サウナ探偵と夏のせせらぎ
吉岡梅
バカンスに胸躍らせて
その人物は灯りも点けず、ひとり頭を抱えていた。自分はいったい何をすればよいのか。いや、実のところ何をすれば良いのかは、ほぼ決心がついている。だが、どうすれば良いのか。どんな手段を取ればいいのか。それが見えず苦しんでいた。
突然、目の前のテーブルの一角が光る。人の気持ちを逆なでするかのような軽い着信音と共に、メッセージがポップアップする。
――よりによって、こいつからか
メッセージの相手は、その人物の苦しみの元凶だった。内容は、夏休み中の旅行の打診。日程を挙げ、都合が合えば是非、と綴っている。
――都合が合えばか。白々しい
その人物に断る事などできなかった。言外に『もし断ればどうなるか、わかっているよな?』という圧力が込められている。白々しい笑顔が頭に浮かび、思わず拳が机を叩いていた。
――あいつは、従うしかないのだとわからせたいのだ。刻み込みたいのだ。旅行とは名ばかりの屈辱的な指令。これは、服従を認識させるための儀式だ。
その人物は歯噛みをした。が、しかし、その時ひとつの考えが浮かんだ。
――旅行。夏の旅行、か
まだまとまらないが、ぼんやりと形を成すその手段。伸るか反るかの危うい賭けにも思えるが、分は悪くない。何より、まだ練りあげる時間がある。真夏の旅行。青い空に照り付ける太陽。大丈夫。皆、きっと自分に味方をしてくれる。
《喜んで参加しまーす! 待ちきれない!》
その人物は返信を打ち込んだ。待ちきれない、か。思わず忍び笑いが漏れる。その通りだ。久しぶりに本心を書き込んだその胸は、
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