第4話 落雷

「はい、中根です。あ、大河原さん?はい、あ、そうですか。……え、どういうことですか?くび?もう来なくていいって、僕は、くびってことですか?事故を起こしたから、くびですか。」

所長の大河原からだった。事故を起こして、相手企業からの信用を失ったから、茨エレの送迎の仕事もやらせられない。代わりの人が見つかったから、もう来なくていい、そういう電話だった。

「え、でも、まだシフトには入ってるんじゃないですか?とにかく来なくていいって、どういうことですか}

「ちょっと電話かしなさいよ」

惣野が僕から携帯をひったくった。

「もしもし、お電話替わりました、妻のめぐみです。いまお話を横からうかがってましたが、どういうことでしょうか?急にくびで、明日から来なくていいってことが許されるんでしょうか?はい、事故の件はうかがってます。…そうですか、社長さんが決めたことだと。では、社長さんはいまどこにいらっしゃいますか?わかりました。では、社長さんに連絡してみます」

そういうと、惣野は、いきなり通話を切ってしまった。

「それ、おれの電話でしょう!それに、妻のめぐみです、って何よ」

「そんなことはどうでもいいよ。それより、あんた、よくこんな会社で働いてたね。今から社長に会いに行くから、電話番号教えなさいよ」

「え、今から?ぞうさんといっしょにいくの?」

「そうだよ。あんた一人で行ったところで、退職手続き取らされるのが落ちじゃないの。あ、あった、東関ハイヤー本社、これね」

惣野は、携帯の連絡帳を探して、そこから会社の連絡先を見つけると、また勝手に僕の携帯から本社へ電話をかけた。

「もしもし、東関ハイヤー株式会社様でしょうか。こちら、石ヶ崎営業車の中根保の妻のめぐみと申します。このたび、夫の事故の件につきまして、社長様とお話がありますので、社長様をお願いできないでしょうか」

と言うと、惣野はメモ帳を取り出した。

「あ、社長様でいらっしゃいますか。中根保の妻、めぐみです。たった今、石ヶ崎営業所の大河原所長様から連絡がありまして、うちの中根がくびになったということなんですが、どういういうことでしょうか?…はい、…はい、なるほど、では、会社から指示があって仕方なく出勤させれた件については……は? どういうことでしょうか?」

向かいの席で話している惣野の顔が、みるみる赤くなって、眉間にはしわが寄り、目が大きく見開かれた。

「なるほど、お宅のようなブラ、いや、零細企業は、いろいろと大変なんですね。ただ、こちらも、急に言われてもこれからのことが対処に困りますので、直接お会いしてお話させていただけませんか。はい、すぐに参ります。そうです、我が家の生活にかかわる一大事ですので、直接話をさせていただきます。それでは、一時間後に」

というと、また惣野は、いきなり通話を切った。

「さあ、行くわよ。お金は払っといてね」

というと、席を立ってスタスタとレストハウスを出て行ってしまった。

「ちょっと待ってよ!いきなり行くのかよ」

むりやり払わされた代金を支払うと、僕は惣野のあとを追って店を出た。


「大気の状態が不安定になっております。お乗りの方はお早めにお願いします」

というロープウェイのアナウンスがあった直後に、落雷の音があたりに響き渡った。

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