第66話 ロアナの街

66.ロアナの街








「あれが、ロアナの街か。」


帝国兵から手に入れた地図をたよりに結界で飛ぶこと数時間、今いるのは崖の上で見下ろすと森が広がっておりかなり遠くに街が見える。

地図の通り来たので間違ってなければあれがロアナの街のはずだ。


さて、どうしたものか。


街の中へいって情報収集をしたいが、そんな事はやったことが無いのでうまくいくかどうかわからない。

やっぱりここは定番の酒場へいけばいいのか?


「どうしましょうか?」


「うむ......どうしたものか。」


ロアナの街を眺めつつサイスさんと二人して考え込んでしまう。正直ここまで勢い任せできてしまった感は否めなかったが.....やっぱりなにかしら作戦を考えてから来るべきだったか?でもそんな時間は無いだろうしなぁ。



ドォォォォォォォン!



「うぉ!?」


「ぬっ!?」


突然爆発音が響き渡り、地面がぐらぐらと揺れる。


「あれは......明らかに何かあったな。」


ロアナの街から煙がもくもくと上がっていて、かすかに悲鳴のような声も聞こえる。


「サイスさん、ロアナの街へ行きましょうか。状況をみて俺達に都合がよければ騒ぎに乗じて乗り込みましょう。」


「うむ、微力ながらワシも何かあれば戦おう。」


サイスさんはそう言って気合を入れている。ロアナの街で何が起きたかはわからないが、爆発が起きて悲鳴が聞こえたって事は事故か事件が起きたって事だ。

まずは空から様子を見よう。


自分とサイスさんを結界で包み飛びあがりロアナの街へと向かう。飛んでいる間もロアナの街からは何か争うような音が聞こえてくるのでいつでも戦えるように氷の結界を作って待機させておく。


「あれは......獣人?」


「あぁ...同族じゃな。」


ロアナの街では獣人と思われる耳や尻尾が生えた人達が兵士と思われるお揃いの防具を身に着けた相手と戦っている。

街にいる一般人の人達は巻き込まれるのを恐れてか戦闘地から走って逃げている。


獣人達と帝国兵の戦いは実力が拮抗しているのか戦いが長引いているように見える。彼らが襲っているのは建物を見た感じ兵士達の詰所か牢屋の様に見えるが。


「気を抜くな!ここを越えて仲間を奴隷から解放するんだ!」


「うるせぇ!なりぞこないどもが!」


お互いに言い合いながらも激しい戦闘を繰り返している。どうやら奴隷にされた仲間を助け出しに来たようだ。それにしても帝国兵は口が悪いな...


「俺達は反対側から攻めましょう、降ります。」


「おう!」


帝国兵を獣人達と挟むように反対側へと降りていく。空中で様子見している間に作っておいた氷の結界をついでにぶつけて戦力を削る。


ガガガガガガッ


「ぐっ!なんだ!?どこからの攻撃だ!?」


「っ!? 何か知らんが好都合、攻めろ!」


氷の結界で全体の2割ほどの兵士を倒したがまだまだいっぱいいる。

結界から降りたサイスさんは腰に帯びていた片手剣を抜いて近くにいた帝国兵に切りかかる。

俺は後方に下がりサイスさんをサポートできる位置に立つ。


死角からサイスさんに近づいていた帝国兵に氷の結界を飛ばし動きを止め、他にも囲もうとしていた帝国兵に氷の結界を飛ばす。

サイスさんは途中で援護射撃に気づいたのか遠慮なく帝国兵がいる集団へ突っ込んでいっている。


獣人達と俺達に挟まれた帝国兵はその数を徐々に減らしていく。


「よし、一気に攻めこめ!お前たちも!帝国兵と戦っているという事はこっち側なんだろう!?手伝え!」


「おう!」


「あぁ.....」


獣人達の恐らくリーダーと思われる人物から手伝えと声を掛けられる。この混乱の中うまい事指揮をとれている所を見ると中々の傑物のようだ。


残り数人となっていた帝国兵達を獣人達と一緒に倒していきそのまま帝国兵が出てきていた建物へとなだれ込んでいく。


「これはっ!くそ!帝国め!」


「うっ......これはひどいな...」


「ぐぬぅ...」


野ざらしにされた牢屋の中には項垂れた獣人が何人もすし詰めにされていた。お世辞にも清潔とは言えない牢屋の中で満足に寝転がれないような隙間しかないほどぎゅうぎゅうだ。排泄物などの処理もろくにされていないのか、かなり臭ってくる。


「牢屋を開けろ!すぐに解放するんだ!」


「俺も手伝います。」


「っ!わかった、手伝ってくれ!」


リーダーであろう男性の獣人にそう、こえをかける。恐らくなんでここに人族がとか、信用できるのか?とか色々思っているんだろうな。葛藤が顔に出ていた。


そんな顔を見ないふりして薄くした結界で牢屋の扉になっている部分を断ち切っていく。

木が切れるのは確定していたけど、鉄も切れるとはな。結界って万能すぎないか?


牢屋内にいた獣人達の内多少でも起き上がる事のできる体力がある人達が顔をあげるが人族である俺の事をみてビクッとしている。なので牢屋を開けたらすぐに次へいって離れる。


獣人達の様子を見ただけでどんな扱いをされていたのかがわかる。自然と拳を強く握っていた。


帝国に住んでいる全ての人がこうなんだろうか?それとも一部だけ?

そんな考えが頭の中をぐるぐると回っている。


「よし、これで全員だな。すぐにここから離れるぞ!」


「あ、俺のスキルでなら全員を運べます。どうしますか?」


「貴殿のスキル......」


襲撃を起こした獣人達の数は2~30人。牢屋に入っていたのはこちらも30人ほどだろうか?これぐらいなら結界で運べる。


「迷うのはわかりますが、今は時間がない。それに衰弱している人もいるでしょう?今だけでいいので少し信じて下さい。」


「ワシが保証しよう!ケイ殿は信用にたる人物だとな!」


「わかった......頼む!」


数秒悩むと獣人達のリーダーは判断を下した。それじゃぁその期待に応えましょうかね。


「離れすぎないように集まってください、結界で包んで飛びます!」


「聞こえたな!集まれ!」


リーダーの号令でそれぞれ集まってくる、一人で立てないものには他の獣人が手を貸し。数分もすると全員が集まった。


「行きます!」


自分を含めた全員が範囲に入る様に結界を指定して、初めて飛ぶ人が多いので不安にならないように下の面には黒く色を付けておく。それでも何人からか驚きの声があがったが。


まだ落ちついた様子はないが気にしてはいられないのでそのまま飛びあがる。予想通りさらに大きな驚きの声が出ていたがそれも無視する。


「どっちにいけばいいですか?」


「あ、あぁ......あっちへ頼む。」


「はい。」


リーダーの男性に指示された方へ飛んでいく。下では他の場所にいた残っていた帝国兵がやってきたのか何か騒いでいるが無視して飛んでいく。


取り合えず速すぎないように時速60キロぐらいで飛ぼう、体感でしか速度を測れないが速すぎなければそれでいい。


「取り合えず、自己紹介しましょうか。俺はケイです。こちらのサイスさんに協力を乞われて連れ去られた獣人の人達を助けに来ていました。丁度いい?っていったら変ですが、あなた達が起こした騒ぎに紛れて何とか目標を達成できてよかったです。」


「そうか...。俺は獣人の国であるレヴィリアント王国の第1騎士団、団長のレインズだ。ケイ殿、この度はご助力感謝する。」


そう言ってレインズさんは頭をがばっと下げてくる。突然の動きだったのでこの世界でもお礼を言う時は頭を下げるんだなって感想が最初にきてしまった。


「いえ、俺達の目標と丁度良くかちあっただけなので。あまり気にしないでください。」


「うむ、それでも。ありがとうケイ殿。」


「はい。」


何て言うかちょっと恥ずかしい気まずい時間が流れてしまった。





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「あそこに降りてくれ、これだけ離れれば大丈夫だろう。一度ちゃんと怪我の治療などをしたい。」


「わかりました。」


飛ぶこと数十分。ず~っと森の上を飛んでいたが丁度少し先に開けた場所が見えてきた。

レインズさんがそこへ降りるように言ってきたので少し飛ぶ速度を落としできるだけ衝撃が少なくなるように降りていく。


「ここなら大丈夫そうだな。偵察班は周辺の偵察をしてこい!安全を確保するんだ。救護班は怪我の治療だ!ここに何人か残して、残りで食料と水がどこかにないが探すぞ!」


「レインズさん、水なら俺が出せます。どこに出せばいいですか?」


「何!水が出せるのか?そうだな......ここに頼む!どれぐらい出してられる?」


「スキルで出すので止めなければずっと出ますよ。見たほうが早いですしだしますね。」


降り立った場所から少しはなれた所まで行き、そこで村でも使用している水の結界を作る。


「おぉ!これはすごいな......」


「他にも何か手伝える事があれば言ってください。」


「あぁ、ありがとう。おい!ここで水を汲んで汚れを落とすんだ!」


水の結界をみたレインズさんはかなり驚いていたが、ちょっと便利な所を出しすぎたかな?って思う。あまり有用すぎるところを見せると後々まずいことになりそうだけどまぁ......緊急事態だし多少は仕方ないかな。そう思って納得しよう。


結界を出した後は集団から少し離れた所で座る。あまり近くにいてもお互いに居心地悪いだろうからね。


サイスさんは連れ去られた人たちの中に知り合いがいたようでそちらにかかりきりになっている。


レインズさんはある程度の指示を出すと何人か連れて森に入っていった。恐らく食料を見つけに行ったんだろう。少しでも食べて体力を回復させないといけないだろうからな。


怪我をしている人を遠くから見ていると水で怪我をした箇所を洗い流し何か塗り薬っぽい物を塗って包帯を巻いている。


回復魔法とかないのかな?それかポーションか。


う~ん、結界で回復魔法に近い事ってできるんだろうか?っていうかそもそも回復魔法ってどういった作用で傷を治しているんだ?

細胞を修復しているのか?細胞を増殖させているのか?新陳代謝を加速させて傷を治しているとか?もしくはファンタジーよろしく傷をしていなかった事実まで時間を巻き戻すとか?

そこまで行くと回復魔法ってより時間魔法って感じがするな......


やる事が無いから余計な事まで考えてしまうな。


けど、傷の回復は俺も考えないとな。いつか取返しのつかない怪我をする前に何かしら手段を用意しておかないと。


あーあ、早くこの騒動が終わらないかな......嫌なわけじゃないが何て言うか無理している自覚はあるので精神的につらい。


あー..........星がきれいだな.......






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