Ⅲ:無事失敗
朝日が山を越え王都に日が帰ってきたころ。ディアスは学生寮の入り口に立っていた。
長年続けていた鍛錬のせいか、朝早くに目を覚ましてしまった。二度寝するのも勿体ないので、軽く走り込みをしようとアレンを起こさないように寮を出てきたところだ。
「早めに済ませないとな」
昨日学院に着いたのは夜中だったため、しっかりと学院を見るのは初めてだがかなり広い。寮から校舎を目指し、軽く一周して寮に戻るそんな予定を立てるが、方向音痴であるディアスが見知らぬ土地でそううまく行くわけもなく、気づけば帰り道を見失ってしまった。こんな時間から生徒の姿を見るわけもなく、取り敢えず適当に走る。
しばらく走っていると、生徒がちらほらと学院の方へと歩いていく姿が見える。この学院では寮に入っている生徒がかなり多いため、その人の流れに逆らえばディアスでも寮にたどり着くことができた。ただ時間はぎりぎりであった。
「やっと戻ってきた。びっくりしたよ、朝起きたらディアス君いないし、でも制服あるし何してたの?」
昨日の夜にはすでに打ち解け始めていたアレンはすでにディアスとの間に緊張を見せることは無くなっていた。昨日の最後も喋りつかれてアレンが先に寝落ちていた。鍛錬の事も一応話していたのだが、たぶん覚えてはいないのだろう。
「ごめんね。昨日先に寝ちゃったから。あっ、時間ないよ!早く準備しなきゃ」
初日から遅刻はもちろんまずいのだが、汗をかいた状態で制服を着るのには抵抗がある。アレンには先に学院に行ってもらい、汗を流す。部屋に戻るとアレンの姿はないが、制服などがきちんと準備されていた。アレンに感謝しながら制服に袖を通し、寮を出た時点で学院から鐘の音が聞こえ、急いで学院へと向かう。
やっとたどり着いたが学院内も広く、職員室はもちろん自分の教室も分からず迷子になりそうなディアスを廊下を歩くノーウィルが見つけ寄ってくる。
「やっと来たか、ほら行くぞ」
頭に一撃チョップを入れられ、教室に向かうノーウィルのあとを追う。教員室から少し離れたCと書かれた札があるこの教室がこれから通うことになるノーウィルのクラスらしい。先に教室に入ったノーウィルのあとを追い教室に入る。
「すまんな。手続きがあって遅れた。でだ、新しくこのクラスに入る転入生だ。ほれ自己紹介」
「ディアス・ヴォイドです。しばらく森の中で暮らしていたので、いろいろ疎いところはありますが、星術を学ぶために来ました。これからよろしくお願いします」
かなり無難に挨拶を済ませると、森という言葉に疑問符を浮かべる生徒が多い中、一つ拍手が起こるとそれはたちまち連鎖する。ディアスはその間に教室を見渡していた。生徒たちの机は階段状に後ろに行けば行くほど高くなり、さらに机は半円を描くように設置されているため、黒板が見やすくなっている。
ディアスの挨拶を聞いたクラスメイトの反応は様々。興味無さそうに窓から外を見ている者、どんな人物か見極める為にじっとこちらを見ている者。アレンも同じクラスだったようで、一番後ろの席からこちらに向かって手を振ってくれている。
そして授業が一番聞きやすいであろう最前列の真ん中の席から、一番強く不機嫌そうな目線を終始ディアスに向けていた女子生徒が席を立った。
「そろそろ授業を始めませんか? 時間の無駄ですわ。こんな時期に転入? 何があったか知りませんが邪魔になってる自覚、ありませんの?」
入学式が終わってから一か月、確かにこの時期の転入は普通なら考えられないのだろう。不思議そうな視線ももちろん感じていたが、ここまで嫌悪感を向けてきたのは彼女だけ、何を焦っているのかは知らないが、明らかに周りとは違い受け入れる気のない態度。
「だそうです。先生俺の席はどこですか? たかが数分程度にも余裕を持てないみたいなので俺のことはいいので授業始めてください」
教壇から降りノーウィルの指さす先、真ん中最後列。アレンの隣の席へと足を運ぶ。ノーウィルの深いため息が聞こえた気がするが気にしない。嫌味をたんと込めた言葉に先の女子生徒はかなりイライラしたらしく、席にも座らず、こちらをガン見してくる。その横を通り過ぎようとすると、不機嫌そうな声で呼び止められる。
「なんですの? さっきの態度は。文句があるなら私に直接いいなさい」
「いいんですか? 余裕のない貴方の貴重な時間を無駄に浪費することになりますよ?」
さっきよりも直接的に嫌味をぶつけると、先程よりも強く嫌悪感のこもった緑色の眼差しがディアスを捉える。火花散らして睨み合う二人を流石に看過したのかノーウィルが止めに入る。
「ブラウト。転入生を虐めてやるな。ヴォイドも煽るないいから二人とも席につけ、授業を始める」
フンと首を振り、ブラウトと呼ばれた女子生徒はその場に座り、ディアスも階段を上ってアレンの隣に座る。ディアスたちのせいで教室の雰囲気は最悪。その何とも言えない雰囲気に売り文句を買ってしまったことに若干後悔していた。そして案の定横から小さな声でディアスを呼ぶ声が聞こえる。
「ディアス君!初日から何してるの。見てるこっちはすごく怖かったんだからね?」
「悪い。ちょっとイライラし過ぎた」
ただ、アレン自身もディアスを責めるつもりはなく、「災難だったね」と優しくねぎらってくれた。
こうしてディアスの初日は無事失敗に終わり、ここからクラスでの印象をどう立て直すか、考えながら静かに授業を受けるのだった。
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