わかばの匂い

門前払 勝無

第1話

「わかばの匂い」1


 僕は祖母が大嫌いだったー。


 小学四年生の夏休みの事であった。祖父母の家まで徒歩と電車で1時間半である。小学四年生の僕にとっては大冒険であった。


 母親は明後日に迎えに来る予定で僕は一人で祖父母の家まで旅に出た。


 近所の景色もリュックを背負って見渡すと、見たことも無いような景色に見える。アリアハンから旅立つ勇者の気分である。いつもは自転車で駅まで行っているのに徒歩となるとじっくり近所を見て回る事が出来た。いつもお菓子を買いに行く服部商店を通り過ぎて、ベーカリー長楽を通り過ぎて、大通りを手を挙げて渡る。駅前商店街には人がたくさん居て恐る恐る進んだ。誕生日プレゼントを買ってもらったタミヤの玩具にたむろす同じくらいの歳の子を少し大人目線で見ながら通り過ぎる。買い物帰りにいつも母親と寄るタコ焼き屋のお婆ちゃんに手を振りながら、床屋さんを越えて改札に向かう。

 切符を買うのに乗り換えの駅を路線図で探した。

 下赤塚から南浦和まで、朝霞台で降りて北朝霞から南浦和に行く。声に出して繰り返していると、駅員さんが切符の買い方を教えてくれた。

 僕はお礼を言ってから、カチカチ切符切る準備をしている改札のおじさんに切符を差し出した。

「気を付けていくんだよ」

改札のおじさんは優しく微笑んでくれた。不安だった気持ちは少し明るくなった。


 電車の車窓からの流れる景色を見ながら“初めての大冒険は順調、順調”と思いながらハートチップスを食べた。


つづく

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