第64話 できる事

64.できる事








「力を貸してほしいってどういうことですか?」


「そうだな......まずは説明するべきか。」


そういってサイスさんが話した内容を要約するとこうだ。


ゲルツ帝国が王国に戦争を宣言する少し前から帝国国内では戦争の気配を感じ取った者達がそれなりにいてソワソワとした雰囲気があったそうだ。そんな中始まったのが奴隷狩り。

ゲルツ帝国では侮蔑の対象である獣人達を奴隷にするために帝国兵が奴隷狩りをし始めたそうだ。

数多くの仲間達が連れて行かれる中サイスさん達は何とか自分達の村に帝国兵が来る前に村を脱出したらしい。そしてここに来たわけだ。


そしてそんな奴隷狩りにあった中にはサイスさんの親戚や知り合いなど。関係の深い存在がいるそうだ。そうして連れ去られた人たちを取り戻すのに俺の力を借りたいらしい。


「だけど、俺がどれだけ戦えるかなんてサイスさんは知らないですよね......?」


そうはいったのだがサイスさんは俺に力を貸してほしいといった理由を話し始めた。

そもそも俺は結界術で空を飛べる。それだけでも大きなアドバンテージがあるがさらに他人も一緒に飛べる事を村長が話したらしい。

俺がティナちゃんを救ったときの話しだな。


そしてあの牛だ。


あの牛は食料として俺が氷の結界で倒して持ち帰っているがそもそもあの牛は強いらいし。

それこそ獣人達があの牛を狩ろうとすれば大人の獣人が20人はいるらしい。一匹狩るのに20人だ。


あの牛は森の奥深くにしかいないし、その体躯もでかくあんな体で突進などされたときには大人でも軽く吹っ飛ばされるだろう。何かしらの防御スキルをもってきちんとした訓練をしていれば飛ばされはしないだろうが......


獣人達はその見た目の通り狩人としての性能は高い、よく聞こえる耳とよく見える目、さらには無駄のない筋肉は十分と言えるほどの力があるだろう。残念なことにゲルツ帝国で隠れ住むように過ごしていたので戦士としての訓練はしていないのでレベルは低いがそれでもその身体能力だけで一人で普通の人間の大人の5~6人分の力はあるだろう。


そんな獣人達が20人あつまってやっと一匹倒せる牛を俺は何匹を軽く倒してきている。相性の問題もあるだろうがサイスさんの目には俺が物凄く強くみえているらしい。


「ふむぅ」


ルガード達が戦争に旅立ってその気持ちと考えもまだまとまっていないのに次は人助けか......しかも話を聞いた感じ俺にゲルツ帝国のどこかしらの街までいって奴隷になっている獣人達を助けてほしいって事だが。


俺に街を破壊しろって事なんだろうか?


出来るかできないかでいえばできる、それこそ氷の結界を街を覆うほどの数を使って襲うとか。切断する結界で木を切ったみたいに建物を切り取っていくこともできるだろう。

そうすると必ず俺とその街に暮らす兵士か冒険者かわからないがそんな相手との戦闘になるだろう。


そうなった場合どうなる?相手の動きを止めて手加減して倒していくのか?手加減できない相手が出てきたらどうするんだ?殺すのか?


そもそも手加減して油断している所に攻撃されて俺が死ぬ可能性もある。それなら最初から本気で潰しに行った方が安全だし。


「う~ん」


そもそも助けるってどこまで助けるんだ?全員?どこにいるかもわからないのに?じゃぁ情報収集するのか?そんな時間あるのか?情報を集めてもたもたしている間に奴隷となった獣人達がどうなるかなんてわからない。そもそも情報を集めた所で奴隷にされた獣人達全員の所在がわかるのか?


じゃぁサイスさんの願いを聞かないのかって言われると難しい。


ゲルツ帝国のやり方は気に食わない。人族至上主義なんてこんな多種多様な種族がすむ世界ではありえない思想だとおもうし。そんな国で奴隷にされた獣人がどんな扱いを受けるかなんて想像するだけで胸糞悪くなってくる。


出来るなら助けたい、だけど助ける事には俺の力の限界がある。


う~~~~~~~~~~~ん。


「すまんなケイ殿、そこまで悩ませてしまうとは......」


思考の海に落ちてうんうん唸っているとサイスさんがそんな事を言ってきた。


「いや、う~ん。俺もできる事なら助けたいんですよ?でも......一体どこまで助ければいいんですか?帝国にいる獣人達全員?それともサイスさんの知り合いだけ?一概に助けてくれって言われてもどうすればいいのか俺には分からないんです。こんなことやった事もないですし。」


「うむ、そうだな......その通りだ。軽率に言い過ぎた、すまんケイ殿。」


「いえ......俺も言い過ぎました、すいませんサイスさん。」


二人の間に少し気まずい雰囲気が流れる。


「ワシ等にとって生まれたあの土地は大事な物だった。たまたまあんな国に生まれてしもうたが静かに暮らせるならそれでよかった。しかし、今回帝国が奴隷狩りを初めて知った顔の者達がどんどんと捕まっていってどうしようもなくなって怖くなって村を捨てて逃げてきた。」


「.........」


「ここまで逃げ延びれたのは幸運だったんだろう。だからこそどうしても連れて行かれた仲間達の事が脳裏にちらついてしまう。」


「罪悪感ですか.........」


「そうじゃな......罪悪感、その言葉が正しいじゃろう。ワシは知り合いを見捨てて逃げたんじゃ。都合がいいことを言っているのは自覚しておる。それでもどうか!その力を貸してほしい。ケイ殿の力の及ぶ範囲でいい。無理だと思ったらやめてもらってもいい、だからっ!その力を貸してはくれないだろうか?」


