第21話 親子喧嘩
「ケイトス、お前は下がれ」
「しかし、父上」
「いいから下がれ!」
親父が兄貴、ケイトス・ハイバーンを下がらせる。
「アルファンド。貴様は私が倒す。倒さねばならん」
「望むところですよ。だけど、このままじゃ差がありすぎますね」
「……どいうことだ」
「いえね。このウィルバーンの性能だと、1秒かからず終わっちゃうんですよ。だから」
「ティア、機体出力を全部下げてくれ。あっちの騎体、ハイバーンと同じ程度に」
『どういうことですか?』
「五分でやる。俺の技術でやってやる!」
『かなり勝率が低いと思われますが、仕方ありませんね』
「すまん!」
『必要な事なのでしょう。機体出力縮小。数字で表すのは長くなるので省略します。敵騎体、ハイバーンと同等まで低下させました。ついでに武装も同等に換装します。銘は「鉄の槍」。手荒に扱ったら、折れますのでご注意を』
RPGなら中盤の装備だろうか。それよりか、ウィルバーンの動きだ。これは、なんというか重たい。だけど、通る。意思は通るし、むしろこれくらいが、俺の本来のイメージなのかもしれないな。
『ただし、衝撃他世界転送装甲はそのままですよ。一撃を受けたなら、敗北を認めてください』
「我儘でごめんな」
『いいですよ。付き合うのがわたくしの矜持でもありますから』
「……ありがとう」
「では父上、いきますよ。こちらの機体出力は、そちらとほぼ同じくらいに抑えました。つまりは五分です。技と技! やってやるから、覚悟しろ!!」
「舐めるかあああ!!」
『ハイバーン』が飛び込んでくる。そして、繰り出される槍の穂先が、一気に大きく見えた。速い!
だけど避ける。幼い頃から、生まれた時から前世の記憶を持っている俺が、13年もの間、見続けた動きだから。だから、避けられる。
カウンター。半身でギリギリ穂先を避けたウィルバーンが槍を突き出す。だけど、はじかれる。どうして、そこからそんな動きが出来るんだ?
◇◇◇
時間にして3分程だけど、俺にはもう1時間にも感じられた。一瞬も集中の乱れを許さない相手の猛攻ゆえだけにだ。だけど、こっちの集中はぐんぐんと上がっていく。ウィルバーンとの一体感が増していく。
そっちは、20年もハイバーンと一緒に過ごしてきたんだろうな。対してこっちは、たった1日だ。年季が違いすぎる。だけどな。
「俺はずっと精霊騎に憧れて訓練してきたんだよ! ウィルバーンに会えたんだよ。ティアが傍にいるんだよ!!」
「だからなんだと言うんだ!!」
「あんたの20年。いや、あんたの40年。俺の13年で越えてやるって言ってるんだよ!!」
「ティア、ウィルバーン! 俺はやるぞ。やってやる! だから、付いてこい」
『さっきからずっと、付いて行っていますよ。アルファンド。貴方は今も成長しています。現に』
そうなんだ。戦況は五分と言っていい。眼とか鼻とか口から血が出そうなほど集中しながら、それでも戦えている。そんなアニメ、見た記憶があるなあ。
『集中してください』
がんがんと打ち合わされる槍もそろそろ限界か。向こうもそれは同じだろうし、親父は理解しているはずだ。
ならばそろそろ。
「うおらあああああ!」
「まあ、そうくるよねぇ!」
『ハイバーン』が今までにない速度で、槍を突き出してくる。こちらも同じだ。全力で穂先を繰り出す。
◇◇◇
『打撃判定。当機ウィルバーンは、胸部装甲に直撃を受けました。衝撃キャンセル』
「なぜ、槍を止めた?」
「『ハイバーン』は一応実家の旗騎ですからね。でも、これは」
『相打ちという表現はなんですが、そういうことになりますね』
ウィルバーンの突き出した槍は、ハイバーンの下腹部の装甲に、突き刺さっていた。ただし、精霊核は破壊していない。直前で止めたからだ。
「五分、か」
「ああ、五分だねえ」
「どうするのだ?」
「うん。精霊騎としての戦いは引き分けかな? じゃあ次は」
「次だと!?」
「ティア、ハッチ開けて」
『まったくもう。知りませんよ』
ばしゅうううん。
気圧の変化を受けたコックピットに風が流れる。
そして俺は、立ち上がる。
「さあ、次はステゴロだ。本物の親子喧嘩、受けるかい?」
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