釣り師、湖に行く
エルフ店主の“守護の森”で店の記憶石ももらったので、店にも冒険者ギルドにもすぐ行ける。
釣りギルドに顔を出して、しばらくミスティ湖に行く旨を告げるとギルドマスターのハッサムさんはニカッと笑った。
「おう、そういえばミスティ湖の定期討伐の時季か。あれはなかなか割がいい依頼だぜ? 安全でスキルもあがるし、小遣い稼ぎにもいい。まぁ海と違って広々開放感が少ないのが難だがな!」
話からすると、あまり大きくない湖のようだ。
森の中や山にあると、開放感は少ないかもしれない。
机に向かっていたマリリーヌさんも顔を上げた。
「ああ、そうそう。コータス少年、ミスティ湖は毒の生き物が多いから、解毒液の準備して行くといいよ」
「解毒液?」
「そうよ~。下級ポーションでも治るけど、解毒液の方が安いんだから。症状や状態にあった治癒液の方が安くて安心だからね」
下級ポーションみたいな調合液はいろんな状態に対応できるように作ってあり、割高なのだそうだ。
解毒液のように効果が単体のものの方が安く、毒の種類にまで絞ったものだとさらに安いし副作用などの心配もないのだと教えてもらった。
それはいいことを聞いた。ひとまず解毒液をどこかで買っていこう。
「わかった。解毒液買って行くよ。ありがとう」
「気を付けて稼いでおいで~」
二人にお礼と挨拶をして、釣りギルドのギルド舎を後にした。
明日はとりあえず夜が明ける前に、ミスティ湖へ行ってみようと思う。釣りといえばまずは早朝みたいな感覚が、沁みついている。
討伐対象の生き物次第だが、夕方には帰ってきて夜はテントで寝たいところ。
そのくらいの時間に動いていれば、リュイデがもし来てもそんなに待たせないで済むだろうしな。
◇
夕食を食べシャワーを浴び、寝る支度をしたところであまり見てなかった[状況]を見てみた。
◇ステータス◇===============
【名前】コータス・ハリエウス 【年齢】12
【種族】人 【状態】正常
【職業】なし
【称号】なし(申し子)
【賞罰】なし
◇アビリティ◇===============
【生命】2500/2500
【魔量】47382/47600
【筋力】63 【知力】80
【敏捷】66 【器用】92
【スキル】
体術 53 剣術 33 魔法 65
料理 92 調合 58 釣り 99
【特殊スキル】
鑑定[食物]21 調教[神使]100
申し子の言語辞典 申し子の鞄 四大元素の種
シルフィードの羽根 シルフィードの指
サラマンダーのしっぽ
ウンディーネの祝福
【口座残高】3472338レト
魔法スキルがかなり上がっている。
成功する確率が低い魔法が成功するとスキルがかなり上がるというのは確かのようだった。
そして――――特殊スキルのところにある“四大元素の種”。これが、魔粒を必要としない原因じゃないのか?
魔粒は四大元素それぞれの粒で、種ともいえる。
よくわからないスキルだと思っていたけど、神様がくれたギフトってやつなのだろう。
俺はありがたーく神様に感謝して、シロを抱えて眠りについた。
次の日。
深夜と早朝の境くらいの時刻に起きだし、[転移]で“守護の森”の店の前へ来た。
[転移]の魔法はすぐには成功しないが、確実に昨日より少ない回数で成功するようになっている。
「……ニャニャ~……(……ねむいです~……)」
「寝てていいぞ」
シロが入ったバスケットにタオルをかけてやる。この時間はちょっとひんやりとする。
夢追い通りを歩いて冒険者ギルドへと向かうと、ギルドの近くはこの時間でも人の姿があった。驚くことに営業している店もある。さすが国の中心、王都は不夜城か。
通りがかった看板に調合屋と書いてある店の店先には、ガラスのケースが置いてあった。
四角く区切られており、中には
説明を読むと、店員がいなくても中のものが買えるらしい。現金払いでも身分証明具の銀行払いでも魔粒払いでもいいと書いてあった。
――――おお! 異世界の自動販売機!!
その中の一般解毒液というのを五個と下級ポーションを三個をボタン操作で選び、説明に従ってケースの情報晶へ身分証明具をかざした。
すると選んだ商品がガラスケースの横の魔法陣の上へ現れた。
すげぇ……。
できることはまるっきり自販機といっしょだが、調合液を[転移]させて出すとかすげえぞ。
すっかり眠気も覚めた。
ちなみにこれは無人販売庫というもので、調合液や記憶石などのよく使われるものは冒険者ギルドの中のものでも売られていることを、俺は後から知った。
天井の高いエントランスホールの奥へ向かうと、光り輝く柱が何本も立ち並んでいる。
柱のすぐ横には立て看板があり、ダンジョン
(――――確か、21番ゲートって言ってたな)
つらつらと見ていき、21番と書かれた光の柱の立て看板には“ミスティ湖”とも書かれていた。
これか――――って、この中に入ればいいんだよな……?
きょろきょろと見回すと、他のゲートへ入っていく一行が見えた。
やはり中に入るらしい。
目の前を見れば、光の柱。子どものころにやったゲームのセーブポイントのようだ。
ええい! 男も度胸だ!
俺は光の中へ足を踏み出した――――と、もう景色は灯りがぽつぽつとともされた暗い湖岸。
振り向けば、光の柱があった。
もういろいろなことに散々驚いてきたけど、やっぱり驚くだろ……。一歩で移動だぞ……。すげーな、おい!!
「――――お。少年、釣りしに来たのか?」
すぐ横のテントのから声がかけられた。
キャノピーの下に置かれたデスクから立ち上がったのは、冒険者ギルドの制服を着たおっちゃんだった。
「ギルドで紹介された」
「そうか、ありがたい。最近は釣り師はやめて田舎に帰ったってやつが多くてな~。まぁ魔素大暴風があったから、仕方ないんだけどよ。人手が足りなくて困ってたのよ」
「どれだけ力になれるかわかんないけど、がんばるよ」
「おうおう、頼もしいぞ~!」
おっちゃんはワハハと笑いながらバンバンと俺の背中をたたいた。
ハッサムさんといい、釣りに関わるおっちゃんってこんな豪快なのばっかりか。
なかなか痛かったが、歓迎の儀式だと思って俺は笑って我慢したのだった。
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