Ⅳ:災難

 ノーウィルの授業が始まり、数分が経過。ディアスが編入した初日である事も加味され一か月のおさらいという名目で、星術の基礎的な話から始まった。隣の席で小声で話せる距離にいたアレンはディアスに先の女子生徒について話していた。名前はエイナ・ディル・ブラウト。成績優秀者が受けれる制度を受け、この学院に通っているとのこと。


「僕たちとは違って自分の入学金を奨学金制度で払って通ってる数少ない生徒だよ。ただ少し真面目過ぎるのと、星術への探求心が相まって、周りとの反発が少し激しいんだ」


 奨学金制度とはこの学院に入る前に希望し、試験を受けそこで優秀な成績を残し、その後の学院生活でも成績をキープし続けられれば、入学金を免除してもらえる制度の事らしい。ただバカまじめだからと言って食って掛かるのは違うと思うが、ここはひとまず流す事にしよう。


「では、これは分かるか? ヴォイド」


 話をしていたことがばれたのか、ノーウィルが問題の回答者にディアスを指名する。もちろん問題部分を聞き取ることができなかったディアスは、申し訳なさそうに謝る。するとエイナがこちらを睨んでくる。その状況を見てノーウィルはめんどくさそうな顔をした。


「もっかい言うぞ? この世界に生きる理性ある人類は皆、体のどこかに四角い紋様を持つ。それは何と呼ばれ、何を意味する?」


「呼ばれ方は|刻印(インデックス)。それが意味するのはその人が扱える元素です」


 この世界の住人は必ず体のどこかに四角い長方形の黒い線とその内側の角二つ、対角線になる位置にマークがある。そのマークは四種類ありそれぞれスペード・クローバー・ダイヤ・ハートと呼ばれそれらを総称してスートと呼ばれている。


「正解だ。もう少し詳しく言うと、元素を判別しているのは|刻印(インデックス)全体ではなくスートだ」


 インデックスは見られるだけで、その個人の使用元素を大きく絞ることができるため、星術師たちの中では刻印は隠し、個人のスートに関して無理に詮索はしないという暗黙の了解がある。この生徒の中にも不自然な箇所に布を巻いてあったり、自分の刻印が露見しないような対策がされている。

 先生がスートに対して掘り下げて解説しようとすると、学院全体に鐘が鳴り響く。思いのほか、自分の遅刻とエイナとの問答で時間を食ってしまっていたようだ。


 この学院では星術はもちろんそのほかの世間一般の基本的な授業もある。慣れない授業に悪戦苦闘しながら、気づけば一日の過程を終えていた。

 今日はこの後アレンと一緒に生活に必要な物を買いそろえに行く予定があった。


「よし行くか、アレン」


「わかった今準備するよ……」


 二つ返事で立ち上がり、鞄を持ってディアスに視線を向けようとするアレン。次の瞬間アレンの視界を横切ったのは黒い手袋だった。その手袋は真っすぐディアス目掛けて飛んでいき、その体に当たるとひらりと地面へ落ちた。地面に落ちた手袋には星封陣が描かれており、その星封陣は線をなぞり白く光り始める。するとディアスの左手に着けている手袋の甲部分にもある星封陣が連動するように白く光り始める。

 これは学院指定の手袋であり、生徒全員が必ず左手に装着しているものである。手首まで覆うその手袋には手首の部分に個人の名前が刻まれており、ディアスに当たって落ちた手袋にはエイナ・ディル・ブラウトという名前が刻まれていた。

 アレンが口をパクパクさせている中、ディアスが手袋の飛んできた先へと視線を向けると、その人物はこちらをキッと睨んでいた。


「|決闘(デュエル)ですわ!」




 そしてシーンは再びここに。

 勢い余って決闘を受けてしまったディアスはその後にアレンから決闘のシステムについて説明を受けた。

決闘のシステムについては至って簡単。手袋に|星力(アストラ)を込め星封陣を起動させ、戦いたい相手にぶつける。そして決闘を受ける合図はその手袋を拾う事。決闘のシステムを知らなかったディアスは何も知らず、手袋を拾い、あろうことか投げ返したのであった。勢い余ったとはそういうことである。


「そういうシステムがあるなら先に言っておいて欲しかったよ、理事長」


 今いる場所は学院内の訓練場。実技の授業の他、こういった決闘や試合に使用される場所だ。手袋のシステムで、決闘を受けると学院の教職員へと知らせが入る。そして教師が一人、決闘に立ち会うことになるのだが…


「そんな気がしてたけど、編入初日からとは災難なことだ」


 その口調から見るにエイナはこれが初めての決闘ではないのだろう。ノーウィルの苦労が垣間見えた気がする。決闘は学院の中の掲示板にも上がり、生徒観戦も認められている。生徒の見学理由は主にスートの見極めと個人の情報収集の為らしい。もちろんアレンからの情報だ。


「エイナさんだけど……」


「あぁ、大丈夫。同じ状況じゃないとつまらないだろ?」


 エイナの決闘を見たことがあるのであろう、アレンはスートや戦い方の情報をディアスに渡そうとするがディアスはそれを拒否した。相手も自分についての情報はないのだ。ここはフェアに行きたい。そんな気持ちを込めると、アレンは「頑張ってね応援してる」とだけ言葉を残し、観客席へと向かう。アレンに見送られ、円形の訓練場中心部へと足を進めた。

 腰には愛用の片手剣。そしてディアスが投擲用によく使うナイフが一本。対するエイナは|細剣(レイピア)一本のみ。


「さぁ、はじめましょう! |決闘(デュエル)を!」


 やれやれといった表情でノーウィルが二人の間で手を上げる。


「それではエイナ・ディル・ブラウト対ディアス・ヴォイドの|決闘(デュエル)を開始する」



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