第6話

「雨音、今日俺迎えくるから一緒に帰れない。」


委員会活動に行く前、申し訳なさそうに紏柚は言った。


「ん。分かった。」


別に毎日約束をしていた訳では無いから、そんな顔をする必要はないのに。

軽く挨拶をして、担当の花壇まで行く。


「篠原さん、今日も早いですね。」

「木南くんの方が先に来てるじゃん。」

「僕はこれしかやることがありませんから。」


柔らかく笑うと、追肥用の肥料を準備していく。


「今日は早く終わりそうですね。昨日雨でしたから水やりはいらないですし。」

「そうだね。」

「今日は彼と帰るんですか?」


木南くんが向けた視線の先には紏柚がいる。


「あー。ううん。今日は迎えが来るらしいから。」

「そうなんですね。今日も歩きですか?」

「うん。」


それから雑談をしているうちに作業が終わってしまった。

木南くんと廊下で別れて教室に入ると、紏柚が珍しく携帯を眺めている。


「あ、雨音。お疲れ様。俺そろそろ迎えくるみたいだから帰るね。」

「うん。気をつけてね。」


少しの寂しさを抑えて笑顔を作る。

別に付き合っている訳でもないし、私には引き止める術がない。

彼を見送った後、小さく息をついて自分の席に座ると、隣の席に桜色の手帳が乗っていることに気がつく。


「紏柚がいつも持ってるやつじゃん。」


迎えが来たからとは言ってなかったし、今行けばまだ届けられるかもしれない。

手帳を持って校門に向かうと、ちょうど彼の迎えが来たところだった。


「あ!つーくん!ごめんちょっと遅くなっちゃった!」

「みくうるさい。その呼び方ここでしないで欲しいんだけど。」


"みく"と呼ばれたモデルさんのように綺麗な女性は、紏柚に腕を絡めて去っていく。

こんな一瞬でもわかる2人の信頼関係が、私の心に重くのしかかる。


「篠原さん。」


肩にぽんと手を置かれ、放心状態だった私を現実に引き戻してくれる。


「あ、木南くん。」

「帰らないんですか?」

「あ、うん。帰るよ。」

「荷物篠原さんの友達から預かったんで帰りましょう。」


そう言って木南くんは私の手を取って歩き出した。

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