Ⅴ:元素外星術
ディアスとエイナの決闘がノーウィルの合図によって開始された。
ディアスは基本的に近接型であり、右手に片手剣を持ち間合いを詰める。対してエイナは細剣を抜きつつ魔術陣を構築していた。
「【|風槍(ウェンハスタ)】」
素早く星封陣を構築し、起動文を詠むことで星術が起動する、星術師が一番使う発動方法だ。ただ星封陣は手のひらに構築するのが一般的だが、それは星導器を使用しない場合である。
「そのレイピア|星導器(イデア)かよ!」
レイピアの切っ先に緑色の星封陣が構築され放たれた風の槍は真っすぐディアスのもとへと向かう。星導器とは星力を流し、使用する武器や道具の総称で何も介さず発動する星術とは違い、より簡単に精度を上げたりできる星術補助の道具だ。
一般的な戦闘用星導器は星封陣の構築速度を速めたり、消費する星力を抑えたりする。今回エイナが使っている細剣型の星導器は構築速度重視で、ディアスの予想より早く星封陣が構築されていた。
回避が一瞬遅れ、ディアスの頬を風の槍が掠める。普通だったら切り傷になるであろうダメージは制服の効果によってなかったことになる。場所は限定され、制服に込められた星力がなくなれば機能しない、この効果はこの学院の決闘などで使用される。
全身を覆うように張られる膜は星術または物理的なダメージを肩代わりする。制服の魔力がなくなれば、ガラスが割れるような音が鳴り、その音は試合の終了を意味する。つまりこのバリアを割るのがこの決闘の明確な勝敗条件になるという訳だ。
「あら、避けれましたの。次行きますわよ」
回避ミスにより、勢いを殺されたディアスに向かってエイナはすかさず風の槍を連続して放つ。風元素を使うエイナのスートはスペード。スペードは風と木の元素どちらか、もしくはその両方を扱うことに長けていることを表す。エイナの戦い方は相手を近づけず、中距離で戦うオーソドックスな星術師の戦い方だ。対してディアスは近接型。どうにか風の槍を避けつつ近づかなければならない。ディアスはフリーの左手でナイフを抜く。
「【|結目(ノドス)】」
ナイフを持つ左手を媒介に手の甲側に星封陣を構築する。ディアスの聞いたことのない起動文の宣言に警戒するエイナだが、何も起こらないことに油断してしまう。気づけば視界の先にナイフが迫っていた。構築中の星封陣をキャンセルし、何とかレイピアでナイフを弾く。
「起動文をブラフにナイフを投げるなんてなんて野蛮な、え?」
ナイフに意識を持っていかれ、ディアスを視界から外してしまったその一瞬でディアスはエイナの懐まで迫っていた。振り下ろされる片手剣をレイピアで受け止めようとするが、間に合わずダメージを受ける。バリアの反発により、後ろに少し飛ぶエイナはそれを利用し、再びディアスから距離を取ろうとする。
「油断しましたわ。ただ次はそう容易くいきませんわ」
バックステップしながら、レイピアの切っ先を向け星封陣を再び構築しようとするエイナだが、突如襲われる後ろからの衝撃に反応することができず、ディアスの方へと飛ばされる。
前方には左手を構えていたディアスと、その左手の前には起動済みの星封陣。役目を終え消える星封陣に、今の衝撃は何らかの星術であると察することができたエイナだが、体勢を整えることができていないエイナは無防備なまま、迫ってくるディアスの攻撃をまともに受けてしまう。片手剣の攻撃によってまたしても後ろに飛ばされるエイナだが、まだバリアは割れず、後ろから攻撃されないよう訓練場の壁を背にする。
「いったいどんな星術を使ったんですの!」
壁に追い込まれているという状況だが、エイナはディアスに問いかける。安易に星術を開示することは無いのだが、何をされたかわかっていないのはエイナだけでのちに観客にいる生徒から広まるであろう。だがエイナはディアスが言葉を発するよりも早く、異変に気が付く。
(私が弾いたナイフ。何であんなところに落ちて…)
エイナの疑問の答えはディアスがすぐに教えてくれた。左手に白い星封陣が構築されディアスの起動文によって星術が発動する。
「【|引張(トラクト)】
すると連動するようにナイフの持ち手に印が浮かび上がる。そしてディアスの左手に引っ張られるようにナイフは空中を移動し、手の中に納まった。ナイフを納め、視線を戻すと、エイナは固まっていた。
「元素外星術……。初めて見ましたわ」
多くの星術師がスートによって定められた元素星術を使う中、極稀にスートに関係なく、また元素とも結びつかない星術を使う者がいる。その中の一人がディアスであった。
ディアスが使った星術は物質に印を刻み、それを任意のタイミングで引き寄せる星術。もちろん制限は多くあるが、組み合わせやタイミング使い方は様々あり、ディアスが一番好んで使う星術だ。
先の事象の種明かしも終わり、決闘を続けるため剣を構え再び臨戦態勢を取ったディアスだが、エイナの一言によってそれは無意味なものになった。
「私の負けですわ」
突然のエイナによる敗北宣言。その言葉を聞き、ノーウィルは決闘の勝者の名を告げる。エイナの宣言により終了した決闘に少し不満を持ったディアスはエイナに問う。
「何で急に負けを認めた?」
「簡単なことですわよ。勝ち目がもうなかったの」
そう言いながら自分の細剣で足を突く。するとパリンっとガラスが割れたような音が鳴る。つまり後一撃エイナに攻撃を当てればバリアが割れていたという事。対してディアスのダメージは攻撃がかすったのが数か所。ダメージの差は明らかだった。
「それに貴方を見くびっていましたわ。本日の非礼お詫びいたしますわ」
あまりの手のひら返しに、唖然としてしまうディアス。そんなディアスは後ろからの衝撃に見舞われる。その衝撃は後ろから突進してきたアレンによるものだった。目をキラキラさせて、ディアスを見つめるアレン。すごい!すごい!って言いたいのが何も言わずとも伝わってくる。決闘が終わり、観客も満足そうに訓練場を後にする。
そしてエイナの視線は未だディアスに向いており、アレンを引きはがしこれからの予定を話しているディアスという人物について考えていた。
(元素外星術に気を取られがちですが、高い身体能力に予想外の攻撃に反応する反射神経と動体視力。それでいて星術の起動時間も星導器なしにしてはじゅうぶん。それに私が弾いたナイフと自分で挟み込める位置に私を飛ばしたその状況判断能力も……。彼は一体今までどんなことをしてきたのかしら)
アレンとともに訓練場を去ろうとするディアスを見つめ、明らかに一年生の中で戦闘技術は頭一つ抜けている彼を不思議に思いつつも、星術の探求心が強いエイナは、彼に興味を抱かざるを得なかった。
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