第13話
とある森の中。一人の男は川辺で涼んでいた。川にある小石がキラキラと輝いている。
彼は退屈しのぎにここにいるだけだが、思ったより居心地がいい。
しかしその心は満足していない。闘争を求めていた。そんな時、一人の浅黒い男が彼に話しかけた。
「愚者よ。お前は、なんだ?」
浅黒い男は、彼にとっては難しい言葉を話しかける。
彼の気分は浅黒い男を殺すことに傾いたらしい。ちょうどいい暇つぶしである。
2本の刀を抜く。二刀流だ。浅黒い男は目をつむる。
「お前だな。2足の百足」
「だせえ名前で俺さまを呼ぶな。最強殺しと呼べ」
「ああ。お前は愚かよ。己の諸行を悔いよ」
瞬間。浅黒い男の辺りには10本ほどの刀が浮いていた。
「面白いことすんじゃん。名前は」
「……サヴァシュ」
サヴァシュ、と名乗った浅黒い男は開眼した。
そして始まった。サヴァシュは自分の辺りを浮く刀を百足へと飛ばす。
百足は自身が知覚するまもなく、無意識に刀を打ち落とす。
「能力を食らうは真か」
「ああ、そうさ。だから俺は最強を探す。お前も殺して俺の糧にしてやるよ」
満面の笑みで百足は喋る。サヴァシュを殺し、その面白そうな力を使ってやろう。彼の中で勝ちは確定していた。
サヴァシュは再び刀を飛ばす。しかし、無意味である。
「知ってるぜ。そういうの。芸のないやつって言うんだろ!」
繰り返す。飛ばしては、弾き、飛ばしては、弾く。
そして百足は気づいた。サヴァシュ本人は刀を持っていないのだ。つまり、接近すれば簡単に殺せそうだと読んだ。
「行くッぜ!」
サヴァシュの刀は百足という1つの的を狙い続けている。とても単調な動き。横に移動するだけで簡単に避けれそうだ。
横に軽く飛び、姿勢を低くして一気に大接近。刀は追ってこれていない。
ニヤリと笑う百足。そして、クロスで刀を下から上につき上げる。
「刀、也」
サヴァシュは落ち着いた様子で宙に浮いてる刀を取り、クロスの攻撃を防ぐ。
互い押し合うが、徐々に徐々に百足の刀が押されていく。
「なんで、お前、片手しか使ってないのに……!」
更には空中の刀の追撃。これには百足も引くことしかできない。
近接の方が厄介だとは痛いほどわかったが、おそらく力が強いだけ。剣戟になったら簡単に勝てるだろう。そう踏んで、再度接近。
先代剣従から奪った剣技で無理やり使っている、二刀流という刀1本の動きとは違う百足独自の剣。それなのに、サヴァシュは刀1本で退屈そうに打ち返してくる。
右の刀で左下に切る。避けられた。左下来た2本の刀で同時に右上に切る。サヴァシュが横に刀を振るうだけでうち1本が吹き飛んだ。
百足は左右にジグザグと移動しながら刀を追い、空中でキャッチ。
左右に揺らすと追撃がこない。そう気づいたのだ。
「1つ、教えてやろう」
「あ?」
「俺の力は刀を浮かせる能力、というわけではない。俺が刀だと思ったものが俺の力の対象になる」
「どういうことだよ。難しいこと言うなよ!」
「つまり、だな」
地面が揺れる。辺りの木が浮き、川の小石が浮く。
「な……」
絶句、である。この光景は明らかに常識を外れている。夢だと言う方が、まだ説得力がありそうだ。
「こういうことだ。さらば、惨めに死ね」
「うおおおおお!?」
世界が敵になった。まさにそう表現するのが適切である。石が、木が、いや。木の葉までも百足を敵とみなして攻撃してくる。
百足は逃げた。避けて、切って。生き残るために全力を尽くした。
サヴァシュの声が聞こえる。
「2度と、極瞬流と関わるな」
次は殺す。それだけを言い残して、サヴァシュの猛攻は終わった。
「ッ……。なんだ、ったんだ」
荒く呼吸をしながら2足の百足は考える。極瞬流。おそらく、剣従とやらがいたところだろうか。
「アイツ……」
許さない。そんな言葉は百足の恐怖心が声に出すことすら許してくれなかった。
百足は自分の体を見る。ボロボロであった。服はズタズタになり、全身が出血しているのかと思うほど体は血に濡れている。
――2足の百足、人生で初めての敗北であった。
◆ ◆ ◆
「良かったのか? 殺さなくて」
黒髪の少年がサヴァシュに話しかける。
「ああ。……それにしても、春元。いたのか」
「あ、当たり前だろ! 俺はお前の監視役だぞ」
少年――春元は顔を赤くして反論する。
可愛げのある男だ、とサヴァシュは思う。だからこそ自分の監視につけられたのだろうか。要らぬ考えが頭をよぎる。
「それにしても、あの男。強かったな」
「ああ。そうだな」
サヴァシュ自身、あの戦いにはとても驚いていた。まさか、あそこまで戦えるとは思っていなかったのである。凡人なら最初の刀で、才能があるものも結局は死ぬ。
勝つことはわかっていたことだが、最後の猛攻すら生き延びるとは少し想定外だった。だからだろうか。2足の百足を生かしたい。そう考えてしまった。
サヴァシュは常に孤独であった。その力は周りから恐れられる。
しかし、同じバケモノなら?
いつか、対等に語り合えるのでは?
そんな考えがトドメを鈍らせた。寺正の死期が近いからだろうか。サヴァシュは寺正のように自分を人間として見てくれる人物を探していた。
それに、2足の百足を殺してほしいという願いは寺正ではなく極瞬流の願いだと気づいていた。
警告はしたから百足はもう極瞬流に近づこうとしないだろう。そう考えたのだ。
「さあ、帰ろうぜ」
サヴァシュは焦っていた。寺正が死ぬ前に、自分を受け入れてくれる人物を。だからこそだろうか。
彼は、もう既に自分を人間として見てくれている人物がすぐ近くにいるのを、気づけていなかった。
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