第3話⁂晴樹の恋!⁂



 蓮はふと幼少期の事を思い出す事がある。

 何故なのか?女の子………あの桜ちゃんに感じた嫌悪感は何だったのか?

 蓮が死を遂げるひと月ぐらい前の事。


 あれは確か蓮が幼稚園の頃の事だ。

 ある日幼稚園も一緒の近所の桜ちゃんと、土手のつくし取りに出掛けた。

 丁度桜前線がピークを迎え、その勢いのまま直ぐ去って行きそうな勢いで桜が舞っている。

 あの坂本冬美の『夜桜お七』のセットの名場面をそのままに、何とも美しく艶やかに桜吹雪舞う中を🌸・・・


 {むす~んでひらい~て♪手✋を~打ってむ~すんで♬}と歌いながら手を繋いで歩いて居た。


 その頃から何か…………???{嫌だな~!}手を握る事への違和感を感じて・・・


「僕イヤ~?もう帰る~」


「蓮どうしたの~?」


「いいから!いいから!傍に寄らないで~」

逃げるように帰った蓮なのだが、桜ちゃんは土手で延々泣き続けていたのだった。


 {俺はあの頃からズ~ッと何か?…嫌悪感を感じるんだ...どうなっているのか?いつでもこうなんだ!}

 あの日手を振り払って一人で家に帰った日の事を、昨日の事のように思い出す。


 潔癖症なのか・・・いや~?何か…………。


 何故そんな遠い過去に思いを馳せたのか・・・

 あの幼い日と余りにも両極端の感情が、押し寄せて来たからなのだ。


 夏休みに入る数日前のお昼休憩時間に、クラスの親友伊藤晴樹君から「話があるから屋上に来てくれない?」と呼び出された蓮は嬉しさのあまり、取るものも取り敢えず駆け足で屋上に上がって行った。


 晴樹は成績優秀で、弱い者を見たら放って置けない弱者の味方。

 その為生徒の信頼を一身に浴びている精悍な男子なのだ。


 また成績優秀で、いつも蓮と学年で一 二を争う、そんな皆のリーダ-的存在の晴樹に、校舎の屋上に呼び出された蓮は、御昼の休憩時間に喜び勇んで屋上に駆け上がって行った。


「ハア!ハア!…………お~い!・・ハア!ハア!……一体どうしたと言うんだ~?急にこんな所に呼び出して?」


「……アア~?・・・あのさあ……ゴホンゴホン…あのさあ・・・俺さあ・・ミオ・・・美緒ちゃんの事が………美緒ちゃんの事がスッ好きなんだ!・・・だけど美緒ちゃんがお前に気があるらしいんだ………そこで相談が有るんだが・・あの~?もし……美緒ちゃんが告白して来ても断って欲しいんだ。頼む!一生に一度の頼みだ。頼む!」

 そして蓮を凝視して両手で蓮の手を、握り懇願する晴樹。


「何を言っているんだ~?いつものお前らしくないな~、全く俺の考えも聞かずに一方的過ぎるじゃないか~!……俺は美緒ちゃんの事、何とも思っていないよ!」


「アアアア!そうか~…そうだったのか~?俺…俺…あの美緒ちゃんの事考えると・・・夜も眠れないんだ……だからこんな強硬手段に出たんだ……強敵蓮が恋敵から外れる、ワ~イ!ワ~イ!」


 そして蓮に飛び付いて満面の笑みでこの喜びを表現している。

 蓮の表情は一瞬曇るが、何を思ったのか……?

 思いつめた表情で晴樹を見つめ返している。

 その時間たるや一分以上にもなる。


「オッ……オイ!どうしたんだよ?・・・俺の目にゴミでも入っているのか~?

…それにしても……お前……良い顔してるよな~羨ましい……俺が女だったら真っ先に告ってると思うわ~!」


 するとその時蓮は、突如として思いつめた表情で只々大粒の涙を流しながら天を仰いでいる。

「……グウウウウ(´;ω;`)ウゥゥ…………それって誉め言葉にもなって無いんだよ~?でも?‥でも・・・俺・・嬉しいよ!」


 手をギュッと強く握り返して、強く肩を抱きすくめた。


「ここで泣く事ってある~?……変だって~?何か……あるのかい?」


「…アアアア~何も?…何も?……何もないさ~……それから……それから……言える事じゃ無いし~」


 蓮には思い詰める何か……秘密があるのだ。

 そんな秘密を抱える蓮に恋焦がれる美緒ちゃんの姿が有る。

 そして美緒ちゃんは蓮に執拗に付きまとっている。


 優しい蓮はあれだけ晴樹の気持ちを知りながら邪険に出来ない。

 一体どうなって行く事やら……。











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