第63話 森の村の変化

63.森の村の変化









もやもやとした気持ちのまま結界で飛びながら家へと帰っている道中。結界に胡坐をかいて座りながら腕を組みうんうん唸っている。


「戦争かぁ......」


異世界に転生して戦争を身近に感じるとは思っていなかったが、そもそもこの世界って誰かと争うのは一番身近に感じる事ではあったのかもしれない。俺が今まで気にしなかっただけで......

魔物との戦闘、おそらくいるんだろうなと思われる野盗の類。後はならず者とかも街にはいるんだろうなぁ。


そうして深く考えていると頭の中がごちゃごちゃしてきて変なことも考えてしまう。

例えば、俺は前世の地球では何かの命を奪う事を直接的にしたことはほぼない。あったとしても虫ぐらいがせいぜいだろう。普段からお肉や魚などを食べていても生き物を殺す瞬間などは目にしない。目にしたとしてもお肉の塊を精肉する部分ぐらいだろう。


そんな俺がこの世界に来てからいきなりゴブリンを倒している。

転生して異世界に来てテンションがあがってたのは若干否めないが......。ゴブリンを倒しても嫌悪感などもなく、精神的にも苦痛が無く。もしかして転生したときに神様に精神強化でもされたかな?って思ったり。


思考があっちこっち行ったりしながらも結界で飛んでいると家のある外壁が見えてきた。


「何だか久しぶりに帰ってきた感じがするな......」


そんなに長い事離れてたつもりはなかったんだけどな......思ったより俺は引きこもり体質なのかもしれない。


「ん?」


外壁を越えて中を見ると、布製の大きなテントみたいな物がいくつか建っていて外に出て活動している人も多い気がする。

人が増えたのか......?何でだ?


色々気になるが取り合えず村長の所に行こう、話を聞けば何かしらわかるだろう。


いつも村長がいる家の前に行くと、村長ともう一人、見慣れない人物が立っている。見た所村長と同じ獣人族で同じぐらいの年齢の様だがガタイがいいので村長より二回りほど大きく見える。


「村長!」


「おぉ!ケイ殿、お帰りなさいなのじゃ。」


「ただいまです。」


村長に挨拶をしながら横にいる人物をチラッと見る。


「おっと、そうじゃった。ケイ殿、こちらサイス殿じゃ。サイス殿、こちらが話していたケイ殿じゃ。」


「どうも、ケイです。」


「ワシはサイスだ、よろしく頼む。」


こうやって近くで見るとやっぱりでかいなこの老人は......筋肉むきむきだ...。それにクマ耳か......


「それで俺の事を話していたとは何ですか?」


「それなんじゃがのう......」


「ワシが話そう。ケイ殿、ここに来るまでに人が増えているのを見たと思うがワシ等は元は帝国に住んでいたのだが。戦争が始まって逃げてきたんだ。」


「逃げてきた......」

ここにも戦争の影響がきているとはおもわなかったな......。


「うむ、あてもなく逃げていたところここの外壁を見つけてな...そこでカインズ殿に会ってここに住まわせてもらうための話しをしたんだが決定権はケイ殿にあると聞いてな、帰ってくるのを待っていたんだ。ケイ殿......急なことだとはおもうがワシ等がここに住む事を許可してほしい。」


「はぁ......まぁ住みたいのなら構わないけども...。」

村長ってカインズって名前だったのか......。ってかここで許可しないなんてことできないだろう...許可しなかったら出ていくんだろうけど後味悪すぎる。


「そうか!ケイ殿、感謝する!すまんが許可が出たことをみんなに話してくる、それじゃぁまた後で!」


そういうとサイスは走り去っていった。


「すまんのう、ケイ殿。勝手なことをしたと思っておる......じゃが、同族として見過ごせんかったんじゃ。」


俺が微妙な顔しているのに気付いたのか村長が申し訳なさそうにしている。

それに同族か......村長は犬耳なので恐らく犬か狼族なんだろうけど、サイスさんはクマ耳を見るところ熊族ってやつなんだろう。


同族って言っても種族が違うけど、獣人族的には同族って事なのかな?取り合えず種族によるいざこざが無いっぽいしそこは安心した。


「いえ......まぁしょうがないですね、見殺しにするわけにはいきませんし。そういえば、あのテントは仮の家ですか?」


「うむ、持てるだけの物をもって来たようでのう。備蓄食料が無ければ少し危なかったかもしれん。」


お肉結構使ったのかな?また牛狩りに行かないとだ......。


「そうなんですか......取り合えず今日はもう家に戻って休みますね。明日になったら家を建てようと思います。サイスさん達に話すのは任せてもいいですか?」


「うむ、任せてほしいのじゃ。ケイ殿、ありがとう。」


「いえ、それじゃぁまた明日。」


村長に挨拶をして家へと帰る。自分の家は隣なのですぐに着いた。


「う~ん、ちょっと埃っぽいか?掃除しないとな......」


家とかは人が住まないとすぐに傷んでしまうって言うしな......家政婦とか雇うべきか......?そんな仕事をしている人がいればだけど。





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「ん~......はぁ、あっ村長おはようございます。」


「うむ、おはようなのじゃケイ殿。」


朝になって家を出ると村長がいつものように椅子に座ってのんびりしてた。


「今日は色々点検してから家を建て始めようと思いますが、話しって通ってます?」


「うむ、ケイ殿が家を建てる話しは昨日のうちに通しておいたのじゃ。」


「ありがとうございます、それじゃぁ点検してきますね。」


村長に挨拶をして、その場を離れる。

取り合えず一番近い水汲み場から見ようかな?




「おはようございまーす。」


水汲み場には朝早いにも関わらず何人か人がいたので挨拶をするとそれぞれ挨拶を返してくれる。中にはクマ耳の人がいたので多分サイスさん達と一緒に来た人なのかな?


水汲み場は問題ないかな?変わらず水の結界からは水がちょろちょろ溢れているし、汚れもなさそうだ。誰か掃除してくれたりするのかな?


この水の結界っていつまで効果があるんだろうな?今の所問題ないみたいだけど、いつか突然消えたりするんだろうか?

ちょっと不安になってきた...もうちょっとこまめに点検するか......。


『んあ?あー水やん、ケイ~泳ぎたいんやけどー。』


『起きたかクスラ、泳ぎたいってここで?いいけども......。』

泳ぐには水が少なくないか?まぁ本人?がいいっていってるしいいか。


クスラを下段の水たまりになっている部分にそっと置く。


『~♪』


触腕で水をぱしゃぱしゃさせたクスラから楽しげな雰囲気が伝わってくる。


クスラ用のプールとか作ってあげたほうがいいんだろうか?いつも外套のフードにすっぽりはまりっぱなしだし退屈していたのかもしれない。

ちょっと真剣にプールの事を検討するか......。


『あー楽しかった、ケイ~もうええよー。』


5分ぐらいだろうか?ぱしゃぱしゃと遊んでたクスラが満足したのか動きを止めてこっちに触腕を伸ばしてきた、アイテム袋からタオルを取り出しクスラについた水滴を拭きとってから定位置のフードへと入れる。


このまま用水路の点検に移ろう。水汲み場から続いている用水路を辿って歩きながら点検していく。


水漏れは無し、割れている所もなさそうだな。外壁内の用水路を見終わった後は外に出て川までの用水路を点検する。


問題は無さそうだな。内側に比べて外の用水路の方が若干、緑に浸食されてる感はあったけど......まぁ外にある物だし仕方ないかな?


このまま外壁も見ていくか。歩いていると上の方見れないし結界で飛んで確認しよう。


自分自身を結界で包み飛びあがり外壁に沿うように飛びながら割れたりした所がないか見ていく。


「んー、問題ないかな?」


若干汚れてるけど、まぁしょうがない。洗いようがないしな......。


後は~氷室見ておこうかな?村長が食料結構使ったって言ってたし。

外壁を確認するのに飛んだままなので、このまま村内に入って氷室へ向かう。


「う~さむっ。氷の結界はちゃんと機能しているみたいだな。」


氷室内に入ると棚がいくつか並んでいてそこにお肉が置いてある。見たことないうさぎっぽいお肉もあるのでそこそこ活用されているようだ。お肉はどれも凍っているので氷室としてちゃんと機能しているようだな。


けどやっぱりちょっとお肉少なくなってるかも?この後牛を狩りに行こう。


氷室から出て結界で飛びあがり牛を探しに行く。

何頭ぐらい狩ろうかな?





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「んじゃ、よろしくです。」


「おう、任せろ!」


牛を狩ってきたので前回もお世話になった解体してくれる人に頼んでお肉にしてもらう。

狩りの様子はいつも通りの氷の結界で凍らせてそのままアイテム袋に入れるだけだったのでカットだ。

牛は8頭ほど狩ってきたので暫くはもつだろう。多分。


牛を狩るついでに木と石を採取してきたので家を作る準備も出来ている。


「あ、サイスさん!ちょうどいい所に。」


牛を預けて、どの辺に家を建てようかなって思っていたところちょうどサイスさんを見つけたから声をかける。


「おぉ!ケイ殿、どうかしたのか?」


「これから家を建てようと思うんですが、いくつぐらい建てましょうか?」


「ふむ、ワシらは全部で25人。そのうち3人家族が5世帯、夫婦が3世帯。独身が4人だ。」


ふむ、じゃぁ家は全部で12か......お昼過ぎには終わるかな?


「んじゃ建てていきますね。」


「おう、俺も見てもいいか?」


「はい、どうぞー。」


前回家を最後に建てた所から続くように建て始める。


「『分解』『構築』」


隣の家と同じ様に家を作る。アイテム袋から出した石と木を一度分解してから再構築する。

石と木がぐにょぐにょと混ざり合い、下から徐々に家が出来上がっていく。


「お、おおう......何だこれ...。」


後ろでサイスさんが何か言ってるけど家を建てるのは割と集中しないといけないので気にしてられない。


「ふぅ、取り合えずこれで一つ目ですね。どんどん建てていきましょう。」


「お、おう。」





「これで最後っと......どうですか?」


「おう、凄いんだなケイ殿は。家を建ててくれてありがとう、助かる。」


「どういたしまして、誰がどこに住むかは任せますね?」


「おう、そこはこっちで話し合う。」


途中でお昼休憩を挟んで家を作り続けて今は2時か3時ぐらいかな?割と早く終わったかも?余った石と木は木材置き場に持って行っておくか......。


「ケイ殿、家を建ててもらったばかりでこんなことを言うのは気が引けるんだが.........ケイ殿に相談したい事があるんだ、話しをする時間をくれないだろうか?」


「ん?まぁかまいませんけど、何か追加で建ててほしい物でもありました?」


「いや、相談したいのは全然関係ない事なんだが......。」


何だろう?


「同族を救うのにその力を貸してほしい!」


「はぁ..........ん?」


救うってどういうことだ?







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