第14話
阿束らしき都市が見えてくる。
城塞があったり、なんてことはなくただの都市のようだ。
「どうやらここのようですね」
「うむ」
どうやら阿束で間違いないようだ。安堵の息をはく。
そして阿束を見ていて気づいたが、何やら旗がたっている。なんと書いているかはまだ見えない。
「しかしまあ、本当に遠かったなあ」
つぶやく。現代だったら車や何やらであっという間に遠くに行けてしまうが、こうやって自分の足で移動しているとその偉大さがとてもわかる。
これは確かに命懸けだ。
「言っておくが、ここは商人の都市だからな。わしの金も無限ではない。ぼったくられるなよ」
「もちろんですとも」
「わかっているさ」
「ならばいい」
金も無限ではないと言ったが、どれくらい持っているのだろうか。命からがら逃げてきたというのに、ジャラジャラと持っていたらその貪欲さに笑ってしまうかもしれない。
「まずは阿束での行動を確認するぞ」
岡本はそういった。
「まずは上鶴に会う。これはわしがする。その間2人で阿束の情報収集でもしておけ。その後合流、河東軍がいたらそのトップと、まだ来ていなかったら情報収集の継続だな」
情報収集、か。まあ未知の場所だし道をある程度把握するだけでも役に立つだろう。具体的なことは船本と後で相談すればいい。
「商業都市阿束か」
どんなところなのだろうか。
「うまいものもあると思うぞ」
岡本が言う。食事が好きそうな岡本のためにどこか良さげな場所でも探そうか。
「どんな人がいるかも興味がありますね」
船本と岡本は互いに興味のあるものがあるようだ。
「私は強い人と戦ってみたいかな」
俺もなんとなくそう言っておく。もしかしたらそんな余裕は無いかもしれないが。
そんな風に会話をしていたら、すぐそばに阿束が迫っていた。
そういえば、旗がたっていたな。どんな文字が書いてあるのだろうか。
旗は沢山たっているため、すぐ見つけられた。
「済度征服……」
知っている。河東が使っている旗だ。つまり、既に河東軍は阿束に到着している。
2人も俺の言葉で気づいたのだろう。旗を見る。
「どうやら、効率的にことを進めれそうだな」
岡本が笑った。船本も頷く。
そして俺たちは、阿束に足を踏み入れた。
「ではわしは上鶴に会ってくる」
「そんなすぐ会えるものなのか?」
「ふん。岡本家の名を舐めるなよ。この地に残る数少ない正式な貴族であるからな」
そういって迷いなく岡本は進んでいった。
岡本からは多少の金銭を貰っている。まず船本と相談しながらこの都市を歩いてみるか。
「少し腹が減ったな。どこかで少し食事しよう」
「おー。いいね」
しかしまあ、すごい人混みだ。前世では普通だったが、この人生ではここまでの人混みは初めてだ。
「泉山はこういうところ、初めてか?」
「まあ、初めてかな。少し気分が悪くなるよ」
「そんなものさ」
かき分けて進む。今はどこに行っているのだろうか。疑問に思ったので聞いてみる。
「今はどこに向かってるんだ?」
「わからん!」
「えっ」
船本はクックックと笑った。見事な悪役笑いだ。
「冗談さ。ほら、見てみろ。ちらほらと剣士がいるだろ?」
周りを見る。たしかに、なんとなく剣士のような出で立ちの男がちらほらといる。
「ああ。たしかにな」
「ご主人が帰ってくる前に彼らの本拠地の目星でもつけておこうと思ってな。泉山もそれらしき場所を探してくれ」
「わかった」
たしかに、意識すると剣士がたくさんいるのがわかる。なるほど目星をつけるのは簡単そうだ。
そして俺は気づいた。何やら人が円を作っているのだ。
真ん中は空いていて、さもこれから決闘が始まるような雰囲気だ。
「おい、あれ……」
「ああ。行ってみよう」
俺らも野次馬のひとつになることにした。危険そうだったら突入することも考えないとな。
「お主、であるな。拙者の仇……!」
「ええ!? な、なんのことですか?」
2人いた。1人は男だ。まさにサムライといった出で立ちで、何やら怒っている。刀を片手に今すぐにでも切りかかりそうだ。
もう片方は女性。茶髪だ。サムライ男が仇、といっていたがなにか恨みを買うことでもしたのだろうか。どうにも気の弱そうな感じで、俺にはあまり悪いことはしなさそうに思える。
「ようやく見つけた。これで、拙者の仇討ちの旅は終わるのでござるな」
「ほ、本当になんのことですか? ……ボクなにか失礼なことしました?」
サムライ男は自分にひたっているのか、女性の声が耳に入っていないようだ。
「さらば賊よ!」
「だから関係ないって言ってるじゃないですかぁ!」
まずい。あのサムライ男まじで切るつもりだぞ。俺は船本に視線をやる。船本も頷き返した。
女性は丸腰だし、一旦落ち着かせよう。俺と船本は円の中に入った。
「やあやあ、私は船本幻遊。そこの人生に迷える剣士よ、私の彼女に手を出さないでいただきたいな」
……彼は何を言っているのだろうか。野次馬たちが口笛を鳴らしたりしている。
思っていた飛び込み方とは違うが、どうやらサムライ男の意識はこちらにむいたようだ。
「何やつでござる!」
「それはそこの白髪の少女が教えてくれる」
「なんでそこで私に飛び火する!」
場面が混沌としてきた。俺はため息をつき、サムライ男が誤解しているかもしていないことを伝えることにした。
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