第3話
「わかばの匂い」3
走り疲れて高速道路の下で立ち止まって涙をTシャツの袖で拭いた。
「健太」
聞き慣れた声の方を向くと祖父が立っていた。仕事帰りの祖父であった。
「どうした」
「婆ちゃん、僕にいつ帰るのって、僕は今日帰るっていって」
「一人で来たのか」
僕は頷いた。
いつも怖い祖父はニコリと笑って僕の手を掴んで駅の方へ向かった。
「じいちゃんとご飯食べよう。腹減っただろ」
「僕、帰らなくて良いの」
「何でだ。ゆっくりしていけ夏休みだろ」
僕は頷いた。
いつも祖父母の家に行くと祖父は怖い顔をしていて近づくのが怖かった。でも、僕の手を引く今の祖父はニコニコしていて、僕が泣いていたのを知ってるみたいだった。
祖父はいつも来ているであろう小料理屋に入った。
「いらっしゃい。あらよしさん可愛い子連れてるじゃない」
着物を着たおばさんが笑っている。
「孫だよ」
「初めて連れてきたね」
「ガキは嫌いだからな。健太座れ、何でも頼めよ。このおばさんが美味しいの作ってくれるからな、婆ちゃんの飯より美味いぞ」
祖父は相変わらずニコニコしながら僕を座敷に座らせた。祖父も僕の正面に座りハンチングを取りおしぼりで顔を拭いている。
タバコを取り出して100円ライターで火を付けた。
祖父のタバコを見るとひらがなで“わかば”と書いてあった。
つづく
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