋の三界死界。


 矛盾で満ちるその空間を神々は"無限界"と名付けた。


 神でさえ入る事の難しい空間の中を浮遊する一人の男がいた。

 その空間では自身で動く事はできず、身を任せて何処かへ抜け出るまで待つしかないようだ。


「「気持ち悪ぃ……聞いた通りだ。気を抜くと全て崩れそうだ」」


 宇宙空間とは全く異なり、四方八方に沢山の明るい光が無限に輝いているが、何もかも無にしてしまう闇も存在するため、光が強く発光するとすぐに闇に飲まれ消える。


 その様に幾度となく男の周囲でも繰り返され、何処も彼処も同じ風景でどの程度の速さで移動しているか分からない。

 不安な気持ちが募ると全ての感覚が徐々に鈍り、魂諸共、自身の存在全てが消えて無くなる幻覚が何度も襲う。


「「たしかにこれは限界突破した"聖魔法"を使わないと死んじまうだろうな。

 っつーか、無限界に入ってどの位経ったんだろう?長いし……辛いな」」


 男は一度この無限界に入った経験はあるが、単独での侵入は初めての事。

 普通は入る事も出る事も出来ない場所に男は魂の憑いた思念体のみで存在している。


 この男は元居た世界の理によって生物として必要不可欠な生身の肉体が崩壊してしまい、ある存在をきっかけにそのものが維持出来なくなってしまった。


 しかし、とある神や悪魔などの人外種や多くの人の手を借り、人外種が持つ"特殊能力"。神だけが使う"魔法"。

 太古の龍神が持つ"聖神気法"を掛け合わせ、存在できる"宇宙"が変わる事となるが、無限界に入っても魂が消える事無く、迷う事無く別の宇宙へ渡る事が可能となった。


 それでも気を抜くと男の存在は消えかかり物事一つ考えられなくなってしまう。

 そんな中で何度も何度も息詰まる空間に動揺し、そしてその動揺は空間にも変化を齎してしまう。

 何かを思い出し深く考え出すと空間が揺らめき、無数にある光はまるで万華鏡の様にいくつもの鏡と変化し、過去に経験した物事をその鏡に映像として映し出す不思議な空間。


 しかしそれ等は男が経験した真実では無いが同じ時間軸で起きた過去の映像。


 言い換えればそれは無限にある平行世界。


 しかし、次元がねじ曲がり、様々な同じ世界で様々な事が起きていたとしても、これまでどのような経験をしてどのように解決していようが、今現在という終着点は全て同じ。


 男はこれまでの努力によって次元を同一にした。同様となった。同等に出来た。


 従って何が映し出されようと、男の動揺が重なり混乱するようなことは少なかった。

 しかしながら、男は今まで過ごした宇宙で辛かった事や楽しかった事も全て忘れようと心に決めて無限界へ入った。


 それなのに無限界を抜けるまで何も考えずに進むということが出来ず、何かを思い返せば動揺をぶり返し、今での過去が映し出され、映し出されては無心となって映像を極力減らすということを繰り返していた。

 その繰り返される男の動揺は虚しさからくるものであった。


 無限界に入る前までの事を思い出す事により、過去だけでなく元居た宇宙空間の現在でさえも見えてしまう。


 なぜ虚しいか。


 それは今まで過ごしていた世界には既に"本当の自分"が存在している。

 普通ならば無限界に入った時点で自分という存在は元の宇宙から消滅してしまう。

 しかし、"ある事"がきっかけで存在は受け継がれる事となり、男が消滅してもその宇宙からの存在消滅は免れられた。


 受け継ぐ者を作らず無限界に入り存在が消滅すると、男がその世界にいた事実、生きた形跡、全てが無となり忘れ去られてしまう。

 男は受け継ぐ者に全てを任せて無限界に入った。


 覚悟をしていた事だが、その世界で現在も回り続ける時間には今ここにいる自分自身が関与出来ないのが虚しかった。


 男は泣いた。


「「平行世界は何処までも何から何まで存在するって言ってたっけ。

 あの野郎が管理する宇宙はどうなんだろ。

 また向こうで……あいつ等と会えるかな――」」


 男はこの超越した虚無の最果てとなる無限界空間を、無限にある時の中で、無限にある物質の中で、いつか目指す場所へ抜けるその時まで周りで映し出される映像を横目に進み続けるのだった――。



・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


「これで終わりだ。

 一つ言うとな、俺の未来……お前の未来はどの未来でも残念ながらバッドエンドしかねぇんだ。

 その中でハッピーエンドと思われるのが今の映像っちゅーわけ」


 男は意味が分からなかった。

 分かったことは、未来の自分の解説入りで無限界を初めて詳しく知ることができた。


 ……どこがハッピーエンドなんだよ。俺は無限界を越ようとすんのか?何のために?


「お前はこのままだといずれはこの宇宙空間に存在する全次元を滅ぼそうと動きだす。今まで過去の記憶によるデジャブ、夢、を頼りになんとかここまで来ただろうけど、これからのお前を左右する"最悪の分岐点"が訪れる。その分岐点の到達はどうしても回避不可能だ。だから俺はここに来たんだ」


「全次元を滅ぼす?俺が?(笑)」


 未来の自分の話しは全て胡散臭い。

 今の自分ではありえない話しで、驚くどころか失笑してしまう程だった。


「今は考えられねぇだろうが事実……だ。

 俺は履き違えてたんだ……自分へのメッセージを。

 そしてそれがどんな意味を指していたのかを……やべぇ、もう限界だ……」


 未来の男は話しながら睡魔が襲ってきたように目が虚ろとなってくると、突然体が白く発光し始めた。


「おい!何してんだよ!?消えんのか!?全然意味が分からねぇ!お前は何のために……俺の最悪の分岐点って一体何!?」


「クソッ。魔力なんか使うんじゃなかった……その時が来るまでお前の生命力核で眠らせてもらう。良いか?良く聞け……俺が来たのは――を救うためだ……言霊が必要になる……魂を六つはストックしとけ……そのために両世界でお前を魔王と認めさせろ……過去を振り返れ……お前は思い違いをしていることがある……自分を信じ……あぁ、もう無理」


 精力を振り絞り、過去の自分にやってほしい事を命じるように伝えると、小さな光の塊となって男の胸の中へ入り消えていった。

 男は胸を擦りながら融合後の変化を確かめた。


「身体に変化がねぇってことは、本当に寝てんのか?……"誰かを救うため"、"魂を六つ"、"魔王"、"思い違いをしているから過去を振り返れ"。

 そんで自分を信じろって……これだけじゃ何が何だか分かんねぇよ!


 男は銀河全体に生命の破壊を防ぐためにかけた魔力結界を解くと、未来の自分が言った通りに地球に戻る途中で寄り道をして過去を振り返えりながら帰ることにした――。

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