第15話
「いやあ、申し訳ないでござる。まさか誤解とは」
はっはっはと笑いながらそういうサムライ男。人騒がせなやつだ。
「怖かったですよ、ボク」
涙目でそういうのは襲われていた女性。気の弱そうな顔と相まって、とても守ってあげたくなるよう雰囲気を醸し出している。
「まあ怪我人がでなくて良かったよ」
俺の言葉にみんな頷く。
「それにしても、珍しい格好だな」
船本が興味深そうにサムライ男を見つめる。
「船本、サムライを知らないのか?」
とても驚いた。もしかして、この国で剣士という言葉がよく使われているのはサムライという概念が存在しないからなのだろうか。
てっきりサムライ=剣士という言葉の差だと思っていたが、どうにもそうでは無さそうだ。
「泉山は知っているのか?」
「そりゃまあ」
「うーむ。泉山どのは博識でござるな。この国でサムライを知っている人はいないと思っていたでござる」
サムライ男もそういう。この国、ということは他の国の出なのだろうか。
「サムライどのの出身国は?」
「うむ。京之国である。名前は木兵衛と申す」
京之国。たしか、この島国1の強国。帝をトップとした国だったか。
「そういえば、茶髪どのの名前はなんというのでござる?」
「ボクですか?
うーん。襲われていた男に名前を聞かれるとはなかなかに犯罪臭がする。
「そうであるか、拙者今金銭がないのでござる。なのでいつかどこかで会った時に今回の件、お金で謝らせていただくでござる」
そういって木兵衛は足早に去っていった。何だったのだろうか。
「あの……」
解決かな、と俺たちが去ろうとした時。村上が話しかけてきた。
「ありがとう、ございます」
「問題ない。私は船本。そっちの白髪は泉山という。また何かあれば気軽に話しかけてくれ」
歯をキラリと光らせて船本はそういった。
「じゃあそろそろ集合場所に戻るか」
「そうだな。ご主人を待たせているかもしれん」
3人で歩く。しかしまあ集合場所がどこにあるのか移動しすぎてさっぱりだ。これといって目立つ建物もないので、これは勘に任せるしかない。
「……で、なんでついてきてるんだ?」
「す、すいません。道が同じだったので……」
「そうか」
てっきりもう別れの挨拶をしたつもりだったから気まずい。俺はチラリと村上を見る。
顔も可愛いし、船本が鼻の下を伸ばすのわかる。
……3人で歩く。
「そういえば、どこに向かってるんだ?」
「えっと、ボクこの都市に来たのが最近なので、香料の店を探してて。それで詳しそうなお2人に聞こうかなって思ってて」
「だってさ、船本。知ってるか?」
首を振る船本。知らなそうだ。
「ごめん。私たちも今日来たばっかりなんだ」
だから店の場所はわからない、と伝えると泣き出しそうになった。
「ああ、わかったわかった。一緒に探すから。な? 船本」
「ああ。そうしよう」
鎌戸。外見は俺と同じくらいの背だし、同年代だと思うんだけど精神は少し幼そうだ。心配だからここで放っておくわけにもいかない。
「じゃあ、香料の店を探すか。私は船本についてきただけだから、たのむぞ」
新しい場所は好きだ。けど、どうにも方向音痴なのでこういうのは得意そうな船本に頼むしかない。
「うん? 私は今まで泉山についてきただけなのだけど」
「えっ」
どうやら冗談ではなさそうだ。しまったな。この阿束につくまで船本に頼りっきりだったから、つい知らない場所は船本が、と思ってしまっていた。
「え、えっとぉ……ボクたちって迷子、ってことですか?」
その言葉を否定する人物はここにはいない。
このなんとも言えない空気が漂う。
俺と船本は顔を見合わせる。そして、さも自信ありげに歩き出す。
――長い旅が始まりそうだ。
その後3人は無事香料店を発見し、その後別れて集合場所へたどり着くことも出来た。
しかし、かなり長い時間待たされた岡本に怒鳴られるということになった。
◆ ◆ ◆
「参ったなあ。本当に参った」
剣従は1人、部屋で頭を抱えていた。
この前の寺正との対談で信頼を失ったのは確実である。
そもそもの話今、極瞬流は分断状態にある。
幹部クラスしか知らないことだが、剣従の剣技は代々受け継がられているのだ。契約で双方の同意により、現剣従が次剣従に力をたくす。
剣従は先代の剣技をたくされたことで極瞬流の剣従となるのだ。
しかし、その剣従が殺害された。そこまではまだ例のある事だ。殺した相手が悪かった。
2足の百足。彼奴は先代剣従の剣技を使ってくる。力をたくされていない剣従と、力を持っている百足。
極瞬流は分断してしまった。
「まだ取り返しのつくはずだったんだけどなあ……」
だから頼んだ。寺正に、いや、サヴァシュに2足の百足討伐を。
剣従は2足の百足がサヴァシュに殺されること前提で緻密な計画をねっていた。
それが崩れたのである。サヴァシュが2足の百足を取り逃したことによって。
「明日は剣従としてたっているかもわからないなあ」
剣従は憂鬱そうに席を後にする。
酷く重い、足取りであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます