第2話
「わかばの匂い」2
無事に南浦和まで到着した。
母親と来るときに必ず食べる立ち食いそばを通り過ぎて改札をでる。ここの改札のおじさんに切符を出すときには澄まし顔でサラリーマンの後に並んで手慣れたものである。いつも通ってますからと言うような顔である。大きな階段を人混みに紛れて降りると大きなバス停があって、パチンコ店や居酒屋がたくさん並んでいた。母親と歩いた道を思い出しながら緊張しながら歩いた。毎年寄る本屋さんに入って藤子不二雄の短編集の持っていないのを買った。早く読みたかったが我慢してリュックにしまって祖父母の家へ向かった。高速道路を見上げながら進んで、臭いけど懐かしいドブ川を覗いて石を投げた。ヘドロにめり込む石を見て“オエッ!”となりながら進んだ。
小さな公園を通り過ぎて曲がり角を曲がると祖父母の家である。
緊張しながらインターホンを鳴らした。
少し間を置いてガラスの引き戸が開いた。
祖母が出て来ると同時に無表情で「健太か、いつ帰るの」と言った。
僕は「いつ帰るの」の言葉にショックを受けて何も言えなかった。じわりと喉に溜まるツバを飲み込んで「今日、帰る」と言ってしまった。
家からの楽しかった旅路が音を立てて消えていくように感じた。
居間の隅に座りリュックから藤子不二雄の短編集を取り出して読み始めた。祖母は何も言わないで台所に向かった。
外から夕焼け小焼けが流れてきて、なんだか凄く帰りたくなって祖母に気付かれないように外に出た。
さっき来た道を走った。
誰も知らない夕焼けに染まった道を泣きながら走った。
つづく
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