第7話

「わかばの匂い」7


 祖父は人混みの中を僕の手を掴んで元来た方へ戻った。僕は手に力を入れてもみくしゃになりながら力一杯に祖父の手を掴んだ。


 祖父は関係者以外立ち入り禁止の扉まできて警備員さんに話し掛けた。

「お疲れさん。田村さんはもう来てるかい」

「関係者の方ですか」

「うん。何発目かは忘れたけど花火にお金を出した田村さんの知人です」

「え、あ、そうですか」

「うん。孫に花火見せてくれるって約束してるんだよね」

「そうでしたか、ではどうぞ」

警備員さんは僕の頭を撫でながら扉を開けてくれた。


 扉から少し歩いてから祖父が黒縁メガネの奥でニヤリと目を細めた。

「やったな、入れちゃったよ」

「知り合いが居るんじゃ無いの」

「田村さんなんて知らないよ」

「あぁあ、嘘ついちゃダメだよ」

「入れたからいいんだよ。特等席に行こう」

祖父はニヤニヤしてタバコをくわえた。

 祖父と二人で大勢の人が席を取り合っている反対側の芝生に座った。馬が走る外側だと思った。暗いからよくわからないが、何となくそんな感じがした。

 辺りは真っ暗闇で星空と遠くに見える客席の灯りと、花火師達が居る真ん中辺りに光があった。あとは隣に居る祖父のタバコの火が小さく見えた。


 夜空を見上げていると全身を打つ“ドンッ”と物凄い衝撃音が鳴り響いた。僕はびっくりして座っているが腰が抜けてしまった。

「健太みろ」

祖父と上を見ると大きな空一面を覆う花火が咲いた。続いて会場からは大きな歓声と拍手が聞こえてきた。

 続けてドンッドンッと花火が打ち上がっていく、ドンッとなる度に心臓がコロンコロン転がる感じがして驚きながらも夜空を明るくさせる巨大な花火に感動した。土星みたいな花火や七色の花火、パチパチ点滅しながら降ってくるやつ、色んな色の大きな花火がドンッと打ち上がった。祖父は僕にこの巨大で大迫力の花火を真下から見せたかったんだろうと思って凄く嬉しかった。

 祖父はそっと僕の頭を撫でた。


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る