マヒル登り

そうしてヤナカの弟妹達が出迎えてくれたところに、さらに、


「おかえり」


と言って家から顔を出した者がいた。レモンイエローの羽毛と頭のオレンジ色の飾り羽は同じだが明らかに年齢を感じさせる顔つきをした女性だった。


「ただいま。アカネ。これ、猪竜シシ肉」


マヒルは挨拶をしながら手にした袋を差し出した。アカネと呼ばれた女性はそれを受け取って中から猪竜シシ肉を取り出して、


「ああ、これはいい肉だね。早速、使わせてもらうよ」


アカネは袋を返しながらそう言った。すると、


「私も手伝う!」


ヤナカが立ち上がりながら口にする。


「そうね。お願い。マヒルにおいしいゴハン食べてもらわないといけないからね」


アカネは微笑みながら応えた。一方、アケボ、ユグレ、ヨイノ、ハクボ達は、


「マヒル~! 遊ぼ~!」


言いながら彼の体をよじ登り始めた。


「ああ、分かった。晩ゴハンできるまでね」


マヒルも笑顔で四人を抱える。大きさ的にはそれこそ赤ん坊が大人によじ登っているような印象だった。しかもマヒルは、びくともしない。身体能力の高さがそこでも分かる。


そのまま、アケボ達の好きにさせる。今、アケボ達四人のマイブームは、


<マヒル登り>


だった。だから『遊ぶ』と言っても、子供達の好きにさせていればいいだけなのだ。


ちなみに、マヒルの家はすぐ隣である。そしてマヒルは、食事などについてはヤナカの家で世話になっていた。と言うのも、彼には<家族>がいない。父親はおらず、母親もすでに他界している。もっとも、離婚したとかではない。生まれた時点から父親はいないのだ。と言うか、そもそも、恐竜人間ダイナソアンと呼ばれる人間は、マヒルを含めても二人しかいない。


そして、マヒルの母親は、一人で、マヒルを妊娠し産んだ。<自家受精>というものだった。ただし、地球の生物においての<自家受精>とは少し意味が違う。惑星朋群ほうむの生物におけるそれは、自身の体内に異なる遺伝子を持つ複数の生殖細胞が同時に存在し、それらが自身の体内で結合、成長を始めることを言う。


このため、厳密には<クローン>ではなく、あくまで母親とは別の遺伝子を持った子が生まれるのだ。マヒルはまさに、そういう形で生まれてきた。


ただ、マヒルを妊娠した時点で母親はかなりの高齢であり、マヒルが十歳になる前に老衰で亡くなった。それ以来、隣人だったアカネが母親代わりにマヒルを育てたということだ。


なので、もうすでに<家族>同然の関係である。その上で、アカネの娘のヤナカがマヒルを好きになり、付き合っているということであった。


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