第65話 接触

65.接触









視線の先、かろうじて姿形が見えるぐらいの距離におそらく帝国兵であろうお揃いの鎧を着た集団が見える。

帝国兵達は何故か村にある家や柵を壊している。

俺とサイスさんは結界で浮いた状態で木の陰に隠れているので向こう側からは見えていないはずだ。


「あれは何をしているんだろう?」


「魔物の巣にならないように破壊しておるんだろう。」


「魔物の巣?」


「うむ、人がいなくなった村や街などには魔物が住み着きやすい。村や街に魔物が住むと厄介な事になるからそうなる前に壊して燃やすんじゃろう。」


「へぇ......人がいなくてイラついて壊してるのかと思った。」


「まぁ、憂さ晴らしも含まれておるだろうな。」


含まれてるのか.........どうしようか?この場合どうするのがいいんだ?


パターン①

「どうも、こんにちは!今日はいい天気ですね~」

無いな.......怪しすぎる、まずお前誰だよってなる。



パターン②

「動くな!お前たちは包囲されている!」

一瞬混乱するぐらいの効果はありそうだが、それぐらいだな......すぐに嘘だとばれる。



パターン③

「しねぇぇぇぇぇぇい!」

これも無いな......いちいち声を上げてから襲い掛かる必要がない。



う~む、どうするべきか.........ってか俺の接触の仕方のレパートリーが少なすぎるな。


そんな事を悩んでいる間にあらかた破壊し終わったのか、帝国兵達が今度は火をつけ始めた。

こんな魔物がいっぱいいそうな森の奥深くであんなに音を出して破壊して今度は火までつけて、襲われないんだろうか?それとも襲われても大丈夫なほどの実力がある?


襲われても大丈夫なほどの実力があるとしたらヤバイかもな......相手の力量が分からないのは怖い。

こういう時に鑑定なりなにかしら相手のステータスがわかる力があればいいのにって思う。


「どうしましょうか?」


「う~む、ワシには捕らえて情報を吐かせるぐらいの事しか思いつかん。」


ふむぅ、相手の実力がわからないし戦闘は避けたいけど。じゃぁ尾行でもするのか?って言われたらそんな事したことないからうまくいくかなんてわからないしな......


やっぱどうにかして捕らえてみるしかないか......やるなら徹底的に準備しよう。


相手の数は見えるだけで5人、もしかしたら周辺を警戒している人や見えない位置に他にもいるかもしれない。


なのでまずは、透明な手のひらサイズの結界を30個ほど作って浮かべておく、目には映らないがスキルを使っている俺には結界の位置が手に取るようにわかる。

この透明な結界はそこそこ硬いので相手にぶつけてひるませる用だ。


次に同じ数の氷の結界を作って浮かべる。これは相手の拘束が目的だ。手や足などにぶつければ動けなくなるだろう。


「どうするんだ?」


「取り合えずなんとか捕えてみようと思います、下に一旦降りるのでサイスさんは待っていてもらえますか?」


「わかった。」


一旦下に降りてサイスさんを降ろしてから再び自分だけを結界で包んで飛びあがる。

まずは帝国兵の後ろに、回り込むように迂回して飛んでいく。木々に隠れるようにして飛ぶのと結界で飛んでいる時は音がしないので気づかれる可能性は限りなく低い。

目視で発見されたらどうしようもないが.........たまたまこっち見たりしないように祈るだけだ。


迂回して飛んでいると、先ほどは見えなかった位置に帝国兵達が乗ってきたであろう馬と馬車が見える。

そこには留守番なのか3人ほどの帝国兵が立っていた。馬車には布がかけられていて中身を見ることはできない、もしかすると中に他にも帝国兵がいるかもしれない。気を付けないと......


留守番3人と馬車がある場所はサイスさんの村からかなり近いので今ここで戦闘を始めるとすぐに気づかれてしまいそうだ。


合流を待ってから一網打尽にするほうがいいのかな?既に村には火をつけられてしまっているので少しすればここに戻ってくるだろう。他に用事が無ければだが......そこは推し量る事の出来ない部分なので待つしかない。


木の陰に隠れる事5分か10分ほどだろうか?村の方からガチャガチャと音が近づいてくると村の中にいた帝国兵達が戻ってきた。


留守番組と何か話しているが、安全をとってかなり遠くにいるので声は聞こえても内容までは聞こえてこない。


「やるか.........」


気合を一つ入れて気持ちのスイッチを入れる。あらかじめ作っておいた氷の結界の狙いを定める。

狙うのは両手両足だ。


「いけっ!」


「ぐあっ!」


「何だ!?敵襲か!?」


「くそっ!何だこの氷は!?」


飛んでいった氷の結界が次々にあたって手足を凍らせていきそのまま帝国兵達を地面に縫い付けていく。突然の攻撃に驚いた馬が何頭か走り去っていくのが見える。


「ふぅ......何とかなったかな.........?」


未だにぎゃぁぎゃぁ騒いでいる帝国兵達、どうやらどこから攻撃が来たのか気づいていないようだ。それにそこまで強くないのか氷を壊す事も出来ていないようだ。


さて.........捕まえたのはいいがここからどう接触するべきか。取り合えず姿を見せるか。


「誰だっ!?この攻撃はお前がやったのか!?」


一旦地面に降りてから防御用の結界を追加して張ってから歩いて帝国兵達に近づいていった。

一人だけ少し豪華な鎧を付けている人物が声を上げている。この人がリーダーなのかな?さて、なんていうべきか?


「あなた達は帝国の兵士でいいのかな?聞きたい事があるんだが。」


「うるせぇ!さっさとこの氷をどうにかしやがれ!こんなことをしてただじゃすまねぇぞ!」


リーダーっぽい人に話しかけたのに別の場所で倒れてるやつに怒鳴られた。他の人の声が邪魔だな......

取り合えず今喋った人に用意したおいた透明の結界をぶつけておこう、ちょっとイラっとしたので。


「ガッ!何だ!?やめっグァッ!」


声をどうにかして遮断できないものか?音を通さない結界なんて作れるかな?試してみよう。


「っ!?――っ!?」


おぅ.....ぶっつけ本番だったけどうまくいったな...でも音って空気の振動だよな......?音遮断の結界は口元に小さく作っているんだがあのまま窒息したりしないよな?リーダー格以外の人にも音遮断の結界を作っておく、話しを早めに済ませるか.........


「何をした?」


やっぱりこの集団のリーダー格なのか一人だけ落ち着いている。


「あー、ちょっと待ってください。」


リーダー格の人が話しかけてきたので話し始めようと思ったがその前に気が付いた、援軍がくるかもしれないし今この場をさらに大き目の結界で囲んで防御しておいた方がいいかもしれない。


帝国兵達と自分を包んで余りある大きさの結界を作って包んでおく、それを5重ぐらいにしておいて万が一にもの場合が無いようにしておく。


こんなもんかな。


「お待たせしました。あなた達は帝国の兵士でいいんですよね?」


「............あぁ。」


「あなた達が獣人達を奴隷として連れ去っていると聞いたんですが事実ですか?」


「そうかもしれんな?」


何が面白いのか男はニヤッと笑っている。


「どこに連れて行くのか教えてもらえますか?」


「ふんっ教えるわけがなかろう!」


まぁそうだよね。


リーダー格の男を透明な結界で包み持ち上げる。


「うおっ!?なんだ!?何をするつもりだ!?」


「話したく無いなら、話したくなるようにするしかないでしょう?」


「お、お前!何をするつもりだ!?」


「まぁまぁ。」


「まぁまぁじゃない!離せ!」


その後の事は彼の名誉の為にも言わずにおこう......

遥か上空へ結界を飛ばし、そこから自由落下をさせたり。結界を上下左右にぶんぶん振ったり。

失神しても無理やり起こして同じことをしゃべるまで繰り返した。


まぁそんな無茶を閉じ込められた結界の中で繰り返したんだ.........本人がどうなるかなんて描写したくない、汚くて無理だ......


そんな感じで吐かせた内容によるとここから近い街に一度集めて、そこからもっと大きな街に連れて行ったり、そのまま戦場にまで連れて行ったりするようだ。


幸いなことに?リーダー格の男の荷物の中にこの辺の地図があったので案内は必要ない。

問題は捕まえた男達、計8人をどうするかだ。


まぁどうするかなんて、決まってるんだけどね......覚悟が必要だっただけさ。


帝国兵8人を地面に並べて氷の結界で全身を凍らせていく。完全に凍ったところで地面に深く穴をあけてそこに入れてから上から再び土をかぶせる。

終わったところで待機させていた透明な結界と氷の結界を全て解除して防御用として大き目に作って囲っていた結界も解除する。


しょうがない事ですまないのは理解しているし、苦しい気持ちもある。全部戦争のせいにできるなら少しは楽になるかも知れないけれど........そうもいかないよなぁ。この選択は自分自身で決めたことだ。


「ケイ殿.........」


終わった事に気づいたのかサイスさんが近づいてきた。


「サイスさん、情報は手に入れたんで行きましょうか。」


「そうだな.........いこう。」


結界で自分とサイスさんを包みこみ飛びあがる。


この先、俺は何人.........いや、そんな事気にしても辛いだけか。やれるだけの事をやるだけだな。






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