第3話
「味方、なわけないよな」
「おう。あたりめえだろ」
春元。泉山春元。
昔泉山家を去った男。それがなんで、ここにいる?
「何が何だかわからねえ、って顔だな」
はっ、と鼻で笑いながらそう言った春元。
「私が知らない間にずいぶんとひねくれたんだな。かわいくないやつめ」
「かわいくなくて結構だよ。……そうだ、面白いことを教えてやろうか?」
ニヤリ、と笑ってそういう春元。正直、クールな顔をしているから言葉遣いがキャラと合ってないと思う。
そんなこちらの思いを知らない春元は気持ちよさそうにこう言ってきた。
「榊樹家襲撃はな、俺の命令なんだよ」
言葉は出なかった。まるで冗談の様にそういう春元は、知っているのだろうか。内成の決死の意志と親の成幸の息子を愛する気持ち。他にも、他にも殺された人達には色々な気持ちがあっただろう。悔しかったり、生きたいと願ったり、殺したいと憎んだり。
――そんな思いを、春元は知っているのか?
結局のところ弟だ、身内だと心の底から敵対心は持っていなかった。持っていなかった、のに。
「行くぜ。殺してやる」
春元は腰にある刀、白永刀を抜き出し上段からの一撃を放ってくる。
「ッ!」
一瞬。一瞬のことなのに、必殺の威力がこもっている。ここにいたら死ぬと、そう感じさせられるのだ。
大きく後ろに下がったが、体勢が、崩れる。
追撃に刀を振るう春元。
「刀すら抜かせないつもりか……!」
「当たり前だ」
あえて体を崩すことでよけれたが、尻もちを着いてしまう。
――こんなところで死ねるかよ!
両手を右について勢いよく地面を押す。そして右斜めに飛びながら空中で体をブリッジのように曲げ、手を地面に。足が地面に着く前に両手に力込めて地面を押す。足から地面への着地。体勢を整え、避けもする。
「やるじゃねえか」
楽しそうにケタケタと笑う春元。
どうやら余裕があると勘違いしてるようだ。
愛刀である黒刀を抜刀し、水のような動きを意識して春元に迫る。これは春元でも反応できない……!
「甘いな」
「なっ」
動いた場所にはもう春元はいなかった。
この一瞬で殺れなかった。
そうなったら体力、力共に上の春元が有利になる。
――でも技術なら俺がまだ上のはず……!
安易に切り込むな。受け流して隙を狙え。
深く腰を落とし込んだ右上への払いが来る。
流しきれず俺の白髪がハラりと落ちる。
即座に来る上段の振り落とし。
後ろにバックで避ける。
少し溜め込んだ俺の心臓を狙った一撃。
右側に避ける。が、右腕の二の腕あたりが少し切られる。
こいつ、隙がない。しかも守りに徹してるのに完全には受けきれない。
「姉貴さ、もうちょっと強くなかったっけ」
呆れた顔をしてこちらをみる春元。俺が今1番言われたくなくて、1番実感していること。この数分でわかってしまった。
――俺はこいつ、春元には勝てない。
「……バカが。俺はあえてお前と戦う時間を引き伸ばすために逃げの戦いをしてるんだよ」
……うそだ。時間が経てば増援が来るかもしれないし、本当に勝てるんだったらすぐに俺は春元を殺してるだろう。
「かわいそうに」
そんな俺の今生の兄、いや、姉としての強がりも、春元はそういうだけだった。
「かわいそうだな」
本当に、かわいそう。春元のそんな声が聞こえて来そうなほど春元は憐れむ顔をしていた。
「主だかなんだかのためだろ? 命をなげうっているのは」
「……そうだ」
「あーあ、ほんっとーに馬鹿なヤツ。だって地上にはサヴァシュがいるんだから」
「サヴァ…シュ?」
知らないはずがない。正真正銘の最強の傭兵。彼に勝てたものは1人もいない。そう言われている、浅黒い中東の家系の男。
ゲームで彼はチートっぷりを大々的にアピールされていた。作中で既に全盛期をすぎていたサヴァシュに、物語終了後の隠し要素として戦える。
ゲームプレイヤーは最強装備を整えて挑んだのに瞬殺された、というのが日常茶飯事であったし、何十回も挑んで勝てるのがやっとの敵だ。
それが今、作中より若いサヴァシュがここにいる……?
「おい、ビビったか? それはつまらねえぞ。せっかく戦いに来てやったから」
時間稼ぎのためのここにいる。なのに、主様はもしかしたら殺されているかもしれない。
じゃあ、なんで今ここで俺は戦ってるんだ?
「……おい。じゃあ、わかった。お前は、このまま情けなく殺されていいんだな? 死んだ後、主に会っても私は情けなく子鹿のようにプルプル震えて殺されましたーって言うんだな? あ?」
「……」
「僕はお前にチャンスをやってるんだよ。バカ姉。死んだ後誇れるようにな。じゃあ、最後くらいは本気出して戦えよ!!」
そう必死に言う春元に少し驚く。もしかして、こいつ俺と戦いたい一心でここにきてるのか?
「ああ、そうだ。そうだな。ごめん」
そういえば俺、ゲーム内ではデイリーボーナスとしてサヴァシュを狩っていたんだ、というのはすこし負け犬の遠吠えだろうか。
ふふ、と笑いが出てきた。気づいてないかもしれないこいつに、最後の煽りとしてこういってやることにした。
「お前、優しいよな」
プツリ、と糸が切れた様な音が春元から聞こえた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます