第11話

「ねぇ、雨音。」

「んー?」

「俺、雨音がキラキラしだした理由、知ってるよ。」


キラキラ?


「キラキラなんてしてないよ?」

「キラキラしてる。雨音、好きな人でもできた?」


いつものんびりと自己中な紏柚から"好きな人"という単語が出てきて焦る。


「うん。好きな人はいるよ。叶わないかもしれないけどとりあえず努力だけでもね。」


紏柚には、好きな人なのか彼女なのか分からないけれど、素敵な女性がいるから、叶わないだろうとは思うけど、なにかせずにはいられない。


「なんで叶わないかもしれないの?」

「うーん。女の子に人気だし、好きな人なのか…彼女なのか、とにかくとても綺麗な女性がいるからね。」


あははと笑うと、紏柚は、"俺は雨音が綺麗だと思うよ。"と流し目で言われ、頬がひきつってしまった。

お世辞だろうとも嬉しいと言いたいところだけれど、みくさんを見たあとに言われたら、なんの期待も持たずにお世辞だと分かってしまってあまり喜べない。


「雨音?」

「あ、ううん。ありがとう。でも、あまり気のない異性にそういうことを言ったらいけないよ。期待をさせてしまうからさ。」

「期待していいよ。」

「…人の話聞いてる?」

「聞いてるよ。そういうものだってわかってて、言ってるから。」


そう言って再度差し出してきたのは、彼の愛読書の少女漫画。


「これにそう書いてある。雨音も、そうでしょ?」


何が"そう"なのだろうか。

よく分からないまま渡された漫画を手に取り、パラパラと開く。

そこには、主人公の女の子が、好きな男の子に甘い言葉を言われ、告白するために努力姿が描かれていた。

ダイエットやメイクの練習はもちろん、髪質改善や、ファッション。

何故か料理の練習までしている。

この主人公の努力の仕方が、私によく似ている気がする。だから紏柚は、私に好きな人が出来たのかと問うたのか。

そんなに疑問に思っていた訳では無いが、妙に納得して本を閉じる。

すると、"雨音は絶対俺のこと好きだと思ってたのに。"と、少し残念そうなトーンで紏柚が言った。


「え?」


その通りだとも言えずに、ただ驚きの声を上げる。


「俺はね、雨音が好きだよ。」


彼は、飄々とした顔で私に好きだと告げてくる。



「だからそういうのは「雨音は砂糖みたいな人だなって思ってる。」

「分からない。」

「雨音は人の話を聞くのが上手い。俺は話すの苦手。だけど、雨音との時間は心地よくて、話さなくてもいいのに色々話したいなと思わせてくる。口が疲れるくらいね。」

「それは喜んでいいの?」

「喜んでくれなきゃ困る。砂糖はキラキラしてるしすぐ溶けるから塩より砂糖の方が好きだから、雨音は砂糖。」


満足そうに微笑む彼はとても可愛らしい。


「ありがとう。私が否定できないくらい好きなところを言ってくれて。」

「ほんとに分かってる?伝わってる?俺は篠原雨音が好きだって。」


いつものなんら変わらぬトーンで紏柚が口にしたのは"好き"の2文字だった。

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