夜明け
目が覚めると、私はソファに横になっていた。
身体にはタオルケットが掛けられている。
「お、ななみん起きた?」
頭の横から声が聞こえる。聞きなれた声。
「…………真美さん」
顔を横に向けると、真美さんがそばに座って私を見ていた。カーテンから漏れる朝日で輪郭がぼやっとしている。
「おはよ。気分はどう?」
「…………う……」
上半身を起こすと、軽く頭痛がした。
二日酔いというやつだろうか。
「あんまり良くはないですね……」
真美さんが水の入ったコップを手渡してくれる。
一気に飲み干すと、身体が少し楽になった。
「そかそか。まあとりあえず大丈夫そうで良かった。昨日のこと、覚えてる?」
「…………昨日のこと……」
オフコラボをして。
そのあと飲み会をして。
ありすさんとバレッタさんが…………千早さんと仲がいいということが分かって。
感情がキャパシティを超えて、ついお酒を飲んでしまった。
そこで私の記憶は途切れていた。
「お酒を飲んだところまでは、なんとか……」
私がそう言うと、真美さんは「やっぱり」と言いたげな穏やかな表情を浮かべた。
「ななみんが倒れたー! と思ったらその後すぐ起き上がってさ。妙に目が座ってるし喋らないしでなんとなく酔ってるのは分かったから、とりあえず水とウコン飲ませてソファに寝かせたんだよ」
「そんなことが…………ごめんなさい、ご迷惑をお掛けして」
「気にしないで。元はと言えば私のせいみたいなもんだし」
「…………?」
真美さんのせい、ってどういうことだろう。
「あの二人が岡さんと知り合うきっかけを作ったの、私だからさ。私が岡さんと連絡先を交換したのがきっかけであの二人も交換したんだ」
そういうと真美さんは私に頭を下げた。綺麗なピンクベージュの髪がふわっと泳ぐ。
「ごめん」
「…………ああ」
そういえば、前に言ってた気がする。「他にも連絡先を交換したバーチャリアルの人がいる」って。あれはありすさんとバレッタさんのことだったんだ。
「真美さん、頭を上げてください。そんなの……誰も悪くないですよ。別に浮気とか二股とか、そういう話じゃないんですから」
誰も悪くない。
だって…………そもそも私は千早さんに自分の気持ちを伝えることすら出来ていないんだ。
好きな人に、仲のいい異性の友達がいた。
それで、一体何を怒れるというんだろう。
そんな権利が、一体私のどこにあるというんだろうか。
「そうは言ってもさ……」
「そういうものなんです。ところで、二人はどうしたんですか?」
リビングを見渡しても二人の姿はなかった。
「多分まだ寝てるんじゃないかな。飲み会が終わった後、二人はありすの部屋で寝たから。ななみんのことは不思議がってたけど、岡さんとのことはバレてないと思う」
「…………そうですか」
記憶はないけど、酔った私が変なことを口走ってなくて本当に良かった。
正直、酔ったら千早さんの事を言ってしまいそうな気がするから。それくらい日頃から色々溜まっているんだ。気持ちが。
真美さんはさっきから申し訳なさそうな顔をしている。それを見るのが、私はとても辛かった。
私に勇気がないせいで、真美さんにそんな顔をさせてしまっているから。
「────私、千早さんに気持ちを伝えます」
「…………え」
「ぁいや、今すぐという訳ではないですけど……今よりもっと頑張ります。ライバルがいると分かった以上、負ける訳にはいかないですから」
流石に今告白しても、オーケーを貰えるビジョンがあまりにも見えない。気持ちは伝えたいけど、それだけで満足出来るほど私は謙虚じゃなかった。
気持ちを伝えるだけじゃ、ダメだ。
千早さんが欲しい。
◆
「…………なるほどなあ。そういうことだったんだ」
姫が千早くんと連絡先を交換した理由が、やっと分かった。
盗み聞きをするつもりはなかったけど、流石にあの話の途中に割って入ることなんて出来ないし。
かといって扉の前から離れるには姫たちがしていた話はボクに関係がありすぎた。
途中からしか聞いてなかったけど……つまりこおりちゃん、いやこの場合は菜々実ちゃんか。
どう知り合ったのかは分からないけど菜々実ちゃんは千早くんのことが好きで、菜々実ちゃんと仲がいい姫は二人の恋路を応援していると。
そしてその手助けか何かをするためにたまたま偶然仕事で一緒になった千早くんに連絡先を聞いたところ、ボクたち二人まで連絡先を交換しちゃって……あとはお察しの通り。
「…………なんか悪者みたいだなあ、ボクたち」
構図だけみたらめちゃくちゃお邪魔虫だ。ボクもバレッタも。
ボクは正直千早くんに恋してるかって聞かれたら微妙なところだけど……バレッタは確実にそうだろうな。昨日の雰囲気で分かっちゃったよ。
振り向いて、ベッドを見る。
ボクのベッドは大きいから、女の子二人くらいなら余裕で寝られる。
そこには気持ちよさそうに寝ているバレッタがいた。
初めてお酒を飲んで良い気分だったのか、本当に心地よさそうな寝顔。
「応援……してあげたいな」
知り合ったきっかけは確かに微妙かもしれない。
菜々実ちゃんからすればたまったものじゃないと思う。
…………それでも、恋は早い者勝ちではないはずだ。
いやまあ付き合ってるとか結婚してるとか、そういう場合は別だけど。今回はそうでもないし。
姫があっちの味方なら……ボクがこっちの味方をしてもいいよね。バランスもとれてる。
「────あ、そっか」
そしたら……もう千早くんと二人で遊ばない方がいいのかな。
家にも呼ばない方がいいのかな。
そう考えたら、ちょっとだけ寂しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます