第12話

彼の言ったことがあまりにも理解出来ずに固まる。

いやいや伝える人間違えてるんじゃ。

だってみくさんという女性は?

あんなに親しそうにしていたのに。


「あのみくさんって女性は?」

「…みく?」


その名前を聞いた紏柚の顔がみるみる曇っていく。


「見てたの?」

「たまたまね。」

「あいつは兄貴の彼女。いつも親ヅラというか彼女ヅラしてくる。あいつはキラキラしてないから好きじゃない。」

「え?紏柚、そのみくさんが好きなんじゃないの?」

「……なんで?」


すっと目を細めたと思ったら、表情が消え、能面のような顔になる。


「仲良さそうだなって思ったから。」

「仲はいいよ。俺は、兄貴が大切だから、兄貴の好きな人を邪険にできない。でも好きじゃない。」


AIのように答える紏柚が少し面白い。


「雨音は俺が好きじゃないの?」


笑いそうになっていた私を制して紏柚が顔を覗き込んでくる。

みくさんというあの女の人が心に引っかかってる以上、素直に私も好きだと言うことができない。

好きだと伝えられないまま、私たちは帰路についた。

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