第8話 有栖川くん擁立大作戦!?
「あ……有栖川くん。ぼ……僕たちの推薦で、児童会長に立候補してくれないかな……?」
「なんだよ急に? 織田くん? 児童会長って……なんでボクなのさ」
「女の子にも人気があるイケメン有栖川くんならきっといっぱい票を集めて、児童会長になれるって思ったのっ!」
「ちょっと、サッチー、ぶっちゃけすぎっ!」
「ん? まぁ、人気もイケメンも否定しないけどさ。でも、ボク、別に児童会長とかなりたくないよ?」
「そこをなんとかっ!」
次の日の放課後。教室に残ってもらった
どうしてこんなことになっているのか!?
とりあえず、時を戻そう……。
☆
和以貴子先生と相談した結果、わたしたちは三人で「児童会の乗っ取り」を目指すことに決めた。
その次の日、わたしたちは早速、洛和小学校の天下取りに向けた情報収集を開始したのだ。具体的な作戦を決めるには、情報収集は絶対必要。そう言ってくれたのはわたしたち三人の頭脳担当――ブレーンであるメイちゃん。
織田くんも頭はいいんだけど、こういうのは学校の勉強ができるのとまた別だよね。ちなみに、わたしの頭の良さは言うまでもない――かな? 成績は中の下です。でも、みんな知ってるよね!? 人間、大切なのは、お勉強だけじゃないって! ――し……知ってるよねぇ……(虫の音)。
それはそれとして、一日中、6年2組の友達や先生に話を聞いたり、メイちゃんが女子バスケの友達に聞いてくれたりしたおかげで、他のクラス、つまり6年1組と3組からどういう候補が出てくるのかも大体見えてきた。
「3組は
「そうねー。今川くんって、口が悪いこともあって3組の中じゃ、そこまで人望があるわけじゃないから、『微妙〜』って言う子もいるみたいだけれどね。やっぱり取り巻きも多いし、他にやりたがる生徒もいないから、3組からは今川くんで決まりじゃないかって言ってた」
メイちゃんがまとめてくれたメモ用紙に視線を落としながら呟いた織田くんにメイちゃんが解説を加えた。
今川一騎くん。6年3組にいる男の子。見た目は中の上で、頭の良さも中の上。めっちゃカッコいいかって言われたら微妙だし、めっちゃ頭がいいかって言われたら微妙。ちなみにお家はお金持ちらしい。
それでも本人にはリーダー気質なところがあって、いつも取り巻きみたいな男の子たち数人を連れて遊んでいる。とにかく目立ちたがりで、褒められたがりなところがあって、きっとそういう意味で児童会長になりたがっているんじゃないかって、メイちゃんは言っていた。
ちなみに、目立ちたがりのわりに、いろいろな点で微妙なものだから、裏ではこっそり「イマイチくん」だなんて呼ばれたりしている。
だからまぁ、「恐るるに足らず!」っていうのが正直なところ。でもそれは、わたしたちが十分に強い候補を擁立できた時の話。そりゃあ、わたしたち三人の内の誰かが立候補することになったら、今川くんにだって勝てやしないよ!
「イマイチくんでも、やっぱり3組の票はがっちりと固めるよねー」
「でしょうねー」
そうなのだ。洛和小学校の児童会役員選挙では各クラスから候補者が出る。その時、6年生みんなの投票はどうしても「同じクラスの候補者に投票する」というのが基本になる。それなりの候補が出てきたら、これを切り崩すことは難しい。だから四年生や五年生の票を取りに行くことが基本的な戦略になるのだとか。
もちろん出身クラスの票を切り崩せたら、相手に与える打撃は大きいのだ。でもある程度クラスの総意として候補が出てきた場合は、なかなか切り崩しは難しいのだそうだ。
でも逆の立場で考えてみると、必ずしも切り崩しが不可能じゃないってわかる。例えば、クラスのみんなに交じらず窓際で小説を読み続けて、ボッチを貫くわれらが織田呉羽くんが立候補した場合を考えてみよう。多分、多くの6年2組の票が外に流れるんじゃないかな? ……って、ダメじゃんっ!!
「1組はやっぱり
「サッチー、式部さんのこと好きだよね?」
式部紫。洛和小学校の完璧超人。下の名前の読み方がキラキラネームなのが、少しだけ残念だとか言われるけど。でも、わたしはいいと思うなー「ヴァイオレット」!
「好きっていうか、憧れ? 尊敬? わたしなんてヴァイオレットさまに比べて良いところなんて一つもないでしょー?」
本当なのだ。運動でも勉強でも美貌でも何一つ、ヴァイオレットさまにはかなわない。
この思いはきっと憧れ。わたしの
そういうすごい人なだけあって、プライドも高く、そして学校の中での人気も高いのだ。6年1組の鉄壁のガードのもと、2組のわたしなんかが近づくチャンスもなし。
でも今のわたしは、本当の
そう言って妄想とともにへりくだったわたしに、メイちゃんは首を傾げた。人差し指を頬につけて。
「う〜ん、ひとつも無いってことは無いんじゃない?」
え? さすがわたしの大親友! このわたしの中からヴァイオレットさまよりも素敵なところを見つけ出してくれるなんて、さすが!
