ユーモアを解さないような奴は

アクシーズの手には、足ほどのそれではないものの鉤爪が付いていて、地球人などでは肌に傷が付きそうな印象があった、しかし、もちろんアクシーズ自身はそれを承知していて手加減するし、加えて、マヒルの体は丈夫な鱗に覆われていて、少し爪を立てたくらいではびくともしなかった。むしろ、


「~♡」


心地好さそうにしている。


すると、彼の肩に飛び乗ってまた肩車状態になったヤナカが、マヒルの頭を覆う大きな鱗を洗いつつ、


「痒いところはございませんか~?」


と訊いてきた。そんな彼女に、


「ありがとう、大丈夫だよ」


マヒルが応えると、


「お~い! そこは『足の裏!』とか言うところだろーが!」


と、彼の頭をパシーン!と叩く。


「あいたっ!」


などと声を上げたマヒルだが、その顔は笑っていて、


「なにすんだよ、も~!」


少しも怖さがない声でそう言った。


「え~い! ユーモアを解さないような奴は、こうだ!」


ヤナカは言いながら彼の首筋をくすぐるように指で掻いた。けれど、


「効かないね~」


マヒルは平然としている。実際、彼にはそれは少しもくすぐったいものではなかった。するとヤナカは、


「つまらん! つまらんぞ!!」


怒ったように声を上げる。けれど本気で怒ってるわけじゃないのは、マヒルだけじゃなくアケボ達にも伝わっていた。だから、


「ねえちゃん、ねえちゃん! 僕も乗る~!」


ヤナカの前に割り込むようにしてマヒルの肩に乗ってきた。


「あ、こら! 邪魔すんな!」


ヤナカは言うものの、やっぱり怒っているような気配はない。しかも、


「ぼくも~!」


「わたしも~!」


ユグレやヨイノ、さらには一番小さいハクボまで登ってくる。こうして五人に乗られても、マヒルの体は少しも揺らがない。まるでしっかりと根を張った大木のようだ。


「あはは♡」


それどころか笑っている。


「ぬお~! 無念……!」


アケボ達に追いやられる形でヤナカが降りると、アケボ達はそれこそ自分達自身が泡だらけになってマヒルの頭や肩を洗ってくれた。


代わりにヤナカが、マヒルの体を洗っていく。


そうして全身が洗われて、最後に、全員でバシャーッ!とお湯を浴びた。そうして泡が流れると、マヒルも浴槽に浸かる。ザーンと湯が溢れ、


「きゃーっ!」


「きゃーっ♡」


アケボ達は歓声を上げた。


それもすぐに落ち着き、六人でゆったりと風呂に浸かる。その中で、ヤナカは、


「うい~っ!」


オッサンのような声を。


なのにマヒルはまったく気にした様子もなく。穏やかな表情のままなのだった。


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