第11話
「……朝、か」
痛いほど眩しい太陽が目を刺す。昨日俺が寝落ちした後誰かが運んでくれたのか、布団の中で目が覚める。
久しぶりにまともなところで寝れた気がする。
自分の中の怠惰がもう1回布団の中に入ることを勧めてくる。そんな欲求と戦いながら俺は体を起こす。強敵であった。
「あら。お目覚めですか?」
廊下に出ると、すぐに話しかけられた。女性だ。寺の召使いのような人だろうか。
「はい。おはようございます」
「
「ああ、私が行きますよ。忙しいでしょう?」
住持とは法空のことだろうか。どうにも俺が起きたことを伝えに行ってくれるらしいが、忙しそうなので俺が自分で伝えに行くことにした。
「本当ですか? でも……」
「いやいや。気にしないでください。暇人になってしまうのでね」
そういうと女性はクスリと笑い、法空の居場所と感謝を述べて去っていった。
「寺の庭、だったか」
俺は寺の庭とやらを探すことにした。
とりあえず右に曲がってみる。……今までと何1つ変わらない光景が広がっていた。
寺の庭への道くらいは聞いた方が良かっただろうか。しかし辺りに人がいるような気配はない。
「参ったな……」
ふと、木と木がぶつかるような音が聞こえてくる。心地良い音だ。
そんな音に誘われフラフラと歩いていると、船本と誰かが木刀で打ち合っているのが見えた。
「もうやってたのか」
そんな声が聞こえたのか、座りながら打ち合いを見ていたらしい法空と岡本がこちらを見る。
とりあえず俺はそこに行くことにした。
「ゆっくり眠れましたか?」
「はい。ありがとうございます」
「いやあ、まだ幼いのにしっかりしていますね」
笑いながらそういう法空。岡本が頷く。お前は俺の保護者か。
しかしどうにも彼、俺の年齢を誤解している気がする。
「私はもう18になりますよ」
少し強く言う。そうすると、法空は驚いた顔をして俺を見る。下からだんだん上へ行き、そしてある場所で止まった。
「そうですか……。子どもの頃に沢山食べれなかったのですね……」
「誰が貧乳だコラ」
ちなみに子どもの頃に1番食べていたのは俺だ。それのせいで胸が変に成長しないか心配だった時期があったが、そんなことはなかった。動きやすくてとてもいいと思う。
動きやすくていいという利点を説明すると、岡本が
「泉山……。気にしていたんだな。気にしなくていいぞ。多少小さい方がわしは好きだしな」
とセクハラをしてくるのだ。法空がそうだそうだと頭を振る。
ダメだこいつら。何をしても誤解が進む気がする。
セクハラオヤジ共を無視することにして、俺は船本と誰かの打ち合いを見ることにした。
「彼は?」
「この寺1の剣士らしいぞ。たしか名を
「ええ」
なるほどさすがは武に自信を持つだけはある。傍から見てもあの船本を翻弄しているように見える。
あ、1本取られたな。
やはり純粋な剣技だと船本は発展途上のようだ。
どうやら今の1本で試合は終了だったのか、船本は空峰に指導を受けているようだ。
どれ、俺も入ってくるか。
◆ ◆ ◆
結論から言うと、空峰は化け物だとわかった。
一切歯が立たない。何十年とかけたような達人の剣と、その技術に見合わない若い体。聞いたら24らしい。これが本当のバケモノか、とつくづく実感させられる。
「泉山」
「はい」
「軽さを意識しているのはわかるが、もう少し重心を落とさないとダメだな。さっきみたいに軽く振り払われる」
言われた通り腰を少し低くする。
「ああ、違う違う。物理的な重心じゃなくて、こう。わかるか? こうだ」
俺から見たら何1つ変わってない。やっぱり天才は感覚なのだろうか。
「うーん。感覚的に落とすんだよ。体で動かすんじゃなくて精神で落とし込むような感じ」
「あー、なるほど」
言われてみてなんとなくわかった気がする。なんとなく俺が掴めたのがわかったのか、次はまた船本の指導に戻る。
「船本は小手先にこだわりすぎだ。相手の足や自分の足の動きに重きを置きすぎて肝心の剣がダメ」
どうやら船本はほぼ自己流でやっていたらしく、とてもイキイキしている。1度は勝ったが次はどうなるのだろうか。また勝てるように俺は木刀を振る。
「そういえば泉山。刀はどんなものを使っている?」
ふと、そう聞いてきた。俺の2本持ちがいい顔をされないのはわかっている。それも剣にこだわりがありそうな人。少し躊躇うが、俺は言う。
「黒刀という刀身が長い刀と風輪刀という妖刀です」
片眉をあげる空峰。やはり、いい顔はされないよな。
「泉山。お前は刀を信じているか?」
「え、あー。はい」
「それならいい。2振り持つことが悪いことではない。刀を信用していないことは悪いことではある」
信じているか。そういわれると少し違うような気がする。黒刀を使っているのは春元の白永刀と合成してできる妖刀灰鉄丸が強力だからだ。風輪刀も最近ようやく使い始めた程度。
俺は刀を信じているだろうか。疑問に思ったことがなかったが、そんな考えがしばらく脳裏に焼き付いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます