第5話
次の日。
担任のいつもの気まぐれにより、急遽席替えが始まる。
窓際の1番後ろの席、気に入っていたんだけど。
「よーし全員決まったな。黒板見えないとかの理由で席変わりたいヤツいるか?」
運悪く1番前の席になってしまった私は、目の前で聞こえる担任の大きな声に顔をしかめる。
「お、鈴木変わるか?じゃあ篠原、代わってやれ。」
「え?」
「ごめん篠原さん、最近メガネが合わなくなってきちゃって。」
急に名前を呼ばれ顔を上げると、クラスメイトがバツの悪そうな顔をして立っている。
「あ、いやいや!こちらこそ助かったよ!鈴木さん席どこだったっけ?」
「ここだよ、雨音。」
斜め後ろの方から声がして振り向けば、窓際の1番後ろの席で紏柚が柔らかく微笑んで隣を叩いている。
鈴木さんにお礼を言って荷物をまとめ、彼の隣に腰かける。
「窓際の1番後ろの席、今度は俺の席になったね。」
「そうだね。仕方ないから譲ってあげるよ。」
2人で小さく笑っていると、担任に怒られた。
その後、日々の注意事項や受験、就活を来年に控え素行には十分注意するようにとの話を聞き、授業が始まる。
「はい。ここで板書の時間をとるから綺麗にまとめて。今回も考査の日にノート提出してもらいますよ。」
先生の言葉に、シャーペンの芯をかちかちと出す音、文字をノートに書いている紙とシャーペンの芯が擦れる音が響く。
もちろん私は板書なんて終わっているから、この時間はいつもどうしたらいいか分からない。
ふと、強い風が吹いてきて外を見ると、今日は雲ひとつない快晴だった。
紏柚も見ただろうか。
こんな空は彼が1番好きに違いない。
そう思って彼を見ると、意外に真剣な表情で、視線を黒板とノートに移動させていた。
その横顔は、いつも見ている穏やかな表情とはまた違う真面目な顔で、ドキッとする。
「なに?雨音。」
「へ?」
「なにか俺の顔についてる?」
「あ、ううん。」
流し目で私を見る彼にドギマギしてしまう。
勘違いでもなんでもない。
私は、紏柚が好きだ。
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