青龍

マヒルとヤナカがいる街は、荒野のど真ん中にあった。とは言え、地下水が豊富なことと、下水のリサイクルが高度に発展しているので、水で困ることはない。


ちなみに下水からバイオ処理されてリサイクルされた水は、完全に飲料水とは切り離されてトイレなどに利用されている。まあ、飲んでも支障がない、自然に流れている<綺麗な水>と同等程度には処理されているので、単純に気分の問題でしかなく、気にならないなら飲んでも大丈夫なのだが。実際、平気で飲む者もいる。


などという余談はさておいて、三十分ほど歩くと、いかにも<プレハブの仮設住居>といった雰囲気の家々が立ち並ぶ場所に来た。一般的な住人の住居である。


と言っても、これも別に<貧民街>というわけでもない。というのも、この住宅地の一角では、ロボットが新たな住宅の建設を行っており、非常に簡素である代わりに住人であれば誰でも無償で住むことができるものであった。


これで満足できないなら、働いて得た金で、もっと丁寧に作られた家を買えばいい。そちらの家だって、三年も真面目に働けば買うことは可能だ。しかし、多くの住人達はこちらの家で満足してしまい、わざわざ移り住む者も少ないのだ。


基本的に朋群ほうむ人にとって<家>など、雨露が凌げればそれでよく、古くなって痛めば新しい家に移れるし、傷んだ家はロボットが解体して再資源化、すぐに新しい家が作られるのである。


なので、<貧富>自体が概念としてあまり成立していないとも言えるだろうか。


ちなみに、この住宅街は、<青龍>と呼ばれていた。他にも、<朱雀><白虎><玄武><丑寅><戌亥>という住宅街がある。その名から察せられるように、方角に対応している。なのでもちろん<青龍>は、ここ、


<アリニドラニ市>


の東側にある住宅街なので、その名が付けられた。


「おかえり~! マヒル! 姉ちゃん!」


マヒルが一軒の家に近付くと、その家の前にいた子供が、嬉しそうに声を上げた。ヤナカと同じくレモンイエローの羽毛に覆われ、頭にはオレンジ色の冠のような飾り羽が生えた男の子?だった。


「ただいま! アケボ!」


ヤナカが応えると、アケボと呼ばれた子が、


「マヒルとねーちゃんが帰ってきたぞ!」


家の中に声を掛け、途端に、


「ねーちゃん! おかえり!」


「かええりねーちゃん!」


「おか~!」


さらに三人の子供が玄関から顔をのぞかせた。


「ただいま、ユグレ、ヨイノ、ハクボ!」


新たに出てきた三人にもヤナカは笑顔で応えて、マヒルから飛び降り、四人を一度に抱きしめた。


皆、ヤナカの弟妹達であった。


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