釣り師、チートな魔法練習をする
スンとなった俺を、リュイデとシリィは訳もわからないのになぐさめてくれた。
二人がいがみあわなくなったので、怪我の功名というところか。
そのうちシリィはパンを買っていないことを思い出して、慌てて帰っていった。
「――――騒がしかったね」
リュイデは呆れたような顔で、走っていく後ろ姿を見ていた。
俺も見送り苦笑する。
「そうだな。――――リュイはまた遊びに来るよな?」
「うん、コータがいいなら来るよ」
「おう、いつでも来ていいぞ。買い物に行ったりして出かけてるかもしれないからテントの方を家族の設定にしておくな。中に入って待ってていいから」
「わかった」
これで冒険者ギルドの方まででかけても大丈夫だ。早いとこ革鎧を買いに行きたい。
リュイデから学校の話など聞きながらその日は過ごし、次の日ゼランニウムさんが迎えに来てリュイデも帰っていった。
あっという間に行き来ができるとか、本当に[転移]の魔法すげーな。
目の前で見て触発されたので、魔法の練習をしてみることにした。
魔法鞄から魔法書を取り出して、リュイデが言っていた[位置記憶]のページを探すと、魔法書〈上級〉の中にそれを見つけた。
必要スキル値:魔法75
|【位置記憶】[リコーディネイラマーク]
|自分の位置を
|魔量:300 魔粒:風180、土160
消費する魔粒の量がエグいな……。
魔法鞄に入っていた空の記憶石と魔粒が入った巾着袋を取り出す。
「[
呪文を唱えると手のひらに載せていた茶色の記憶石は、こげ茶色に変わった。
――――成功か……?
触れて情報を見ると、“レイザン港”とある。
これでこのテントに転移できる記憶石ができたらしい。
あとは[転移]ができれば、移動が楽になるな。
俺は試してみたい欲が抑えられず、きっと失敗するだろうがもし成功して転移してしまった時のことを考えて、魔法鞄を背負いシロを抱えた。
ゼランニウムさんからもらっていたリュイデの家がやっているという治癒院の記憶石を手に「[
スキル値が足りないので当然何も起こらなかった。
――――あれ……? そういや、魔粒って…………?
使えば減るはずだが、巾着袋に変化が見えない。
そしてふと気づく。
そういえば、寝る前に[清浄]をかけた時など、魔粒を持っていなかったなと。
――――俺、もしかして魔法使う時に魔粒使ってないんじゃないか……?
そうは思ったものの半信半疑のまま、また[転移]の魔法を使ってみる。
そしてやけになり、お経のように続けざまに唱えた。
「[
――――と、ひゅんと目の前の景色が途切れ、次の瞬間には見知らぬ場所に立っていた。
抱えていたシロもビクッとなって俺の腕に爪を立てていた。
(「驚かせたな。すまん」)
(『なにごとです~? ひゅんってなりました~!』)
目の前の立派な洋館には『リッツ治癒院』と看板がかかっている。
ここがリュイデとゼランニウムさんの実家の治癒院なのだろう。
それにしても、魔粒は本当に必要ないようだった。びっくりしたが、ありがたい。
これで魔法の練習がガンガンできるのがわかった。
それにしても、ここはどこだろう――――?
住宅街のようで、まわりには庭付きの家が並んでいる。
多分、王都のどこかなんだとは思うが、治癒院にお邪魔して場所を聞くのもなんとなく気が引ける。
昨日[転移]の魔法の話を聞いて、今日使えるようになりました! ってのも普通じゃないような気もする。
できれば変に目立たず、普通にいきたいところだ。
俺はあたりを見回しながら、なんとなく人通りが多そうな方へと歩きだした。
◇
大きな通りで近くを歩いていた人に冒険者ギルドの場所をたずねた。すると、そう遠くない場所だったので行ってみることにした。
冒険者ギルドは、すぐにそれとわかる石造りの建物だった。
もっと小さくてわちゃわちゃしてるものかと思っていたのに、立派な大きさで整然としていた。
ごつい装備の人たちが、ひっきりなしに出たり入ったりしている。
俺のようになんかの動物を肩に乗せている人もいる。
冒険者登録とかしてみたい気はするけれども、まずは装備を――――と思ったが、やっぱり冒険者登録に挑戦することにした。
なぜなら革の鎧がどこに売っているのかわからなかったから。登録という口実で係の人に聞いてみる作戦だ。
いわくのありそうな剣やら盾やらが飾られた天井の高いホールを抜け、受付カウンターへとやってきた。
青い制服の人たちがきびきびと働いている。
「――――冒険者登録をしたいんだけど」
「はい、登録ですね。年齢が十二歳からとなるのですが……」
綺麗なお嬢さんが、丁寧に受けてくれた。
「今、十二歳だ」
「では、大丈夫です。情報晶に身分証明具を当ててもらえますか?」
言われた通りにしていくと、無事に冒険者登録ができた。思いのほか簡単。
ギルド証も身分証明具の中に入っているらしく「
報酬などは釣りギルドと同じで銀行振り込みだそうだ。
「――――他に何か聞きたいことなどありますか?」
ギルドのお嬢さんは、俺の肩に乗るシロを見ながらにこにことした。
「あの、俺、釣り師なんだけど、そういう依頼ってある……?」
笑顔だったお嬢さんは目を瞬いたあと、うなずいた。
「コータスさん、いいタイミングで登録しましたね。ちょうど今、ミスティ湖が定期駆除の時季なんですよ。今年は海に出ない釣り師さんたちがたくさん来てくれているんですけど、湖の方も魔獣が多いらしくて人手が足りてないようなんです。よかったらそちらに参加していただけると助かります」
おお!
なんだかいきなり冒険者っぽい展開だぞ?!
「現地まではどうやって行けばいいんだ? その話、いろいろもう少し詳しく教えてほしい」
俺はすっかりと行く気まんまんで、話をしっかり聞こうと背筋を伸ばした。
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