探偵は刑事を出迎える
そう言えば久しぶりだな、という気持ちと共に
静岡県富士宮市。富士山を擁することで知られる人口12万ほどの中都市。市街地はごく普通の田舎の街並みであるが、標高の高い北部には、朝霧高原や白糸の滝を始めとした広々とした自然が広がり、その北端には富士山が構えている。
冬になれば北部側には雪も積もる地域ではあるものの、夏場は普通に暑い。色濃い青空に照り付ける太陽。それはそれで楽しいものだが、35歳のおじさんである龍二にはちょっとしんどい季節でもある。
改札を出ると、見慣れた巨躯が龍二に向かって手を振っていた。身長は190cmほど、体重は軽く3桁を越え、某フライドチキンチェーンの立像を思わせるかのような白い頭髪に顎髭を持つ大きな体は、待ち合わせには持って来いだ。その歩く待ち合わせスポットが、「龍二くーん」と声を上げ、嬉しそうにぶんぶんと手を振っている。子供か。龍二も釣られて笑ってしまった。
「
「いやいや、龍二くんこそ済まないね。
「はい。茉祐は一緒に来たいと不満げでしたよ」
「それはそれは。じゃあ今度静岡に遊びに行かないと」
「はい。是非」
巨躯の持ち主は、龍二のかつての上司であり、
かつて龍二が畏れ、憧れた鬼刑事も、今では孫の成長がなによりの楽しみという好々爺だ。が、先ごろ、何を思ったのか急に探偵業を開業した。一人で大丈夫だろうかと危ぶんでいたが、ご近所のあれやこれやのトラブルをそこそこ捌き、うまく軌道に乗っているようだった。
「じゃあ、さっそく宿へと向かいがてら、確認していこうか」
「はい」
刑事と探偵が何事かを確認すると言うと、何か事件でも起きたのかと思うが、そうではなかった。なんでも、山梨に住む竜太郎の悪友が遊びに来るので、駅周辺の観光スポットを下見しておきたいとの事だ。
竜太郎は普段からこの町で過ごしているので、どこか魅力的なのかいまいちピンと来ない。そこで、静岡市に住む龍二にも吟味して貰いがてら、一杯やらないかとの事だった。
竜太郎はまだまだ元気とはいえ、隠居の身でひとり暮らしだ。なにかと気にかけていた龍二はふたつ返事で承諾し、休暇を利用して訪れた、というところであった。
「まずはどこへ行くんですか?」
「フフフ。富士山世界遺産センターだよ」
「ええ? 義父さん、いきなりカマしますね」
竜太郎は悪い顔でニヤリと笑った。山梨県民と静岡県民が同席する前で、富士山の話題は危険だ。両県に属している日本一の山については度々、「どちらの富士山が良いのか」という
市ぐるみで対決イベントを開催するなど、ある意味「鉄板のじゃれ合いネタ」扱いにもなっているものの、その結果はめんどくさい事になりがちだ。義父と客というのも、そういう親しい間柄なのだろう。龍二は笑顔で応じつつも、同席はしたくないな、と考えていた。
「では、出発」
竜太郎はそう宣言すると、
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