頼む。


そういってサイスさんは頭を下げた。


「ふぅ~......そうですね.........どこまでできるか分かりませんがやってみましょう。だからサイスさん、あなたにも協力してもらいますよ?」


力を貸す事でどうなるかなんてわからない、人を殺す事になるかもしれない。武力による衝突は避けれないだろう。

前世ならこんなことをすれば非難の嵐だろう。


だけどここは異世界だ。そして何の因果か俺はここで生きている。どうなるかなんてわからない。だったらやりたいようにやろう。自分の気持ちに正直になろう。


そう前向きに考えたからか、さっきまでのごちゃごちゃとした思考はスッキリして気分も晴れてきた。


「あぁ!もちろんだ!ワシにできる事なら何でもする!だからよろしく頼む!」


ん?今なんでもするって......ってこんな老人相手に言う事でもないか......何だか色々スッキリしたからテンションがおかしなことになっているようだ。


「それじゃぁそうですね、でかける準備しましょうか。それに村長にはこの事を話しておきましょう。」


「おう!」





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その後、サイスさんと一緒に村長の元へ行き奴隷として連れて行かれた人たちを助けに行くことを話した。

村長はものすごく心配していたがサイスさんと俺の意思が固いと見たのかなんとか最後には納得してくれた。

そこからは出かける準備を始めた。サイスさんにアイテム袋に余っていた武器を渡して何日かかるかわからないし助け出した人の事も考えて食料を貯め込んだ。


野菜にお肉に村の備蓄を貰ったがその代わりに牛を追加で狩ってきて渡しておいた。今すぐ食べれないだろうが俺達が出かけてる間には熟成が終わりたべれるようになるだろう。


そんな諸々の準備をして3日後やっと出発する用意ができた。


「それじゃぁ行ってきますね。」


「行ってくる。」


「うむ、気を付けて行ってらっしゃいなのじゃ。」


村長と話しを聞いて見送りに来てくれた村人に見送られて出発する。


「んじゃ、飛びますよいいですか?」


「うむ、いつでも。」


確認を取り自分とサイスさんを包む大きさの結界を作り飛びあがる。急に上がりすぎないようにゆっくりとふわっと浮かんでいく。


「おおぅ......何だかそわそわするな。」


「最初はゆっくり飛ぶので慣れてください。」


「お、おう......」


「それで、まずはサイスさんの元いた村に行くんでしたっけ?」


「あぁ、あっちの方だ。歩きならひと月ぐらいかかるが......。」


木よりも高く浮かびサイスさんが高さに慣れた頃、行先を聞く。指さした方向には遠くに山が見える、あの山を越えてきたんだろうか?

それに歩きでひと月か......かなり遠いんだな。結界で飛んでいくからかなり短縮できるとは思うが。


最初はゆっくりと歩くぐらいのスピードで、徐々にスピードを上げていき最終的には体感時速4~50キロぐらいのスピードで飛んでいく。

途中サイスさんが慌ててたが暫くすると大人しくなったので気にせず飛んでいく。




そのまま夕方まで飛んで途中で野営をしてを繰り返して、やがて遠くに見えていた山の麓まできた。


「もうここまで来たのか......歩きなら5日はかかるのに...。」


「まぁ地形も魔物も全部無視してきてますからね......それに休憩も挟まないし。」


「そうだな......初めは飛んでる間いつ落ちるかとひやひやしてたんじゃが、今じゃ景色を楽しむ余裕もでてきたわい!」


サイスさんはそう言ってガハハと笑っている。


「しかしこの山を越えなければ村にはいけないがどうするんだ?」


「ん?もちろん飛んでいきますよ?」


「この高さをか!?」


「はい、それじゃぁ行きますよ。」


「この高さは流石にきつくないかのおおぉぉぉぉぉ。」


サイスさんは無視して一気に山を駆け上がる。

山の表面から10メートルほどの高さを飛んで山に沿って飛びあがっていく。


山肌にはあまり木が生えていないからかたまに魔物の姿が見える。

トカゲなのかワニなのか爬虫類系の魔物や蜘蛛みたいな魔物、ゴブリンもいたしオークもいた。


結構いろんな種類の魔物が住んでるんだな......

時々こっちをみてぎゃぁぎゃぁ言ってるが飛んでるしスピード出てるしで完全に無視してる。



「お?いい景色だなぁ......」


「そうじゃな.........」


1時間もかからずに山頂へとたどり着いた。山の頂上から見る景色は美しく綺麗だ.....ちょうど夕方ぐらいなので地平線の向こうから見えるオレンジ色の太陽の光が森を艶やかに彩っている。


「それで、村はどっちですか?」


「あぁ、あっちだ。」


山頂で暫く景色を眺めた後、サイスさんに村の方向を聞いて指定された方向へ結界の向きを変えてから再び出発する。


後は変わらない、夕方になれば野営して、朝になれば飛んでの繰り返しだ。途中何回か魔物に襲われたが全部氷の結界で凍らせて倒していった。

山を越える前は野営中に魔物に襲われることなんてなかったんだが、こっち側は攻撃的な魔物が多いのかな?


野営するときはカチカチに固めた結界で囲んでいたので見張りが必要なかったのが唯一の救いだったかもしれない。やっぱり野営だとしてもゆっくりと寝たいからね.......




そうして飛ぶこと6日、森の中に一か所木の生えていない広場が見えてきた、あそこが目的地の村のようだ。


「あそこがサイスさん達が元々いた村ですか?」


「あぁ、そのはずだ......」


「人がいるように見えますね........」


「うむ、いるな。」


「明らかに兵士っぽいお揃いの鎧着てますね。」


「うむ、着ておるな。」


「あれってもしかしてもしかする?」


「うむ、もしかするの。」


まじかぁ~........いきなり帝国兵と接触か...どうしよう?





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