「え? ……そう? たとえば? どこどこ」
思わず部屋の机の上に身体を乗り出してしまう。
「――バカなところ?」
「それ全然褒めてないじゃん〜! いや、わたしがヴァイオレットさまよりもバカなのは認めるけれど、もっとないの? もっと他にないの?」
「――アホなところ?」
「いっしょやないかーーーいっ!」
はぁはぁはぁ。……ふう、有意義な時間を過ごしてしまった。(ある意味)
親友とのボケツッコミって――青春って感じじゃん。(爽やかな目)
「でも、この二人に……特に式部さんに対抗するためには、こっちも相当の票を集められる生徒を候補にできないといけないんじゃないかなぁ。僕たち三人じゃ……とてもじゃないけれど、式部さんにはかなわない……と、思う」
「だよねー。ヴァイオレットさまがラスボスに見えるぅ〜。でも、う〜ん。6年2組にそんな人気者っていたっけ? 女の子でも男の子でもいいから、票数を多く集められそうな子。例えば、イケメンで、男子にも嫌われていなくて、女子から絶大な人気があるような男の子とか……」
「……
「「それだ!」」
そして、現在に至る。
☆
教室の出入り口には女子が三人ほどカバンを持って待っていて、こちらのことを覗いている。
「煌流くん、まだぁ〜?」
「ごめん、もうすぐ話は終わると思うからさ。もう少しだけ待っていてよ。ボクも、今日は四人で帰れること、楽しみにしていたんだ」
「仕方ないな〜、あと五分だからねー」
「あたしは何分でもいいよー。煌流くん、待ってるねー」
「あー、あんただけいい子ぶりっこして、ずるい〜!」
「きゃっきゃっきゃっ!」
とまぁ、このやり取りだけを聞いても、有栖川くんがどれだけモテモテなのかがわかっていただけるかと〜!
まぁ、わたしには有栖川くんのどこが良いのかさっぱりわからないので、あの子達に共感は出来ないのだけれど。それでも有栖川くんがモテているということは、わかるのであります。
織田くんとわたし、そしてメイちゃんは、三人で有栖川くんに、制服に関する児童会規則を変えたいんだってこと、そしてそれには児童会役員選挙に勝って政権を
「うーん。なんとなく三人が児童会規則を変えたいんだってことは分かったよ。でもどうしてそれがボクの立候補ってことに繋がるのかがわからないんだ。そもそも、ボクは児童会長なんて面倒なことはやりたくないんだ。それに児童会規則を変えることにも興味はないしね。ボクは今のままで十分幸せなんだ。平和な学園があって、素晴らしい先生方と、仲間たちがいて。そして可愛い女の子たちがいる。美しきボクの花たち」
なんだか有栖川くんの背景にお花がいっぱい咲いているのが見えるぞ……! 見える気がするぞ……!
「でも、わたしたちは変えたいの。もっと良くするために。今、本当は苦しんでいる人を助けるために。もっと、この学園を自由にするためにっ!」
わたしは握りこぶしを作ってみせる。そうとも、チェンジ・ザ・ワールド――「世界を変えろ!」なのだ。
貴子先生も言っていた。自分が幸せになるためだけじゃなくて、みんなが幸せになるためにルールを決めたり、みんなに想いを伝えたりする。それが児童会なんだって。
「でも、いまひとつわからないんだよね。第一、『本当は苦しんでいる人』って誰? 具体的にわかんないんだよねー。今の制服のルールでなんでだめなの? 誰が苦しんでいるの? ボクには何がダメなのか、わからないんだ」
「そ……それは」
「ボクはこの学校の女子の制服ってめちゃめちゃ可愛いって思っている。それに男子の制服だって悪くないよね? だから男子は男の制服を着て、女子は女の制服を着る。そういう普通のルールを普通に守ることの、何がいけないのか、ボクにはわからないんだよ?」
「うううう……」
有栖川くんの言うことももっともだった。有栖川くんの立場だったらそうなるかもしれない。第一、わたしだって、織田くんの秘密を知る前だったら、そうだったかもしれないのだ。
そして有栖川くんには、織田くんが女の子の制服を着て登校したいんだってことは話していない。もちろん児童会長に立候補してもらうのなら、話さないといけないと思ってはいる。でも、イケメンの有栖川くんは、交友関係も広い。それに、良くない噂も無くはないのだ。簡単に言えば「口が軽い」ってこと。そして有栖川くんの周りには低学年から高学年まで噂好きのミーハーの女の子たちが集まる。だから軽率に織田くんの秘密を、有栖川くんに教えるわけにはいかないって、そう思ったんだ。
でも有栖川くんは何かを察したみたいな表情をつくって、ウンウンと頷いた。
そしてイケメンな優しい笑顔をつくると、大人びたつややかな声色でこう続けたんだ。
「うん。まぁ、言えないこともあるんだと思う。そしてその言えないことについて、三人にはきっと何かのメリットがあるんだろうね」
「うっ……」
有栖川くんはバカではない。細めた目に宿る光はイケメンならではのあやしさと、頭の良さを表しているみたいだった。
たしかに織田くんにはメリットがある。そして毎日
「でもね。誘われているボクには当面のメリットがないんだ。やっぱり、こういう時には、どんな小さなことでもいいから、まずはボクのメリットを提示してもらわなくっちゃ」
「有栖川くんのメリット?」
わたしが繰り返すと、有栖川くんは「そう」と頷いた。
そして「そうだなぁ……」と芝居がかって首を傾げる。
やがて有栖川くんは、ぽんっと手を打つとこう言ったのだ。
「じゃあ、幸子ちゃん。今度の日曜日、ボクと一日デートしてよ。そうしたら考えてあげてもいいよ?」
その顔に、女の子たちをたぶらかすイケメンスマイルをニッコリと浮かべて。
……ん、……デート?
「えええええええええええっっっっっーーーー!?」
デートなんて、わたし一度もしたこと、ないんですけどぉぉぉぉ〜〜っ!!!
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