第4話
「わかばの匂い」4
ほろ酔いの祖父は常にニコニコして僕の手の握って暗くなった夜道を歩いてくれた。
「明日は競馬場の花火行こうな」
「うん!」
「玉子焼美味しかっただろ」
「うん!」
「婆ちゃんと芳夫達には内緒だぞ」
「わかった!」
祖父はくわえ煙草をドブ川に投げ捨てた。
「おじいちゃんダメだよ」
「いいんだよ。ドブ川なんだから」
と、笑いながら歩いた。
雑草を燃やしたような匂いを感じた。なんだか心地良い匂いだった。
祖父は玄関のガラス戸を開ける頃には眉間に皺を寄せた、いつもの怖い祖父になっていた。
「遅かったんですね。健太も一緒だったの、帰ったのかと思った」
「俺が飯に連れて行ってたんだよ」
「せっかく作ったのに勿体ない。食べてくるなら言ってくださいよ」
祖父は祖母を無視して風呂場へ消えた。
僕はなんだか祖父が味方に思えた。
祖父母の家には母親の弟夫婦が居て、僕の三つ下の女の子がいる。
居間に入ると皆でご飯を食べていた。
「健太来てたのか、お前の母ちゃんも健太を寄こすなら連絡位したら良いのにな」
「ごめんなさい」
「明日から俺達は居ないけど爺さんに面倒見てもらえな」
僕は頷いた。
風呂から出て来た祖父は無言でタバコを吸いながら新聞を読み始めた。
「親父、カオリが居るんだからタバコを吸うなよ」
祖父は舌打ちをして、藤子不二雄の短編集を読んでいる僕に目で合図を送ってきた。
祖父は何も言わずに二階へと上がっていった。
僕も短編集を持って二階へと向かった。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます