第9話

「雨音、今日委員会ある?」

「ないよ。」


授業が終わり、机に頬をつけ私の方を向きながら眠そうに紏柚が話しかけてくる。

もしかして、さっきあった10分前後のホームルームの間寝ていたんだろうか。


「じゃあ帰ろうか。」


小さく欠伸をしながら鞄を手に取る。

いつのまに準備を終わらせていたんだろうか。


「ちょ、ちょっと待って。」


慌てて教科書やらノートやらを鞄に詰めて立ち上がる。


「ねぇ、紏柚。今日は寄り道したいから駅前までの道まででいい?」

「何か買うの?」

「うん。シャンプーとか買いたいの。」

「俺も行く。」

「え?紏柚も行くの?」

「だめ?」

「ううん。いいよ。行こっか。」


駅までのドラックストアまで歩き出した私の横に並んで紏柚が歩く。


「雨音、自転車直らないの?」

「あ、んー。」


自転車は既に直っているけれど、紏柚と帰る時間が好きすぎて徒歩通学にしているとは言いづらい。


「俺は、直らない方が嬉しいよ。雨音と話す機会が増える。」

「…ありがと。」


言いづらい雰囲気を察したのか、フォローしてくれた。

店に着くと、彼は、真っ先にシャンプーの売り場に歩いていく。

やっと追いついた時には、匂いのテスターを片っ端から試していた。


「好きな匂いあった?」

「これ、雨音って感じの匂い。」


渡されたシャンプーには、おひさまの香りと書かれている。

促されてテスターの香りをかぐと優しい爽やかな香りがする。

同じブランドのコンディショナーや、アウトバストリートメントを手に取り、レジに通すと、"雨音からこの匂いがするの楽しみ"と彼は笑った。

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